龍の声

龍の声は、天の声

第3話「料亭 駒我家でのエピソード」

2024-06-27 05:46:54 | 日本

「おーい、トンカツ!トンは何処にいるんだよ」ふらふらとかなり酩酊した状態で、山本中尉の怒号が辺りに響く。やがて怒号は泣き声に変わり、周りの人を捕まえては、すがるようにトンカツの行方を探し求めるのであった。
通称「トンカツ」とは、芸奴・秀勝。目の大きな色気のある芸奴である。山本中尉は、この秀勝にぞっこん惚れ込んでしまっていたのだ。
叔父もホトホト困り抜いていた様子で、秀勝を押入れに隠そうとしたり、離そうと試みたりしたが上手く行かず、結局、リーダーの松本中尉に相談したのであった。
「この戦時下で、軍人として国を守り、アメリカと戦ってもらわねばならない身、ましてや帝国海軍が女にうつつをぬかしては困るんだ!他の軍人に対しても士気にも関わる問題であり、惚れたハレタの状況ではない!」と。だが、叔父の心配をよそに、益々、山本中尉の恋情は燃え盛るのみであった。

状況をよく理解していた同僚で、しかも仲が良かった松本中尉もとうとう堪忍袋の尾が切れたらしく、ある夜、料亭の裏庭に山本中尉を呼び出しした。
「おい!山本!俺がこれから何を言わんとするか分かってるだろうな。貴様、それでも帝国海軍の軍人か?この時期に、女にうつつをぬかす時か!俺たち軍人は女に惚れちゃいけねえんだ。それくらい分かっているだろう。おい、山本!眼を覚ませ」と言って、「バシッ!」と平手打ちのビンタの音がとどろいた。

私は、木陰に身をひそめ、一部始終、息を呑んで見つめていた。ドスの効いた松本中尉の声に、山本中尉もヘタヘタと地べたにしゃがみ込み、子供のようにいつまでも泣きじゃっくっていた。やがて松本中尉に抱きかかえられて風呂場へと向っていった。ハンサムな山本中尉の顔にはアザで腫れぽったく、叔母が一生懸命にメンソレタームを塗ってあげていた、そばで松本中尉が心配そうに目を向けながら、手酌で一杯やっていた。







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