このところ米国の景気回復が軌道に乗り始めたことを示す指標が多く、米株高・米ドル高傾向が続き、日本株にも好影響を与えている。中国の胡錦濤国家主席が4月12,13日の核安全保障サミットに参加を決めたことも好材料。個人的な推測に過ぎないが、人民元の緩やかな市場連動性への移行について、米中間である程度の方向感が確認されつつあるのではないか?と私は見ている。
米国は経済のリバランスに向けて動き始めた。エコノミスト誌はThe world's biggest economy has begun a much needed transitionという記事で、この動きを歓迎しながら、幾つかの注文をつけている。同誌は更にTime to rebalanceという別の記事でリバランスの中身を説明しているが、この記事の解説は週末の作業にしよう。
米国のリバランスとは簡単にいうと「消費・住宅・借金」主導の経済から「輸出・投資・貯蓄」主導の経済に移行することだ。
エコノミスト誌はリバランスの可能性は非常に有望だけれども、確信できるというには程遠く、米国のみならず世界の政治家の舵取りに負うところが大きいと述べる。その意味では懸念されている米中の関係が改善方向に見える(例えば中国はイランに対する経済制裁を支持する方針を示した)。
昨年2.4%収縮した米国経済は、今年3%程度の成長が見込まれる。しかしこのことは米国が不況前の姿に戻ることを意味しない。住宅建設業者は以前より小さい家を建てているし、消費者はピックアップトラックではなく、乗用車を買っている。
エコノミスト誌は「消費者が収入の範囲で暮らすことを強いられる中、米国企業は商品の販路を海外に求めざるを得ない。米国が優位な高付加価値の商品やサービスにおいては、ドル安と他国の経済成長が続くとうまく行くだろう。」と述べている。
人民元についてエコノミスト誌は従来からの主張「米国が中国の人民元問題に固執することは危険で、民主党議員の一部が主張する関税引き上げは、リバランスの助けになることはないだろう」「オバマ大統領にとって自国内のリバランス問題に注力しながら、人民元は多国間教義で解決を図るべきだ」と繰り返している。
エコノミスト誌が国内政策に求めることは「長期金利を下げるように債券市場に安心を与えながら、時期尚早な金融引締策を避ける」ことである。
住宅政策について、米国政府は補助金を増やすとともに、住宅ローンの政府保証の拡大を目論んでいるが、エコノミスト誌はこれに反対している。住宅減税策をやめることで財政赤字をコントロールできるしリバランスの速度を上げることができるというのが同誌の主張だ。そして住宅助成金では「自宅の価値がローン残高以下になっているため、景気の良い地方に職を求めて移住することができない」債務者の支援を目指すべきだと述べ、オバマ大統領は正しい方向に向かっていると評価している。
エコノミスト誌は最後に「米国は長い間延び延びになっていたリバランスをやり始めた。米国の消費と借入はもはや米国とともに世界のエンジンとはなりえない。リバランスを始めたことは希望を与えるものだが、懸念はあちこちの政治家達がその結果に対処できないことである。」と結んでいる。
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米国の消費が成長エンジンでなくなったという事実に日本の経済と政治は正しく対応しつつあるのだろうか?競争力のある製品やサービスを持ち、先見性のある企業は中国等の発展途上国に軸足を移し始めている。しかし経済と政治のコンビネーションという点ではまだ韓国などに遅れている。さらに「少子高齢化」など内需の減少や変化に対する対応はもっと遅れている。
金融バブルの崩壊の大きさに目を奪われがちだが、その影で「エネルギー高」問題と「高齢化」問題も確実に大きくなっていた。リバランスはこれらの問題への対処も含むので、政治の期待される役割は大きいということだ。