佐藤直曉の「リーダーの人間行動学」 blog

リーダー育成のための人間行動と人間心理の解説、組織行動に関するトピック

リーダー感覚46――トップの行動基準と組織行動

2007-03-13 12:04:34 | 人間行動分析
企業の次のアクションを予測する際、いちばん当てになるのは、トップの性格というか行動の価値基準でしょう。今日は、これについて考えてみましょう。


◆岡野工業社長の行動
 東京・東向島でプレス業、岡野工業株式会社を営む岡野雅行さんは超有名人です。従業員6人のこの会社にはNASAを始め世界中から精密金属加工の依頼が殺到する。「誰もが不可能だと思うところにチャンスがある」と岡野さん。最近では、太さ0.2ミリの「痛みが少ない注射針」を開発したそうです。
 
 岡野さんのような人は、義理人情、浪花節的なことをとても大事にするかただと思いますね。
 
 何かの記事で読んだ覚えがあるのですが、それはこんな話でした。
 
 岡野さんは、それまで仕事を受注してきたソニーと縁を切ることにしました。以前は発注価格も高かったし、パートナーとして気持ちよく仕事ができた。ところが、最近はやたらと値切る。
 
 人間的なつながりを感じられなくなったのでしょう、ソニーの仕事は断ることにした。ただ、それだけではソニーが困るだろうから、北海製罐という会社を紹介したそうです。そして、北海製罐にはアドバイスをしたといいます。
 
 ふつうなら、「もうお宅の仕事はしない」で終わりでしょうけれど、これまでの付き合いがあるから、そこまでは面倒見るということなんでしょうが、このあたりはいかにも岡野さんらしいところだと思います。
 
 岡野工業は失礼だが小企業ですから、トップの性格がそのまま企業行動に出てきます。しかし、大きな企業でもトップの行動基準というのは、重大な意志決定のときになれば必ず見えてくるものだと私は思います。
 
 
◆楽天の今後の動向
 昔は松下さんとか、本田さんのように、非常に強い個性の持ち主がいて、そのキャラクターが会社の行動にはっきり結びついているのがすぐわかりました。
 
 今は、そういう強い個性のリーダーがあまり見られない。本当はいるのでしょうが、かつての松下さんや本田さんのように目立たなくなったのでしょう。そういう時代になったのだと思います。
 
 むしろ、個性という面では、ホリエモンの方がはっきりわかりますね。もうすぐ判決が出るそうですが、今では半分忘れられたような存在になっていますね。
 
 最近では、楽天の三木谷社長が、TBSとの提携を考え直しているようです。楽天の保有するTBS株式の信託期限が先月末で切れたというニュースが出ていましたね。
 
 楽天はTBS株を20%弱持っていたものの、TBSとの事業提携協議を行う条件として、半分の10%を信託して、株主権限を半分行使しないと約束したわけです。
 
 楽天がTBS株式を取得してから1年半たち、この事業提携協議を解消し、信託をやめたということです。
 
 これはどういう意味があるのかですね。TBSの株価は上下に変動してきましたが、今ではTBS株価は5000円台に乗っています。
 
 それを受けて楽天には現在は含み益が発生しています。保有しているTBS株式を全部売却すれば数百億円の利益(もっとかもしれませんが楽天に入ってくるそうです。

 楽天の2006年度の営業利益は300億円程度でしたので、それに匹敵するか、あるいはもっと大きな売却益がTBS株式の売却で入ってくることになります。
 
 さて、こういう状況で楽天がとるコースには二つあります。
 
 第一は、提携協議をやめて、再びTBSを支配下に置くことを考える。
 
 第二は、TBSの株式を売却する。
 
 第一の場合の難点は、TBSが防衛対策としての固定株主化を進めていて、50%をとるのは難しい状況にあるということです。
 
 第二の場合の難点は、TBSの株価を売ろうにも、大量な株数を引き受けてくれるところがあるかどうか、という点です。
 
 私は三木谷社長のことは知りませんので分析できる立場にはありませんが、第二のコースなのではないでしょうか。
 
 要は、三木谷さんが、目標を簡単にあきらめたりしないで、執拗に追いかけるタイプなのか、それとも、時々の状況に臨機応変に対応していく変わり身の早いタイプなのか、ということです。
 
 それさえわかれば、今回の事業提携協議を解消したあとのコースが比較的容易に予想がつくことになります。
 

◆国家の行動も同じ
 最近アメリカの北朝鮮に対する意識が、とみに減衰しているように思えます。
 
 結局、ブッシュ大統領にとって重要なのは、イラク政策なのです。私は拙著『リーダーの暗示学』で、ブッシュ大統領に触れています。やや長いですが、ここに掲載しますので、お読みください。なお、この本の内容は2005年夏ころの状況とお考えください。
 
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オレンジタルトの呪縛
 私を含む数名のコンサルタントと二人のクライアントが、昼食をとったときのことである。食事が終わるとケーキを乗せたワゴンがやってきた。どうしてそうなったのか思い出せないのだが、何かのはずみで、クライアントではなく、我々スタッフからケーキを選ぶことになった。
 
 特に、うまそうに見えたのがオレンジ・タルトだった。こいつは秀悦で、あたり一面が黄金色に輝いていた。誰の目にもそれは明らかだったから、みなそれからピックアップしていく。コンサルタントの中で私は最後だったため、私の番がきたときには、オレンジ・タルトは二つしか残っていなかった。
 
 やっときた――そう思ったとき、私はふと二人のクライアントと目が合った。すると、彼らもオレンジ・タルトをほしそうな目つきをしているではないか。
 
 オレンジ・タルトはあと二つ。人間は三人。仕事をするより真剣に計算したが、どうしても足りない。一縷の望みをかけて再度計算し直したが、どうしても数が合わない。

 ここに至っては是非もなし。私はやむなくチョコレート・ケーキを選んだ。案の定、クライエントたちはオレンジ・タルトを選び、幸せそうな顔をしていた。
 
 帰り道、私は上司に言った。
「オレンジ・タルトは実にうまそうだったなあ。クライアントがほしそうな顔をしていたから譲ったけれど……」

 上司はハッとして、クライアントの扱いにミスがあったと、ようやく気がついたようである。

 それから、しばらくの間、食事になると私の頭にオレンジ・タルトが浮かんだ。

 数日後、上司が例のレストランに行こうと私を誘い、「好きなだけオレンジ・タルトを食べていいぞ」と言ってくれた。

 私はお言葉に甘え、オレンジ・タルトをいただいた。もっとも、いくら好きなだけ食べていいとは言われても、また、大の甘党の私であっても、世間体というものがある。それに食後のことだ。四つも五つもは無理だ。

 しかし、ともかくも、これでようやく私はオレンジ・タルトの呪縛から切り離されたのである。

もっと怖いオレンジ・タルト
 何かの原因で、それまで喜んでやっていたことを止められると、欲求不満に陥る。そして、欲求は、中断される前よりもっと激しくなる。
 
 現在のアメリカ副大統領チェイニーは、1990年の湾岸戦争当時、国防長官を務めており、イラクへの本土攻撃を強硬に主張した人物である。しかし、このときは先代のブッシュ大統領や参謀総長パウエル(現国務長官)が反対し、本土攻撃は中止された。
 
 中断されたチェイニーのエネルギーは、捌け口を求めていたように思われる。アメリカが執拗にイラク攻撃をしたがったのは、このことが原因の一つではないかと私は考えている。
 
 ブッシュ・ジュニアも、先代の果たせなかったことをやってみせたいという野心があった。これは見え見えだ。いかにも二代目が抱きがちそうな夢である。
 
 ラムズフェルド国防長官は、かつて先代ブッシュのライバルとして大統領レースを争い、敗れた人物である。その男が、彼の息子の部下になってまでやりたかったことは何か。これも、先代ブッシュを超えることだろう。
 
 彼らは長い間オレンジ・タルトを望み、ようやくそれにありついたわけだが、はたしてそれでよかったのだろうか。ひょっとしたら、彼らは食あたりをしたと思っているかもしれない。
 
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 このようにブッシュ大統領にとって、イラクではどうしても失敗できないのです。しかし、ラムズフェルドも去り、相当追い詰められていることは事実です。焦っているのは間違いない。なんとかしないといけない、と思っているはずです。
 
 そうなると、swing せざるをえない。swingというのは、長い戦線のなかで、一部の兵力を別の地域に移すということです。つまり、東アジア、特に対北朝鮮の兵力をイラク方面に移すということです。
 
 となれば、アメリカとしては、北朝鮮の方面は今はとりあえず膠着状態でいてほしい、おとなしくしていて欲しいと願っているでしょう。
 
 ということで、日本の対北朝鮮戦略は今は再考せざるを得ない状況にあるわけです。イラクが簡単にかたづけば、アメリカは対北朝鮮に対して、以前のような厳しい態度に戻るかもしれませんが、そうでないと、アメリカは頼りになるべき存在ではなくなるかもしれません。


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