金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米国の銀行救済ファンド、とりあえず100億ドルの利益

2010年04月06日 | 金融

先週末ある読者の方から「米銀の公的資金返済の状況はどうか?」という質問を頂き、調べようかな?と思っていたところ、タイムリーなニュースがファイナンシャル・タイムズに出ていたので、その要点をご紹介したい。

4月5日付のUS Treasury's bail-out profits top $10bnという記事によると、今のところ銀行救済ファンドは100億ドル以上の利益を得ている。コンサルタント会社SNLファイナンシャルによると、この利益に大きく貢献しているのは、ゴールドマンザックスとアメリカン・エクスプレスだ。政府の所有するワラントを09年9月に買い戻したことで、前者は年率換算20%、後者は23%の利益を政府に与えた。

SNLの報告によると、不良債権救済プログラムTARPの支援を受けた49社は援助資金を返済し、優先株やワラントの買戻しで、105億ドルの利益を政府に与えている。また政府はシティグループの持分(27%)を売り出す予定で更に利益が見込まれる。

ただしTARP全体(たしか2500億ドルだったと記憶)では、1,170億ドルの損失がでると政府は見込んでいる。これは自動車業界やAIGに関わる損失があるからだ。またSNLはTARPが出資する28のより小さな銀行については資本不足なので、損失が発生する可能性があると見ている。

以上まとめてみると、大銀行はかなりの利益を乗せて救済ファンドを返済ないし返済する見込み、小さい銀行への政府資金は損失となる可能性大、事業会社や保険会社AIGに対する政府資金では損失発生・・・ということになる。

SNLは「政府は利益を上げるために、問題銀行を支援したのではなく、金融システムの安定化のために出資した」と述べているが、政府が銀行に注入した資金で利益を得たことは、大手行を救済するために、税金を使ったという政策に対する反発をなだめる効果はあるだろう。

さて米銀大手はまずますOKとして問題の中小金融機関の不良債権の状況だが、これについては2月23日のFTに「米国の問題銀行の数が増えている」という記事があったので、こちらもポイントを紹介したい。

連邦預金保険会社FDICによると、2009年末で702の銀行が問題ありと考えられている。問題債権の総額は4028億ドルだ。3ヶ月前の時点の問題銀行の数は552で問題債権総額は3459億ドルだから、経済は回復基調にあったけれども問題銀行の数、不良債権額は増えている。ただ今回の銀行の破綻状況を1987年のS&L破綻に較べると小さい。(当時問題ありと考えられた銀行の数は2,165で不良債権総額は8330億ドルだった。)

大手銀行に発生した問題は、リセッションを引き起こしたことで実業界の問題になり、住宅ローンや商業用不動産ローンを提供する中小金融機関の不良債権増加を招いている。FTは特に商業用不動産建築ローン(コンストラクション・ローン)の比率が高い銀行は傷つきやすいと警告を発している。(アリゾナ、ネバダ、カリフォルニア、フロリダなどが危険地域)

なお銀行の収益については、2009年度の利益は125億ドルで、08年の45億ドルに較べると大幅改善であるが、その前の07年の1000億ドルに較べるとまだまだ小さい。

FTによるとFDICは2008年から13年にかけて、銀行破たんによるコストは1000億ドルになるだろうと予想している。

以上簡単ですが、ご参考までに。

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お年寄りにこそ多機能端末を普及させるべし

2010年04月06日 | デジタル・インターネット

今日(4月6日)の日経新聞社説に「ネット選挙運動を参院選から解禁せよ」という主張が出ていた。主旨については前面賛成。他国の例を見ると遅きに失してる。制度改正に対する反論の中に「ネットが苦手な高齢者と若手の間に情報格差が生じる」という意見があるということだ。一見もっともらしい意見だが、政見はネットだけで流れる訳ではなく、テレビや紙のメディアでも流れる訳だから、それ程重要な反論とも思われない。むしろ「高齢者=ネットは苦手」と固定的な観念に陥ることで思考停止を起こすドン詰まりの思考というべきだ。

15年から10年前、企業が電子メール等のIT化を進めた時、「パソコンの苦手な中高年社員は置いてきぼり食う」という議論があった。だが実際はどうだったろうか?多少の例外はあるにせよ、私の知る限りでは、多くの中高年社員はそれなりパソコンを利用し、IT化のメリットを享受している。余談になるが問題は「パソコンを使えない社員」にあるのではなく、「パソコンしか使えない社員」の方にあるのではないか?と私は考えている。

パソコン等の情報端末は所詮端末に過ぎない。つまり情報をインプットしたり、アウトプットする道具なのだ。道具は使い勝手が良くなると、オタクでなくても使うことができるようになる。例えば、マイクロソフトがウインドウズ95をローンチさせるまで、パソコンのOSがTCP-IPプロトコルをサポートしていなかったので、インターネットに接続するにはかなりの技術が必要だった。だが今ではTCP-IPプロトコルの何たるかを知らなくてもパソコンからインターネットに接続することは簡単にできる。

私が今日提案したいことは「お年寄りにこそ多機能端末を普及させそのメリットをご本人と社会が享受するべし」ということだ。多機能端末とは簡単にいうと先週米国で発売が開始されたアップルのiPad。ただしiPadがお年寄りに優しいとは思えない。FTに書いてあったが、初期設定にパソコンが必要という話だ(自分で試してない「また聞き」で失礼)。だがコンセプトとしては、携帯電話とパソコンの間ということなので、このような端末を「お年寄り」向けに改良すれば良いのではないか?と私は考えている。スペックの話は横に置き、「どのように活用するか?」を考えてみよう。

まず電子書籍、具体的には毎日の新聞の閲覧などに利用する。無論「見慣れた紙でないと嫌だ」という人は多いだろう。しかし文字を大きくしたりバックライトを明るくするとかなり使いやすくなるのではないだろうか?タッチパネル方式にして、「紙をめくる」感じでページを繰ることができると違和感は少なくなるだろう。余談になるけれど、新聞のネット配信を徹底的に低廉化するべきだ。最近日経がネット化を図ったが、あの料金の高さは異常だ。ユーザーを舐めているとしか考えれない。

新聞や電子書籍の値段が下がると、あるいは一定条件化で図書館の本を「電子的に貸与」することを可能にすると低コストでお年寄りの知的好奇心を満たすことができる。江戸末期の儒学者佐藤一斎が「老いて学べば死して朽ちず」と述べるとおり、人は生涯学習が必要だ。そして社会には生涯学習をサポートする義務がある

この多機能端末に自治体が「広報」を送ることも可能だ。近くのスーパーは「電子チラシ」を送ることもできる。また遠く離れた家族や友人から「ファックスを受け取る」感覚でメールを貰うことも可能だ。

電子ペンのようなディバイスを使い、「紙に文字を書く」要領でメールを書くことができるならば、ファックスを送る感覚でメールを出すことも可能だ。近所のスーパーにメールで注文を出し、宅配してもらうことも可能になる。

使い方によっては医療費の削減にもつながる。例えば高血圧等の慢性病で月に一回程度医者に血圧を測定するためだけに通っているような人は、自宅で毎日血圧を測定し、その結果を多機能端末にアップロードして(こういう表現をするとこれだけで嫌になる人が多いだろうが)、「家庭医」に送ることで定期的な検診回数を減らすことができるだろう。

いま私は故郷にいる90歳近い両親のことを考えながらこの記事を書いている。「これ位はできるかなぁ」とか「これは無理だろうなぁ」と思いながら。

お年寄りの「能力」や「やる気」は多様だ。だが道具に詳しい人が少しサポートすると、かなりの人が利用できるようになるのではないだろうか?もしそのようなボランティアが必要なら浅学菲才とはいえお手伝いをしたいと私は考えている。

高齢化・過疎化という日本の問題と世界トップクラスのIT技術や高速ネットワークという日本の強みを組み合わせると私には「使いやすい多機能端末」という解が見えてくる。

お年寄りの方がメールやツイッターでお互いに情報交換する姿を想像してみると良い。俳句の好きな人はツイッターに俳句を乗せる。お料理の得意なおばあさんは、レシピを紹介する。運動機能が低下したお年寄りにこそ、インターネットは必要なのではないか?

(余談になるけれど、若者にはむしろネットの世界を飛び出し、リアルな世界に生きろ!といいたい。)

もしこのようなプロジェクトを推進する上で、収入の少ないお年寄りに多機能端末を無料で配るために税金を投入するというのであれば私は大賛成だ。多機能端末が普及すると特に過疎地域の郵便配達回数を減らすことも可能だ。こうすると郵便事業のコスト軽減も可能だろう。

多機能端末を上手に活用することができると私は医療費や郵便コストなど色々な社会的なコストを低下させることが可能だと考えている。端末の初期投資など直ぐ回収できるのではないだろうか?

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