龍の声

龍の声は、天の声

「石田梅岩とは、③」

2019-04-05 17:39:57 | 日本

2-2.倹約こそが繁栄をもたらす

また、石田梅岩は、倹約の重要性についても説きました。
倹約も正直と同様に繁栄していくために非常に重要な概念です。
倹約というのは、例えば「三つ必要なものを二つで済むように工夫すること」です。
そうすることによって、経済的な余裕が生まれていきます。
ただし、重要なのは、この経済的生まれたお金を何に使うかです。
自分の欲望を満たすために使う
人や社会に尽くすために使う
梅岩は、自分の欲望を満たすための倹約を真の倹約とは言わず、これはただのケチであると言います。
というか、そういう目的でする倹約は、自らの身を滅ぼし、繁栄の道から大きく遠ざかるものになります。
倹約することによって、人は本来持っている「正直な心」も取り戻すことができると梅岩は説きます。
倹約を主張するのは、人間が生まれながらに持っている本然の正直に返したいがためです。天命によってこの世に生を受けた人間は、もともと全て天の子です。だから万民はそれぞれ平等で一個の小天地のようなものなのです。小天地であるからこそ本来、不動で惑わされることもなく、また私欲もないはずです…私欲を離れて、あるがままに処理することが正直というものです。その正直をそれぞれが実践すれば、世間に生きる者はみんな仲良くなり、世界中の人々も兄弟のようになるでしょう。(『魂の商人石田梅岩が語ったこと』山岡 正義)
「正直さ」というのは、人間は本来、誰でも持っているはずですが、大抵の人は欲望の奴隷になり、失ってしまっています。
特に今の時代はそうです。
西欧的な価値観が入り、「消費こそが幸せ」だという価値観が蔓延しているからです。

例えば、起業する目的が「経済的自由と時間的自由を手に入れるため」という人は非常に多いです。
要するにこれは、お金を儲けて、時間の自由も手に入れて、自分のために好きなだけ、海外旅行、車、家、ブランド品、洋服、異性などに使えれば、それこそが幸せという状態ですね。
でも、この行き着く先は、「お金こそが全てであり、自分さえ儲かれば、何をしても良い」という状態になります。
お客さんに対しても、パートナーに対しても、下請け企業に対しても、同じ業界の企業に対しても、そういうスタンスで付き合うようになります。
でも、そういう状態になってしまえば、商売が長続きしないのは目に見えています。
商売で重要なのは、いかに私欲を離れることができるかです。
私欲を離れた行為に対して、人は共感し、動くんです。
世のため人に尽くすための倹約というのは私欲を離れる行為の何ものでもありません。
伊藤忠商事の創業者の伊藤忠兵衛は、「三分利益」という制度を作り、このことを実践していました。

「三分利益」とは、店で上がった利益は
・主人
・奉公人
・将来の不測のための備え

で、それぞれ3分の1ずつするという制度です。
これは江戸時代では珍しいことでした。
特に奉公人に対して利益を分配するということろはそうですね。
というのも、奉公人というのは、住み込みで、商売の基礎を叩き込んでもらう代わりに、給料は全然もらえないというのが普通だったからです。
この制度は、私欲に取り憑かれて、自分の利益のことばかり考える経営者からすると、「あり得ない」制度です。
というのも、単純に経営者としての自分の儲けが減ってしまうからです。
でも、伊藤忠兵衛は、この三分利益を採用したことによって、大きな恩恵を受けることになります。
というのも、三分利益を採用したことによって、頑張れば頑張る分だけ、奉公人は自分の給料が増えると確信し、より熱心に業務に励んだからです。
それによって、事業もさらに拡大していきました。
また、伊藤忠兵衛は「牛鍋の日」という日を月に何回か設けて、奉公人にすき焼きを振舞ったり、時には芝居に連れて行ったり、相撲を見に連れて行ったりしながら、部下との関係性をより深めていったそうです。
当時であれば、最終的には店を独立していくのが普通ですが、忠兵衛は奉公人から絶対的な信頼を確立したので、非常に有能な人材を自分のところに抱えておくことに成功しました。
また、将来の不測のための備えもしているので、災害や、経済危機が起きたとしても、柔軟に対応することができます。
そういう商人は、人としての温かみがあり、目の前の人のことを大切にし、だからこそ、信用され、繁栄していくことができるのです。
商売をし、欲望に取り憑かれるとそういう心を忘れてしまいがちになります。
だからこそ、倹約は重要なんですね。


2-3.天地自然に即して生きる

石田梅岩の主著『都鄙問答』の冒頭は以下の言葉から始まります。
この天地はなんと広大無辺なものであろう。あらゆるもの一切が天から生成され、その秩序が全てを根元で支配している。雲が流れ、雨が降り、万物の姿と形が作られ、しかも点はいっときも静止することなく、絶えず変化し続けており、生きとし生けるもののおのおのあるべき命をそれぞれに生かしている。この天が与える楽しみは実にはかり知れない面白さに満ちている。それ以上、付け加えるものは何一つしてない。(『魂の商人石田梅岩が語ったこと』山岡 正義)
神道、四書五経などありとあらゆる学問を勉強し続けて、梅岩が辿り着いた境地はこうです。
つまり、天地は完全であり、その天によって万物の姿と形が作られます。
そして、その万物は、それぞれ「性」という天地自然の理を授かり、その理に従って生きるからこそ、命が最も輝き、お互いを生かし合い、調和のとれた世界を作ることができます。
逆に言えば、万物が「性」という天地自然の理に沿って生きないときは、衰退・消滅へと向かうということです。
これが石田梅岩が悟った境地でした。
では、人における天地自然の理とは何か?
それは職分です。つまり、その職で全うしなければならない役割です。
その職分を追求することは、この世界の繁栄・発展に繋がります。
それはどんな職業にもあります。
逆に、この職分を見誤ってしまえば、衰退・消滅に向かうということです。
ただ、自分が儲けることだけを考えて仕事をし、お客さんや仕事仲間から搾取してしまえば、人は自然と離れていくでしょう。
万物というのは、関係性の中でしか成り立ちません。一個体として完全なものなど存在していません。
だからこそ、万物にはそれぞれを活かし合うための役割があり、それに沿った生き方にこそ、本当の幸せや心の平安があるのです。
そして、石田梅岩は、この天地自然の理の獲得することこそが学問をする目的だと語りました。


◎まとめ

・商人は正直で、誠実であれ
・倹約こそが繁栄をもたらす
・天地自然の理に即して生きる

梅岩が説いたのは、商売人として、人として本当に繁栄・発展するための道です。
繁栄・発展するためには、いかに、私欲を離れて、天地自然の理に即して生きることができるかが問われます。
どんな職業についていても、どんな状況に置かれていても、万物を生かし合うために、人にはそれぞれなすべき役割が与えられています。
その職分に対して、どれだけ正直で誠実に向き合い、実践できるかどうかが繁栄・発展するか、衰退・消滅するかが決まります。


<了>









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