総理がコジキでコジキがソーリィー 119 博、クラス委員 「こいつの持ち物検査だ」 「博くん、そんなこと、あなたがする権利があるの?」 と、クラス委員がいった。 「あるの、今日から、ぼくがクラス委員になった。今まで“いじめ”があったのに、それを黙認していた人物には、どう評価するかは決めていないそうだけど、どう評価されるかは……、その人物の出方しだいだろうなあー」 クラス委員は静かにした。いや、元クラス委員である。 「黒沢と三沢がクラス委員になった方がいいと思うよ」 元クラス委員は冷静にのべた。 いじめの張本人、それは博だったのに、こいつよくも言えたものだと思う。 力のある方が勝つ社会。 弱肉強食の野蛮な社会、それがこの名門校の実質だ! 「生徒だけで決めただけでは、それは成立しないね。校則というのがあるんだ。先生の承認が必要だ。国家の総理だって同じことだろう……。もっと、母校愛をもてよ!」 「でも、私たちは決めてないわよ」 「校則にきちんと書かれてある。緊急の場合は、成績の上位の者がなり、校長が認めれば、それで成立ってわけさ」 「そんなことまで決めてあるのか」 「そう、学園紛争の歴史があったからね……」 子分が近づくと、黒沢は、ヒクヒクと笑って、 「おれ、こんな学校退学するぜ。博、それでいいだろう」 と、クールにこたえた。 心の内では博らしいなあーと思う。 だけど、博はそんなことで非難されたなどとは思わない。 「別に、それが君の意志なら、それを僕が何とかいうことはできないね。君の自由なんだ。ただ、君はもうエリートじゃなくなったってことさ。さっさと帰れよ」 博の本音が出た。 三沢少年は何をいっていいかわからなかった。止めないといけないと想ったけど、何を言っていいかわからなかった。 こんなときには、なんでもいいから、言ってしまえばいいのに、きちんとしたことを言わないと、博に負けると、三沢少年は想っていたのだ。 三沢少年が博に勝ったことは一度もない。負け犬根性がすっかり植え付けられているといってもいい。 昨日はたまたま、佐藤美智子という生徒会長がいたから、幼なじみの彼女がいたから、三沢少年は手をあげたまでのことだったのだ。彼も唇をかんだ。 --黒沢は肝に命じた。 見かけは、民主主義だけど、ひどい独裁をしいている。 ここで、黒沢は思い出した。 「民衆を奴隷にするだけでは足りません。民衆が奴隷となることを希望するように愚民にしなければなりません。」『ロマン・ロラン全集5 クレランボー』/みすず書房 1979年、3刷より エリートであっても、愚民ならば、そんな多くの人の迷惑になる。いや、人殺しさえ平気になってしまうエリートになんか、こちらから蹴るぞ! あわれなエリートどもよ! おまえたちなど、どんなことがあっても、同情するものか! おまえたちの不幸にする者のことを知れ! 黒沢は、教室のドアをしめるとき、こいつらを目に焼き付けておこうと、ジロリと見詰めた……。
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