51◎台湾に珍しい植物はありませぬか
(前半)
台灣の珍しい植物は専門家に云わせましたら随分ありませうが素人の私は只大概の處を申し上げます 前に申し上げた他に左の植物があります。
檳榔樹、之は南洋植物で皆さん南洋の寫眞(しゃしん)などご覧になれば必ず傘を開いた様な幹の真っ直ぐで長く その先に一箇所の周りに「シュロ」の葉の様なのが傘の様に開いて居る木がありませうそれが檳榔です、その葉のでた根本に鈴の様に生って居るのが檳榔子(びんろうじ;實のこと)で台灣南部の人は之を噛むんで歯を黒赤く染めて居ります之は歯が大層丈夫になるともうして居ります。
椰子(やし)椰子も南洋より移植したのがありますが未だ餘り沢山にはありませぬ。
「サイゼルヘンプ」南洋移植である台灣南部に盛んに栽培して居りますこれは例の「マニラ」ロープの原料になるのである此の繊維で 筅子(ハタキ)拂子(ホッス)等を拵らえて売って居るのが盛んに売れます近来内地にも移入して居ります。
林投(りんとう)は台灣全島至る處の平地に無尽蔵に野生であります「シュロ」科に属する植物で、その葉には棘があります此葉の繊維を漂白して純白として之にて夏帽子を製造する会社があります之が即ち林投帽であります。
蛇木(しゃぼく)之は山中にある木でちょっと我が内地の「鬼ゼンマイ」の大きい様なもので、丈は1丈5、6尺に及ぶものもあります、その形は傘を開いた様に一箇所から四方に開いて居ります葉の形は「鬼ゼンマイ」の開いたものと似て居ります年々葉の落ちた跡が蛇の鱗の様になって居りますから蛇木(しゃぼく)と云うのですが之を花生け又は筆立てにすればその鱗形が大層見事で賞美せられます。
黒柿、黒柿は台灣の恒春地方の山中の野生にあります、昔は随分ありましたそうですが今は乱伐又は山焼け等の結果若木ばかり至る處にあります、黒柿の實は小さな鶏卵大で白毛が一面に生えて居りますが形は柿であります、台灣人は之を毛柿(もうきー)と申しますこれで造る種々の製作品は内地の黒柿とは異はありませぬ。
菊花木、之は一種の蔓科植物で蕃界至る所にあります、太い藤の蔓の様なもので太いのは1尺5寸周り位のものがあります之を横に切れば菊の花の様な模様があります、それで菊花木と云うのでありますが之で茶托(ちゃたく)、煙草いれ、楊枝入れ、その他種々の器物を作製しますが随分見事なものであります。
藤蔓、之も蕃界に至る所に野生でありますその太いのは「コップ」大のがあります、籐椅子、籐籠、行李、バスケット、その他種々の器物に作製せられます。
右の他、梓(あずさ)、相思樹(そうしじゅ)、桑の大木、石楠花(しゃくなげ)及び萬兩のステッキのなる様な大きいものは蕃界至る所にあります。竹は最も有名なもので嘉義林𣏌埔等の山々は全山各種の竹にて埋(うず)まって
居ります此の付近に居る人民は竹の副産物にて生活して居ります竹で内地に無い竹は棘竹で丈は4、5
丈で太さは2尺周りのがあります、そしてその枝には棘が生えて居ります防御の為城壁がわりに最も適して居ります田舎でも家の周りに植えて自然の障壁を作って居ります之を人民は竹園と云うて居ります草類は内地にあるものは大概あります。
又愛玉子(オーギョーチー)
と云うものがあります之は蕃界にある植物の實の子(たね)でありますが一見粟粒の様なものです之を袋に入れて清水の中で揉むとその實から茶色の粘液が出ますそれが為清水は茶色となりますその茶色の水が30分位すると凝固(ぎょうこ;かたまり)ます丁度内地の石花菜(ところてん)又は寒天の様になりますこれに砂糖をかけて食します。夏の食物として台灣人は売って歩きます。
(後半につづく)
(前半)
台灣の珍しい植物は専門家に云わせましたら随分ありませうが素人の私は只大概の處を申し上げます 前に申し上げた他に左の植物があります。
檳榔樹、之は南洋植物で皆さん南洋の寫眞(しゃしん)などご覧になれば必ず傘を開いた様な幹の真っ直ぐで長く その先に一箇所の周りに「シュロ」の葉の様なのが傘の様に開いて居る木がありませうそれが檳榔です、その葉のでた根本に鈴の様に生って居るのが檳榔子(びんろうじ;實のこと)で台灣南部の人は之を噛むんで歯を黒赤く染めて居ります之は歯が大層丈夫になるともうして居ります。
椰子(やし)椰子も南洋より移植したのがありますが未だ餘り沢山にはありませぬ。
「サイゼルヘンプ」南洋移植である台灣南部に盛んに栽培して居りますこれは例の「マニラ」ロープの原料になるのである此の繊維で 筅子(ハタキ)拂子(ホッス)等を拵らえて売って居るのが盛んに売れます近来内地にも移入して居ります。
林投(りんとう)は台灣全島至る處の平地に無尽蔵に野生であります「シュロ」科に属する植物で、その葉には棘があります此葉の繊維を漂白して純白として之にて夏帽子を製造する会社があります之が即ち林投帽であります。
蛇木(しゃぼく)之は山中にある木でちょっと我が内地の「鬼ゼンマイ」の大きい様なもので、丈は1丈5、6尺に及ぶものもあります、その形は傘を開いた様に一箇所から四方に開いて居ります葉の形は「鬼ゼンマイ」の開いたものと似て居ります年々葉の落ちた跡が蛇の鱗の様になって居りますから蛇木(しゃぼく)と云うのですが之を花生け又は筆立てにすればその鱗形が大層見事で賞美せられます。
黒柿、黒柿は台灣の恒春地方の山中の野生にあります、昔は随分ありましたそうですが今は乱伐又は山焼け等の結果若木ばかり至る處にあります、黒柿の實は小さな鶏卵大で白毛が一面に生えて居りますが形は柿であります、台灣人は之を毛柿(もうきー)と申しますこれで造る種々の製作品は内地の黒柿とは異はありませぬ。
菊花木、之は一種の蔓科植物で蕃界至る所にあります、太い藤の蔓の様なもので太いのは1尺5寸周り位のものがあります之を横に切れば菊の花の様な模様があります、それで菊花木と云うのでありますが之で茶托(ちゃたく)、煙草いれ、楊枝入れ、その他種々の器物を作製しますが随分見事なものであります。
藤蔓、之も蕃界に至る所に野生でありますその太いのは「コップ」大のがあります、籐椅子、籐籠、行李、バスケット、その他種々の器物に作製せられます。
右の他、梓(あずさ)、相思樹(そうしじゅ)、桑の大木、石楠花(しゃくなげ)及び萬兩のステッキのなる様な大きいものは蕃界至る所にあります。竹は最も有名なもので嘉義林𣏌埔等の山々は全山各種の竹にて埋(うず)まって
居ります此の付近に居る人民は竹の副産物にて生活して居ります竹で内地に無い竹は棘竹で丈は4、5
丈で太さは2尺周りのがあります、そしてその枝には棘が生えて居ります防御の為城壁がわりに最も適して居ります田舎でも家の周りに植えて自然の障壁を作って居ります之を人民は竹園と云うて居ります草類は内地にあるものは大概あります。
又愛玉子(オーギョーチー)
と云うものがあります之は蕃界にある植物の實の子(たね)でありますが一見粟粒の様なものです之を袋に入れて清水の中で揉むとその實から茶色の粘液が出ますそれが為清水は茶色となりますその茶色の水が30分位すると凝固(ぎょうこ;かたまり)ます丁度内地の石花菜(ところてん)又は寒天の様になりますこれに砂糖をかけて食します。夏の食物として台灣人は売って歩きます。
(後半につづく)