今日別のエントリーでスウェーデンの福祉の話を書いた。ついでといっては何だが、スウェーデンの郵便事業の民営化状況についてもちょっと資料を見たのでその話をしてみたい。
日本では亀井郵政・金融担当相と原口総務相が「ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の完全民営化は撤回。持ち株会社に郵便局と郵便の両事業を統合し、郵便と貯金、保険の全国一律サービスを課す」仮称郵便改革法の骨子を示したところだ。
この法案で「人質」になっているのが、全国一律の郵便サービスだ。つまり不便な場所まで均一料金で郵便事業を行うと赤字になるから、金融事業の利益で補填しないといけないという主張なのだ。
ところで国情やサービスレベルが違うので、単純な比較はできないけれど、スウェーデンの郵便局(ポステンという)は1993年に独占権を失い、民営化され、かつユニバーサル・サービス(全国一律の郵便サービス)を提供しながら、なおかつ利益を上げているという事実がある。
スウェーデンの郵便の歴史は古い。ポステンが設立されたのは1636年だから日本でいうと江戸時代の初期、島原の乱の起きる1年前のことだ。さてそのポステンだが1993年に普通郵便について独占権を失った。なお小包や大量メールについてはそれ以前に自由化されていた。
自由化から15年経った2007年現在、ポステンのシェアはどうなったか?というと、91%のシェアを維持している。スウェーデンには30社を越える免許を受けた郵便業者がいるが、多少なりともポステンの競争相手となりうるのはCitymailという業者だけだ。
なおポステン以外の郵便業者は、ユニバーサル・サービスの義務はない。このため当初は僻地配達の義務のあるポステンが不利ではないか?という予想もあったようだが、結果は事実上ポステンの一人勝ちが続いている状況だ。その理由は手紙の発信者が都会部向けの郵便と僻地(ユニバーサル・サービス対象)向けの郵便を仕訳する手間を敬遠することや、ポスタルの大量処理システムのコスト優位性が優るということだろう。
また2000年代に入ってポスタルが傘下の郵便局のアウトソースを進めたことも大きいだろう。ポスタルは小型郵便局の業務を、ガソリンスタンドとかキオスクあるいはその他の小売店に委託した。ポスタルが直営しているのは都会部の400弱の郵便局のみである。
スウェーデンは人口の大部分が、数少ない都市部に住むという郵便事業から見ると効率的な?市場なので黒字が確保できるという主張があるだろう。私も日本の郵便事業の細かい収支分析をしていないので、どこをどう改善したら黒字化するという具体案を持っている訳ではない。
しかしスウェーデンの郵便改革は幾つかのことを示唆してくれる。
まず郵便事業を独占化しないとユニバーサル・サービスが確保できないというのは硬直的な考えに過ぎないということだ。国は最低1社の郵便業者とユニバーサル・サービス契約を交わせば良い。そしてユニバーサル・サービス義務を負う業者はコスト面で負けるという先入観も見直す必要がありそうだ。郵便局(正確にいうと切手販売や窓口集配を行う「郵便局会社」)の業務をコンビニエンス・ストアなどに委託するというのも、有効なコスト削減策だろう。
私は日本でこのような抜本的な改善策が出てこない理由は「郵便局の存在を前提に、あるいは郵便局を存続させるために郵便サービスを考えている」ことにあると思っている。そのような論理を展開すると、赤字の郵便業務を助けるために郵貯や簡保の限度を拡大するという転倒した暴論がまかり通るのである。
まずどうすれば郵便事業が単体で黒字になるか考える。コスト削減を徹底しても黒字にならないなら、郵便料金を引き上げるか、国が特定地域向けの集配送に補助を出しても良いだろう。
だがもう少し先を見ると私は郵便はなくならないまでも、相当部分電子メールやブログ、ツイッターなどの電子媒体に取って代わられると考えている。またエコロジーの観点からそれを推進するべきだと考えている。郵便取扱量の減少を避けることはできないのだ。それにともない郵便事業のサービス・レベルの見直しも課題になるだろう。
スウェーデンでは土日の集配はお休み。郵便の集荷は一日一回という。急ぐものは電子メールで送り、急がないけれど自分の味を伝えたいグリーティングカードなどは郵便で・・という住み分けが出来ているのだろうか?ただしこれは私の推測に過ぎないが。