堺北民主商工会

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深い理解

2008年05月16日 11時14分06秒 | 世間の話
 長嶺ヤス子(72歳)は日本を代表する舞踏家である。彼女は1936年、会津若松市に生まれ、3歳の時からモダンバレエを習い始め、「踊り」に携わって60年余になる。踊るのは情熱の国・スペインのフラメンコ。フラメンコを踊らせたら日本では彼女の右に出る者はいない。20数年前には「道成寺」で芸術祭大賞、2001年には紫綬褒章を受章している。また、演目「曼蛇羅」でヨーロッパ公演を行い、世界平和を祈願して廻った。(無類の猫好きとしても有名)
72歳になっても彼女の踊りが力強いのは体力維持を目的に30年間、毎朝続けているランニングにある。5㎞のランニングコースを歌いながら走るのは心肺機能を維持、向上させるためだ。
 しかし、それ以上に彼女の踊りが魅力的なのは表現力の素晴らしさにある。曲が伝えたい作者の意思を深く理解し、全身全霊で見事な踊りで表現していく。そんな彼女が先月、27日に東京の歌舞伎座で「ある挑戦」を行った。
それはフラメンコダンサーが演歌を踊ると言う「挑戦」だった。今まで、彼女は長唄など日本古来のものに挑戦して来たが、演歌の題目は初めてである。演歌に対する彼女のイメージは「ジメジメしたもの」「いやらしいもの」「くらいもの」だったそうだ。しかし、演歌の歌詞を読んだ時、短い文章で作られたにも拘らず、その言葉の深さに気付いたと言う。そうなると彼女の「踊り心の虫」は、もうどうにも止まらない。踊る演目は坂本冬美の「夜桜お七」をはじめ、石川さゆりなど演歌の大御所の曲ばかり。カスタネットも使い、見事な舞を披露した。彼女が演歌を踊る事を決意したのは「私は日本人」と言う単純な事だった。「日本人がフラメンコを踊れるのだから、演歌を踊れるのは当たり前よ」と、いとも簡単に言い放つ。しかし、彼女のこの言葉は72歳までに培ってきた踊りの深さ(修練と老練さ等)が無ければ言えるものではない。
 物事を受け止める力はその人の知性、経験、理解の豊富さに拠るところが大きい。そして、これらの豊富さが表現する力を左右する。現代社会は目まぐるしいスピードで毎日が過ぎ去っていく。こんな時代だからこそ、私達は豊富な知識と経験を元に何事にも熟達し、そして、物事を冷静に判断する思慮深い人にならなければ海の藻屑と化し、消え去ってしまう運命となる。