それはまるで、荒廃した不毛の土地に漂う蜃気楼を茫然と眺めているかのような、または、夢幻の世界に無造作に放り出されて、その身の回りにたゆたう澱んだ空気に絡め捕られ、なすすべもなく遠くに視線を投げ出したかのような、とにかく悠久の退屈さに辟易としつつある冷たい表情で、妻が私に顔を向けている。
妻の言いたいことは解かる。しかしながら、せっかくの夫婦団欒の謎解きタイムではないか。もう少しテンション上げて乗っかってくれてもいいぢゃないか・・・。
そんなワケで私は、この冷め切った状況を打破するべく、手っ取り早く真相に辿り着く言を放つことにした。
「ではここで、問題を突き詰める角度を変えてみることにしよう」
「・・・・・もういいって、おやすみ」
「あぁぁ!待て待て!ホント、すぐ済むから。そんで『アッ!』と驚くタメゴローなんだから」
「・・・・・つまんねぇ」
「まあまあまあまぁ。もうちょっと探偵気分を味わいたいんだよー」
「しょうがない、で?」
「よし!では、気を取り直して。
『犯人は何故、デブなのか?』
それを突き詰めていけば、自ずと真相が浮かび上がってくるのだ」
「は?食い過ぎでしょ?そして『犯人』って?なに?」
「ふふふ・・・確かに、安易な発想に飛びつくなら、ソコに行き着くだろうが、もう一歩、踏み込んでみよう。そこでエロ本の問題だが、私の友人にヒデミチ博士という人物がいるのだが、彼の提唱する『オナニーダイエット』の理論によれば、
『毎日オナニーしているヤツは太らない』
と、いうことだ」
「いや、ちょっと・・・話がおかしい方向へ行ってませんか?そして『犯人』って?」
「まぁ焦るな。
すなわち、その理論から基づくと『犯人はそのエロ本でオナニーはしていない』と結論づけられる。しかしながら、私の確固たるエロ本の使いみちは『オナニー』しかあり得ない!と結論づけられるのだ。
どうだろう、この相反する二つの結論をなんら矛盾もなく融合させるとしたならば、答えは一つ。それは・・・」
「それは・・・?」
『犯人はデブの着ぐるみを着た男である』
「はぁ?だから『犯人』ってなに?っていうか、そんなの着ぐるみなんか着てたらすぐに解かるって!」
「ソレが着ぐるみであるという証明は・・・・」
「オ、オイっ、アタシの質問はスルーかよ・・・」
「現金の支払い方法だ」
「はい?」
「オマエが言ったではないか『小銭いっぱい持ってるのに絶対にお札出す』と。どんなに精巧な着ぐるみであろうと、やはり手先を器用に動かすのは至難の技。しかもデブの着ぐるみときたもんだ」
「いやいやいや、ちょっと。そんな着ぐるみなんてある訳ないぢゃん。よしんば存在していたとしてもバレバレでしょ?」
「ふんっ、オマエはミッション・イン・ポッシブルのイーサンの見事な変装術を知らないのか?」
「そりゃ映画の話だろ!現実問題としてそれはあり得ないって!」
「もうひとつ、ソレが着ぐるみだと裏付ける証拠が・・・・」
「またスルーかよ・・・・」
「夜用ナプキンだ!」
「は?」
「要するに、それはほぼ毎日夜用ナプキンを購入する謎と直結するのだ。
『犯人は、着ぐるみの中にナプキンを敷き詰めて流れ出る汗を吸収している』
のだ。
もちろん、そのナプキンの嵩(かさ)によりデブの肉感を出すという一石二鳥の役割だ」
「・・・・・でも、そこまでしてエロ本を買う必要があるの?だって、男なら別に毎日買っていっても、そんなもんじゃない。それが恥ずかしいんなら他の店へ行ってローテーションすればいいわけだし・・・」
「ふむ、そう思うだろうが、犯人が解かれば、オマエも納得するはずであろう。その哀れな行動の意味を・・・」
「えっ!犯人も解かってるの!っていうか『犯人』とかじゃないし!」
「うむ、着ぐるみの中の男は、おそらく・・・・」
「おそらく・・・・?」
「レジ台にチンコをのっける、そう『アピール』君だ!」
「また、古い話を・・・(2007年11月5日【アピール】にて)」
「そこで彼のエロ本に対する執念が並々ならぬものであることが窺える。しかしながら、オマエたち店員に軽くあしらわれ、いわんやその恥辱は想像するだに恐ろしきものである!」
「いや、それなら、他の店行けばいいぢゃん」
「ふっ、行ってるんだよ・・・・」
「えっ!?」
「そう、彼はおそらく、他の店でも同じ扱いを受け、恥辱にまみれながらも、エロ本に対する執念は衰えることを知らず、毎日毎日、デブの着ぐるみを着込んでエロ本とナプキンを買い続けているのだ!
なんとも切ない話ではないか!私は・・・私は、彼のそのエロ本偏執狂っぷりに涙する!いや、もはや畏敬の念すら込み上げてくる!」
「・・・・・それが、真相?」
「そうだ」
「ホントに、コレでいいの?」
「・・・・・」
「っていうか、この推理、や、妄想、自分で正解だと思ってんの?」
「いや、全然。そんなことあるワケないぢゃん。あははーん」
「むかつくなぁ・・・じゃあ、ホントの本当の真相は?」
「知らねーよ。本人に聞けばいいぢゃーん。『なんで毎日エロ本とナプキン買うのぉ?』て。あと、体重も訊いとけよ。わはははは!」
「・・・・・・・・・・・」
それはまるで、荒廃した不毛の土地に漂う蜃気楼を茫然と眺めているかのような、または、夢幻の世界に無造作に放り出されて、その身の回りにたゆたう澱んだ空気に絡め捕られ、なすすべもなく遠くに視線を投げ出したかのような、とにかく悠久の退屈さに辟易としつつある冷たい表情で、妻が私に顔を向けている。
しかしその、冷たい眼差しの奥深くに煮えたぎる灼熱の怒りが漲っていることも、見逃すことのできない真理なのである。
(完)
注) 私と妻のやりとりは創作以外の何ものではないが、このデブ・・・失礼、『謎の女』は実在していて、今でもほぼ毎日、夜用ナプキンとエロ本を買っているという話だ。そう、いまだにこのデ・・・女は、『謎の女』のままなのである。
妻の言いたいことは解かる。しかしながら、せっかくの夫婦団欒の謎解きタイムではないか。もう少しテンション上げて乗っかってくれてもいいぢゃないか・・・。
そんなワケで私は、この冷め切った状況を打破するべく、手っ取り早く真相に辿り着く言を放つことにした。
「ではここで、問題を突き詰める角度を変えてみることにしよう」
「・・・・・もういいって、おやすみ」
「あぁぁ!待て待て!ホント、すぐ済むから。そんで『アッ!』と驚くタメゴローなんだから」
「・・・・・つまんねぇ」
「まあまあまあまぁ。もうちょっと探偵気分を味わいたいんだよー」
「しょうがない、で?」
「よし!では、気を取り直して。
『犯人は何故、デブなのか?』
それを突き詰めていけば、自ずと真相が浮かび上がってくるのだ」
「は?食い過ぎでしょ?そして『犯人』って?なに?」
「ふふふ・・・確かに、安易な発想に飛びつくなら、ソコに行き着くだろうが、もう一歩、踏み込んでみよう。そこでエロ本の問題だが、私の友人にヒデミチ博士という人物がいるのだが、彼の提唱する『オナニーダイエット』の理論によれば、
『毎日オナニーしているヤツは太らない』
と、いうことだ」
「いや、ちょっと・・・話がおかしい方向へ行ってませんか?そして『犯人』って?」
「まぁ焦るな。
すなわち、その理論から基づくと『犯人はそのエロ本でオナニーはしていない』と結論づけられる。しかしながら、私の確固たるエロ本の使いみちは『オナニー』しかあり得ない!と結論づけられるのだ。
どうだろう、この相反する二つの結論をなんら矛盾もなく融合させるとしたならば、答えは一つ。それは・・・」
「それは・・・?」
『犯人はデブの着ぐるみを着た男である』
「はぁ?だから『犯人』ってなに?っていうか、そんなの着ぐるみなんか着てたらすぐに解かるって!」
「ソレが着ぐるみであるという証明は・・・・」
「オ、オイっ、アタシの質問はスルーかよ・・・」
「現金の支払い方法だ」
「はい?」
「オマエが言ったではないか『小銭いっぱい持ってるのに絶対にお札出す』と。どんなに精巧な着ぐるみであろうと、やはり手先を器用に動かすのは至難の技。しかもデブの着ぐるみときたもんだ」
「いやいやいや、ちょっと。そんな着ぐるみなんてある訳ないぢゃん。よしんば存在していたとしてもバレバレでしょ?」
「ふんっ、オマエはミッション・イン・ポッシブルのイーサンの見事な変装術を知らないのか?」
「そりゃ映画の話だろ!現実問題としてそれはあり得ないって!」
「もうひとつ、ソレが着ぐるみだと裏付ける証拠が・・・・」
「またスルーかよ・・・・」
「夜用ナプキンだ!」
「は?」
「要するに、それはほぼ毎日夜用ナプキンを購入する謎と直結するのだ。
『犯人は、着ぐるみの中にナプキンを敷き詰めて流れ出る汗を吸収している』
のだ。
もちろん、そのナプキンの嵩(かさ)によりデブの肉感を出すという一石二鳥の役割だ」
「・・・・・でも、そこまでしてエロ本を買う必要があるの?だって、男なら別に毎日買っていっても、そんなもんじゃない。それが恥ずかしいんなら他の店へ行ってローテーションすればいいわけだし・・・」
「ふむ、そう思うだろうが、犯人が解かれば、オマエも納得するはずであろう。その哀れな行動の意味を・・・」
「えっ!犯人も解かってるの!っていうか『犯人』とかじゃないし!」
「うむ、着ぐるみの中の男は、おそらく・・・・」
「おそらく・・・・?」
「レジ台にチンコをのっける、そう『アピール』君だ!」
「また、古い話を・・・(2007年11月5日【アピール】にて)」
「そこで彼のエロ本に対する執念が並々ならぬものであることが窺える。しかしながら、オマエたち店員に軽くあしらわれ、いわんやその恥辱は想像するだに恐ろしきものである!」
「いや、それなら、他の店行けばいいぢゃん」
「ふっ、行ってるんだよ・・・・」
「えっ!?」
「そう、彼はおそらく、他の店でも同じ扱いを受け、恥辱にまみれながらも、エロ本に対する執念は衰えることを知らず、毎日毎日、デブの着ぐるみを着込んでエロ本とナプキンを買い続けているのだ!
なんとも切ない話ではないか!私は・・・私は、彼のそのエロ本偏執狂っぷりに涙する!いや、もはや畏敬の念すら込み上げてくる!」
「・・・・・それが、真相?」
「そうだ」
「ホントに、コレでいいの?」
「・・・・・」
「っていうか、この推理、や、妄想、自分で正解だと思ってんの?」
「いや、全然。そんなことあるワケないぢゃん。あははーん」
「むかつくなぁ・・・じゃあ、ホントの本当の真相は?」
「知らねーよ。本人に聞けばいいぢゃーん。『なんで毎日エロ本とナプキン買うのぉ?』て。あと、体重も訊いとけよ。わはははは!」
「・・・・・・・・・・・」
それはまるで、荒廃した不毛の土地に漂う蜃気楼を茫然と眺めているかのような、または、夢幻の世界に無造作に放り出されて、その身の回りにたゆたう澱んだ空気に絡め捕られ、なすすべもなく遠くに視線を投げ出したかのような、とにかく悠久の退屈さに辟易としつつある冷たい表情で、妻が私に顔を向けている。
しかしその、冷たい眼差しの奥深くに煮えたぎる灼熱の怒りが漲っていることも、見逃すことのできない真理なのである。
(完)
注) 私と妻のやりとりは創作以外の何ものではないが、このデブ・・・失礼、『謎の女』は実在していて、今でもほぼ毎日、夜用ナプキンとエロ本を買っているという話だ。そう、いまだにこのデ・・・女は、『謎の女』のままなのである。
まぁ要するに、「真剣に考えるほどの値はない問題」ということだ!
それにしてもアレですね。
「小銭を全く使わないで札を使う&普通じゃないっぽい」
の辺りが、もう答えなんでしょうね。
エロ本を買う度胸があるのが、羨ましい限りでごじゃいますっ。
こう、額の汗を拭うときとか、「今日も暑いですねー」って、ナプキン。
ダラ子さんなら、許されます。
答えはみんなの中にあります。えぇ、真実はときにあやふやなほうが良いときもあります。(逃げ腰
エロ本購入は、鈴木さんに頼むのがベストかと。。。