一人暮らし・11畳の部屋に46インチのプラズマテレビがやってきて
ちょうど一週間が経ちました。
ある程度、プラズマ方式のテレビの特性がわかってきましたので
どうしようもないくらいマニアックな視点でレビューしたいと思います。
たいへん長くてきもい文章なのでご興味のない方はスキップして頂いた方がよろしいです。
結論を先に出しますが、
画質優先なら、現状選べる大型テレビとしてプラズマは最適です。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
【プラズマである理由】
私が今回買ったのは日立製プラズマテレビ P46-XP03です。
プラズマは原理上、大型化が容易な反面、小型化が難しく
32インチ以下の小型機種が大部分を占める国内薄型テレビ市場ではマイノリティの位置に甘んじています。
パイオニアのKUROシリーズが終息した今、プラズマテレビを製造・販売する国内メーカーは
パナソニックと日立のみとなり、日立も最新機種には自社開発パネルではなく
パナソニックのプラズマパネルを仕入れて商品化しているとのことです。
このパナソニックのプラズマパネルは黒の輝度を抑えることで
パネル実力値のコントラストを40,000:1まで引き上げ、
黒浮きの少ない表現が可能となっています。
液晶はバックライトの光を液晶分子に電圧をかけることで配列を変更させ、
バックライトの光を遮ることで"黒"を表現しています。
この時、どうしても液晶分子からバックライトの光が漏れるため
画面に表示される"黒"はまるで黒いフイルムにライトを照射したときのように
グレーがかった色となります。これが液晶の"黒浮き"の正体です。
昨今では「ダイナミックコントラスト100万:1」や
「メガコントラスト」などと液晶の高コントラスト化を謳う製品が多く展開されていますが、
これはバックライトの制御技術を応用して擬似的にコントラストを上げているため
実際の液晶パネルのコントラストスペックは2,000~5,000:1が限界となります。
原理上、バックライトを使用せず自発光するプラズマと違い
「バックライトの光漏れ」を避けることが難しいデバイスなのです。
映像を視聴する部屋が暗ければ暗いほど光漏れは目立ちますので、
夜は間接照明だけを使用する俺の部屋では液晶を選択するデメリットが大きかったのです。
また、液晶は液晶分子の配列変更にミリセカンド単位の遅れが生じるため
人間が知覚できる残像が発生します。
昨今は倍速・4倍速の液晶パネルが登場しているためかなり残像問題は解消されつつありますが、
やはり自発光するプラズマの応答性には今一歩及ばないようです。
更には視野角の問題もあります。
多くの普及帯モデルは角度によってコントラストが低下するVAパネルを採用しています。
視野角の広いIPS液晶パネルもありますが、価格が高いのです。
コントラストの問題はLEDバックライトの部分制御技術、
残像の問題は倍速駆動、視野角の問題はIPSパネルによってかなり解決できるのですが、
結局のところこれだけの先端技術を搭載したテレビを買おうとすると
かなりの出費が必要となってしまいます。
対して、自発光式のプラズマは目立った残像は発生せず、
視野角による画質劣化はなく、
実力値としてのコントラストも液晶より高く稼げ、
しかも大きければ大きいほど液晶と比べて安くなるのです。
視聴環境が暗く、
ある程度のサイズが必要で、予算が限られている私にとって
プラズマはきわめて魅力的でした。
【日立である理由】
さて、液晶ではなくプラズマを選択した後は
どのメーカーを選ぶかを決めなければなりません。
前述のように国内でプラズマテレビを販売するのはパナソニック・日立のみ。
必然的に二社の46インチモデルとして
TH-P46G1(パナソニック)、P46-XP03(日立)の2製品から選ぶことになりました。
市場価格はおおよそTH-P46G1が2~3万円安く、
カタログ・WEBベースでの検討段階ではパネル製造元でもあるパナソニック製を選ぶつもりでいました。
しかし比較を続けるうちに、2~3万円の価格差を覆すスペックの差があることがわかってきました。
実はパナソニック製の46インチプラズマパネルには2種類あり、
コントラストは40,000:1で共通であるものの、
表現できる色域(色の範囲、鮮やかさ、生々しさ)に違いがあるようです。
TH-P46G1は色域が標準的なもの、
P46-XP03は色域がより広いものを採用しているのです。
実はパナソニックにはTH-P46G1よりさらに上位のTH-P46V1という機種があり、
日立製P46-XP03と同じパネルであるものの数万円高い製品であることがわかりました。
実際の画質は別として、仕様面ではP46-XP03が性能と価格のバランスが高いという推測が立ちます。
機能面を比較すると、
パナソニック製TH-P46G1は同社のハイビジョンレコーダー「DIGA」との高次元同期をウリにしていますが
日立製P46-XP03は標準仕様で250GBのハードディスクを内蔵、
しかもカセット式・独自規格のハードディスクを使用することで録画容量を拡張することができます。
仕様上のスペックが
P46-XP03≠TH-P46V1 > TH-P46G1
価格での優位性を
P46-XP03 > TH-P46G1 > TH-P46V1
とすると、残念ながらパナソニック製を選ぶ理由が見当たらなくなります。
これは推測ですが、日立はパネルをパナソニックから供給を受ける代わりに
仕様と価格でパナソニックを凌駕することでプラズマテレビ市場のシェアを握る戦略に出たものと思います。
では、実際の画質ではどうでしょうか。
毎週のように家電量販店に足を運び、各モデルの画質を比較しました。
正直に言うと、違いはわかりません。
液晶との差は歴然ですが、同じプラズマ同士、しかも同じパネルとなると
実際に3機種を自宅に置いて同じコンテンツを10日間くらい視聴し続けないと差異など知覚できないでしょう。
しかし私が画質面でも日立に決めたのは、
Blu-ray映画のコマのつながりが滑らかに見えたからです。
秒間24コマのはずの映画が、まるで60コマであるかのように滑らかな動きをしていました。
帰宅してもう一度WEBサイトをチェックしてみると、
映像回路で仮想フレームを演算して多フレーム化の処理を行っているとのことでした。
パナソニックにはこの機能がなかったのです。
【導入後の画質評価】
11月21日、実にモデル選定を始めて一ヶ月以上経ち、
やっと私の独身城(The castle of the single)にプラズマテレビが納品されました。
導入当日はホームシアターセットの設定に手を焼いたことからじっくりと画質評価ができずにいましたが、
一週間かけて色々なコンテンツを使いP46-XP03の真価を見定めようとしました。
まず導入当日から驚いたのは、
どこから見ても階調崩れを感じさせない広大な視野角特性です。
正面は勿論、左から観ようが、右から観ようが、はたまた上下から観ようが
ブラウン管の如く画質低下を引き起こさない特性は
真っ先にプラズマのポテンシャルを予感させる実性能でした。
また、動きの速い動画を流してみたところ
残像は知覚できるレベルではなく、シャープな輪郭を保ったまま
フルHDの高解像度感をダイナミックに視覚に伝達してくれました。
翌日以降は、私にとって肝である暗所でのコントラスト深度をテストしました。
使用コンテンツは映画「スタートレック(Blu-ray版)」、
再生ハードウェアはPS3、オンキヨー製アンプHTX-22HD経由のHDMI Ver.1.3接続です。
下の画像はISOも色温度も手ブレも気にせずに画面を直接撮影した稚拙な画像ですが、
宇宙を舞台としたスター・トレックの世界を表現するに相応しい"黒"を表現できていました。
先に述べておきますが、このプラズマテレビが表現する"黒"は
ソニーの11型有機ELテレビ「XEL-1」のように
感動の琴線に触れるような、心に直接訴えかけてくる程の漆黒ではありません。
表現するのが難しいですが、努力して言語化するとすれば
「2009年11月現在で、小細工なしに表現する最もピュアで現実的な"黒"」とでも言えるでしょうか。
マーケット獲得のために実用環境を無視して数字を搾り出された液晶のコントラスト(店頭では大変美しく見えますが…)と異なり、
飾り気が無く、素直で、それでいて許容の範囲に充分収まる、
自然なコントラスト表現が"地に足の着いた"安心感を生み出しています。
恐らく2010年以降は液晶もLEDの制御技術競争が激化し
プラズマを超える画質を実現してくる可能性が高いですが、
2009年末にテレビを買う層にとってベストのバランスを提供するテレビであると思います。
バランスとは、画質だけではなく、機能、価格を含めた総合的な選択という意味です。
恐らくLED部分制御技術を実装した液晶を買えば、2009年末現在でもプラズマの画質を越える液晶が手に入るでしょう。
しかしそれは間違いなく高価です。
LEDの46インチアクオスはこのプラズマの1.5倍以上の価格で販売されています。
さらに大きなサイズとなると液晶は大型化が難しい(プラズマと比べて)ので、
50インチ以上のサイズではたいへんな価格差が出ることは間違いありません。
来年になれば例え擬似コントラスト技術であろうとたいへん高画質で安価な液晶が登場するでしょうが、
2009年に限られた予算で高画質を求めるユーザーにはプラズマは最適な選択であると思います。
【無視することのできないプラズマのネガティブ】
もちろん良いことばかりではありません。
無視することのできないネガティブがあるからこそプラズマは普及停滞しているのです。
真っ先に消費電力です。
日立製47インチの液晶の最大消費電力は259ワット、
同46インチのプラズマにおいてはなんと537ワット、およそ2倍以上の電気を喰うことになります。
常にバックライトが点灯する液晶とは違い
プラズマは黒表示(255分の0階調時)を行うピクセルでは電力消費が発生しないため
実際の消費電力は上記より大幅に下がると思われますが、
液晶でも同様にバックライト輝度を下げることで劇的なパワーセーブが可能なのです。
大喜びで申請書を記入してポストに投函した私が言うのも滑稽な話ですが、
こんなにエネルギーを大量消費する表示デバイスにエコポイントを付与する政府は何も考えていなかったんでしょう。
エコポイントが実現する前に事業仕分けが行われていれば、真っ先に"見直し"されていたのではないでしょうか?
消費電力の次に気になるのは焼きつきの恐怖です。
敢えて"恐怖"と表現しましたが、実際には最近のプラズマはかなり焼きつきが抑えられていると聞きます。
しかし原理上起こりえることですし、
メーカーの保証書にも「プラズマパネルの保証は2年間ですが、パネル本体の焼きつきは対象外となります」と明記されているのです。
例えばグランツーリスモなどのドライビングゲームをする時。
画面の右下に常時表示されるタコメーターの表示が焼きつくのではないかと気になります。
いくら面白いゲームでも、パネルへの負担を気にしてゲームに集中することができません。
メーカーの人間に言わせれば今のプラズマは数時間のゲーム程度で焼きつくことは起こりにくいのでしょうが、
もし実際に焼きつきが起こってしまえば例え購入1年以内でも一切のメーカー保証が受けられないのです。
比較的安いとはいえ二十数万円するプラズマが焼きついてメーカーに知らんぷりされて喪失感を覚えない日本人は、
一体年収をいくら稼ぐ上流階級層なんでしょうか。
また、これはプラズマ全体のネガティブという前提から逸脱するのですが、
残念ながら日立製P46-XP03は階調崩れの問題を抱えています。
これはプリセットの画質モードで確認したのですが、
黒から濃いグレー、
突き抜けるような蒼い空のグラデーション、
水平線に沈みゆく夕日の外延部に盛大なカラーバンディング(視認できる階調崩れ)が起こります。
ユーザーが好き勝手に画質設定を触った表示状態ならまだしも、
メーカー出荷状態の表示モードでバンディングが発生するので
日立の画像エンジンの精度に対して疑いを持たざるを得ません。
画質面で購入の決め手となった仮想フレーム演算によるなめらかな表示も、
実際に使用してみればライブリーな躍動感の引き換えに、本来の映像ソースに存在しないノイズが発生しています。
この問題はテレビの説明書にも記載があり、
「なめらかな表示を実現しますが、ノイズが出る恐れがあります。
ノイズが気になる場合は本機能をオフにしてください。」と書いています。
要するに、日立の映像エンジンではカバーしきれない機能を無理やり載せているのです。
競合他社との差別化に躍起になる余り、不完全なモノを実装し、
「気に入らなければ機能をオフにすれば良い」という逃げ道を作ったと認識して良いと思います。
20万円を超えるテレビがこのバンディングや不完全な機能を露呈してしまう様をみて、
いま私がパソコン用に使っている10万円のナナオ製SX2461Wが如何に高精度な映像エンジンを持っているか再確認することとなりました。
【サウンドはどこまでこだわれば良いのか?】
画質から視点を外し、
人間の五感のうちやはり大きなウエイトを占める聴覚にフォーカスを当ててみるとどうでしょうか。
ブラウン管の時代と比べ、
やはり薄型テレビは液晶もプラズマも心地よい音質を実現するには
大型の音響ユニットを搭載する物理的(空間的)余地が残されていません。
音響の世界ではスピーカーの性能だけでなく、
それを繋ぐケーブルの品質、加えて駆動エネルギーを送り出す電源ケーブルにまでこだわるため
薄いテレビに薄いアンプとスピーカーを積んだところで高音質化には一定の限界が存在するはずです。
そこで私の環境では最低限の外部音響システムとしてオンキヨーのHTX-22HDを選んだわけです。
この製品はBlu-rayやHDMIの最新規格に対応、アンプ本体のみならずフロントスピーカーを標準添付し
パッケージ状態で相応の2.1ch環境を提供します。価格は実売で5万円です。
PC用のスピーカーでもオンキヨーの普及帯アクティブスピーカーを使用している関係で
オンキヨー製品には根拠の無い期待を抱いていたのですが、
実際にこのパッケージを導入して現実を知ることとなりました。
映画のセリフが聴こえませんでした。
2.1ch想定のPC用のスピーカーとは違い、
5.1chを想定したシアターパッケージは、少なくとも私の環境では、初期内容の2.1chで真価を誇ることはできませんでした。
すぐにセンタースピーカーを増設し、現在は3.1chで期待を満たす環境が整いましたが
3.1chまで来ると2本のリアスピーカーを足せば5.1ch環境構築まであと少しです。
5.1chで満足できれば良いですが、満足できない場合には7.1chという環境があることは無視できないでしょう。
一体、どこまでこだわるべきなのでしょうか?
正直に白状すると、画質を優先しすぎるあまり
音響は安価でそこそこ高音質なら満足できるだろうという甘い考えで帰結していたことを認めざるを得ません。
画質がよければ、それに釣りあう音響設備が要求されるのでしょう。
現状で私の環境は3.1chですが、
金銭・スペース的な問題を解決できればすぐにでも5.1ch化すべきだと思います。
しかし5.1chにすれば本当に満足できるという保証は一切ありません。
満足できなければ、スピーカーのアップグレード、7.1ch化、7.1化のためのアンプ買い替え、
考え出すときりがありません。
手を出せば出すほど深みにハマる世界です。
サウンドはどこまでこだわれば良いのか?
いったい、自身が納得する地点はどこなのか?
プラズマを導入するまで深く考えなかった疑問が、
画質への感動を打ち消さんとばかりにズシリと乗しかかってくる結果となりました。
【拾ってしまった課題と、現状満足の獲得】
長くなりました。
このしょうもない文章を、ここまで読んでくださった皆様には感謝で頭が上がりません。
ここまで書いたように、
私は薄くて大きいテレビが欲しくなり、現状の液晶に限界を感じ、プラズマに憧れ、プラズマの画質に悦びを感じ、
そして抜け出せない沼地に足を踏み入れるという課題を踏みました。
満足を得ると同時に、終着点の検討もつかない課題を拾いました。
後は自分がどこで納得のいく終着点を見出すかです。
音響にこだわればいくら金があっても足りません。
一本10万円もするスピーカーなど社会人3年目の阿呆サラリーマンには贅沢極まりないです。
物欲とは願望・理想と現実と妥協で成り立っているのかもしれません。
金の無い中で理想と現実と妥協がミートする地点を探求することが、
物欲の原動力となっているのではないかと思います。
【私にとっては、プラズマは最適だった】
結論はやはり、2009年末現在で限られた予算で選べる大型テレビとして
プラズマが最適であると思います。
大量の電気を喰っても、
焼きつきの恐怖に震える毎日を送ったとしても、
地に足の着いた現実主義な工業製品を所有する悦びは何事にも代えられません。
自ら物欲魔人を自称する私にとって、
ここまでおもしろくて悩ましいデバイスを選んだことは筆舌しがたい快楽を感じます。
これから薄型テレビを選ばれる方々には、
是非、液晶とプラズマの長所と短所を客観的に比較して悩む楽しみを愉しんで欲しいと思います。
個人ごとにテレビの使い方は異なりますから、
たまたま私のような人種とってプラズマが最適であっただけで、
明るい環境でテレビや映像コンテンツを視聴する方にとってはLED液晶は最良の選択になると思います。
テレビに限らず、デジタル製品を選択する際は
自身の使用環境と各社製品の特徴のマッチングを意識して比較してください。
比較と選択 / 理想と妥協がもたらす快楽がここまで凝縮された世界はなかなか無いと思います。
自分の使用環境に最適な工業製品を比較して選ぶことが、
こんなに楽しいことだと実感した、たいへん楽しい経験となりました。
私にとっては、
部屋が暗く残像と光漏れが耐えられない神経質な人間にとっては、
プラズマは人間らしい感動と葛藤を運ぶ悩ましい悦びを内包したデバイスなのかな、と
笑みを漏らしながら納得している次第です。
物欲って、なんて深い世界なんでしょうね!
ちょうど一週間が経ちました。
ある程度、プラズマ方式のテレビの特性がわかってきましたので
どうしようもないくらいマニアックな視点でレビューしたいと思います。
たいへん長くてきもい文章なのでご興味のない方はスキップして頂いた方がよろしいです。
結論を先に出しますが、
画質優先なら、現状選べる大型テレビとしてプラズマは最適です。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
【プラズマである理由】
私が今回買ったのは日立製プラズマテレビ P46-XP03です。
プラズマは原理上、大型化が容易な反面、小型化が難しく
32インチ以下の小型機種が大部分を占める国内薄型テレビ市場ではマイノリティの位置に甘んじています。
パイオニアのKUROシリーズが終息した今、プラズマテレビを製造・販売する国内メーカーは
パナソニックと日立のみとなり、日立も最新機種には自社開発パネルではなく
パナソニックのプラズマパネルを仕入れて商品化しているとのことです。
このパナソニックのプラズマパネルは黒の輝度を抑えることで
パネル実力値のコントラストを40,000:1まで引き上げ、
黒浮きの少ない表現が可能となっています。
液晶はバックライトの光を液晶分子に電圧をかけることで配列を変更させ、
バックライトの光を遮ることで"黒"を表現しています。
この時、どうしても液晶分子からバックライトの光が漏れるため
画面に表示される"黒"はまるで黒いフイルムにライトを照射したときのように
グレーがかった色となります。これが液晶の"黒浮き"の正体です。
昨今では「ダイナミックコントラスト100万:1」や
「メガコントラスト」などと液晶の高コントラスト化を謳う製品が多く展開されていますが、
これはバックライトの制御技術を応用して擬似的にコントラストを上げているため
実際の液晶パネルのコントラストスペックは2,000~5,000:1が限界となります。
原理上、バックライトを使用せず自発光するプラズマと違い
「バックライトの光漏れ」を避けることが難しいデバイスなのです。
映像を視聴する部屋が暗ければ暗いほど光漏れは目立ちますので、
夜は間接照明だけを使用する俺の部屋では液晶を選択するデメリットが大きかったのです。
また、液晶は液晶分子の配列変更にミリセカンド単位の遅れが生じるため
人間が知覚できる残像が発生します。
昨今は倍速・4倍速の液晶パネルが登場しているためかなり残像問題は解消されつつありますが、
やはり自発光するプラズマの応答性には今一歩及ばないようです。
更には視野角の問題もあります。
多くの普及帯モデルは角度によってコントラストが低下するVAパネルを採用しています。
視野角の広いIPS液晶パネルもありますが、価格が高いのです。
コントラストの問題はLEDバックライトの部分制御技術、
残像の問題は倍速駆動、視野角の問題はIPSパネルによってかなり解決できるのですが、
結局のところこれだけの先端技術を搭載したテレビを買おうとすると
かなりの出費が必要となってしまいます。
対して、自発光式のプラズマは目立った残像は発生せず、
視野角による画質劣化はなく、
実力値としてのコントラストも液晶より高く稼げ、
しかも大きければ大きいほど液晶と比べて安くなるのです。
視聴環境が暗く、
ある程度のサイズが必要で、予算が限られている私にとって
プラズマはきわめて魅力的でした。
【日立である理由】
さて、液晶ではなくプラズマを選択した後は
どのメーカーを選ぶかを決めなければなりません。
前述のように国内でプラズマテレビを販売するのはパナソニック・日立のみ。
必然的に二社の46インチモデルとして
TH-P46G1(パナソニック)、P46-XP03(日立)の2製品から選ぶことになりました。
市場価格はおおよそTH-P46G1が2~3万円安く、
カタログ・WEBベースでの検討段階ではパネル製造元でもあるパナソニック製を選ぶつもりでいました。
しかし比較を続けるうちに、2~3万円の価格差を覆すスペックの差があることがわかってきました。
実はパナソニック製の46インチプラズマパネルには2種類あり、
コントラストは40,000:1で共通であるものの、
表現できる色域(色の範囲、鮮やかさ、生々しさ)に違いがあるようです。
TH-P46G1は色域が標準的なもの、
P46-XP03は色域がより広いものを採用しているのです。
実はパナソニックにはTH-P46G1よりさらに上位のTH-P46V1という機種があり、
日立製P46-XP03と同じパネルであるものの数万円高い製品であることがわかりました。
実際の画質は別として、仕様面ではP46-XP03が性能と価格のバランスが高いという推測が立ちます。
機能面を比較すると、
パナソニック製TH-P46G1は同社のハイビジョンレコーダー「DIGA」との高次元同期をウリにしていますが
日立製P46-XP03は標準仕様で250GBのハードディスクを内蔵、
しかもカセット式・独自規格のハードディスクを使用することで録画容量を拡張することができます。
仕様上のスペックが
P46-XP03≠TH-P46V1 > TH-P46G1
価格での優位性を
P46-XP03 > TH-P46G1 > TH-P46V1
とすると、残念ながらパナソニック製を選ぶ理由が見当たらなくなります。
これは推測ですが、日立はパネルをパナソニックから供給を受ける代わりに
仕様と価格でパナソニックを凌駕することでプラズマテレビ市場のシェアを握る戦略に出たものと思います。
では、実際の画質ではどうでしょうか。
毎週のように家電量販店に足を運び、各モデルの画質を比較しました。
正直に言うと、違いはわかりません。
液晶との差は歴然ですが、同じプラズマ同士、しかも同じパネルとなると
実際に3機種を自宅に置いて同じコンテンツを10日間くらい視聴し続けないと差異など知覚できないでしょう。
しかし私が画質面でも日立に決めたのは、
Blu-ray映画のコマのつながりが滑らかに見えたからです。
秒間24コマのはずの映画が、まるで60コマであるかのように滑らかな動きをしていました。
帰宅してもう一度WEBサイトをチェックしてみると、
映像回路で仮想フレームを演算して多フレーム化の処理を行っているとのことでした。
パナソニックにはこの機能がなかったのです。
【導入後の画質評価】
11月21日、実にモデル選定を始めて一ヶ月以上経ち、
やっと私の独身城(The castle of the single)にプラズマテレビが納品されました。
導入当日はホームシアターセットの設定に手を焼いたことからじっくりと画質評価ができずにいましたが、
一週間かけて色々なコンテンツを使いP46-XP03の真価を見定めようとしました。
まず導入当日から驚いたのは、
どこから見ても階調崩れを感じさせない広大な視野角特性です。
正面は勿論、左から観ようが、右から観ようが、はたまた上下から観ようが
ブラウン管の如く画質低下を引き起こさない特性は
真っ先にプラズマのポテンシャルを予感させる実性能でした。
また、動きの速い動画を流してみたところ
残像は知覚できるレベルではなく、シャープな輪郭を保ったまま
フルHDの高解像度感をダイナミックに視覚に伝達してくれました。
翌日以降は、私にとって肝である暗所でのコントラスト深度をテストしました。
使用コンテンツは映画「スタートレック(Blu-ray版)」、
再生ハードウェアはPS3、オンキヨー製アンプHTX-22HD経由のHDMI Ver.1.3接続です。
下の画像はISOも色温度も手ブレも気にせずに画面を直接撮影した稚拙な画像ですが、
宇宙を舞台としたスター・トレックの世界を表現するに相応しい"黒"を表現できていました。
先に述べておきますが、このプラズマテレビが表現する"黒"は
ソニーの11型有機ELテレビ「XEL-1」のように
感動の琴線に触れるような、心に直接訴えかけてくる程の漆黒ではありません。
表現するのが難しいですが、努力して言語化するとすれば
「2009年11月現在で、小細工なしに表現する最もピュアで現実的な"黒"」とでも言えるでしょうか。
マーケット獲得のために実用環境を無視して数字を搾り出された液晶のコントラスト(店頭では大変美しく見えますが…)と異なり、
飾り気が無く、素直で、それでいて許容の範囲に充分収まる、
自然なコントラスト表現が"地に足の着いた"安心感を生み出しています。
恐らく2010年以降は液晶もLEDの制御技術競争が激化し
プラズマを超える画質を実現してくる可能性が高いですが、
2009年末にテレビを買う層にとってベストのバランスを提供するテレビであると思います。
バランスとは、画質だけではなく、機能、価格を含めた総合的な選択という意味です。
恐らくLED部分制御技術を実装した液晶を買えば、2009年末現在でもプラズマの画質を越える液晶が手に入るでしょう。
しかしそれは間違いなく高価です。
LEDの46インチアクオスはこのプラズマの1.5倍以上の価格で販売されています。
さらに大きなサイズとなると液晶は大型化が難しい(プラズマと比べて)ので、
50インチ以上のサイズではたいへんな価格差が出ることは間違いありません。
来年になれば例え擬似コントラスト技術であろうとたいへん高画質で安価な液晶が登場するでしょうが、
2009年に限られた予算で高画質を求めるユーザーにはプラズマは最適な選択であると思います。
【無視することのできないプラズマのネガティブ】
もちろん良いことばかりではありません。
無視することのできないネガティブがあるからこそプラズマは普及停滞しているのです。
真っ先に消費電力です。
日立製47インチの液晶の最大消費電力は259ワット、
同46インチのプラズマにおいてはなんと537ワット、およそ2倍以上の電気を喰うことになります。
常にバックライトが点灯する液晶とは違い
プラズマは黒表示(255分の0階調時)を行うピクセルでは電力消費が発生しないため
実際の消費電力は上記より大幅に下がると思われますが、
液晶でも同様にバックライト輝度を下げることで劇的なパワーセーブが可能なのです。
大喜びで申請書を記入してポストに投函した私が言うのも滑稽な話ですが、
こんなにエネルギーを大量消費する表示デバイスにエコポイントを付与する政府は何も考えていなかったんでしょう。
エコポイントが実現する前に事業仕分けが行われていれば、真っ先に"見直し"されていたのではないでしょうか?
消費電力の次に気になるのは焼きつきの恐怖です。
敢えて"恐怖"と表現しましたが、実際には最近のプラズマはかなり焼きつきが抑えられていると聞きます。
しかし原理上起こりえることですし、
メーカーの保証書にも「プラズマパネルの保証は2年間ですが、パネル本体の焼きつきは対象外となります」と明記されているのです。
例えばグランツーリスモなどのドライビングゲームをする時。
画面の右下に常時表示されるタコメーターの表示が焼きつくのではないかと気になります。
いくら面白いゲームでも、パネルへの負担を気にしてゲームに集中することができません。
メーカーの人間に言わせれば今のプラズマは数時間のゲーム程度で焼きつくことは起こりにくいのでしょうが、
もし実際に焼きつきが起こってしまえば例え購入1年以内でも一切のメーカー保証が受けられないのです。
比較的安いとはいえ二十数万円するプラズマが焼きついてメーカーに知らんぷりされて喪失感を覚えない日本人は、
一体年収をいくら稼ぐ上流階級層なんでしょうか。
また、これはプラズマ全体のネガティブという前提から逸脱するのですが、
残念ながら日立製P46-XP03は階調崩れの問題を抱えています。
これはプリセットの画質モードで確認したのですが、
黒から濃いグレー、
突き抜けるような蒼い空のグラデーション、
水平線に沈みゆく夕日の外延部に盛大なカラーバンディング(視認できる階調崩れ)が起こります。
ユーザーが好き勝手に画質設定を触った表示状態ならまだしも、
メーカー出荷状態の表示モードでバンディングが発生するので
日立の画像エンジンの精度に対して疑いを持たざるを得ません。
画質面で購入の決め手となった仮想フレーム演算によるなめらかな表示も、
実際に使用してみればライブリーな躍動感の引き換えに、本来の映像ソースに存在しないノイズが発生しています。
この問題はテレビの説明書にも記載があり、
「なめらかな表示を実現しますが、ノイズが出る恐れがあります。
ノイズが気になる場合は本機能をオフにしてください。」と書いています。
要するに、日立の映像エンジンではカバーしきれない機能を無理やり載せているのです。
競合他社との差別化に躍起になる余り、不完全なモノを実装し、
「気に入らなければ機能をオフにすれば良い」という逃げ道を作ったと認識して良いと思います。
20万円を超えるテレビがこのバンディングや不完全な機能を露呈してしまう様をみて、
いま私がパソコン用に使っている10万円のナナオ製SX2461Wが如何に高精度な映像エンジンを持っているか再確認することとなりました。
【サウンドはどこまでこだわれば良いのか?】
画質から視点を外し、
人間の五感のうちやはり大きなウエイトを占める聴覚にフォーカスを当ててみるとどうでしょうか。
ブラウン管の時代と比べ、
やはり薄型テレビは液晶もプラズマも心地よい音質を実現するには
大型の音響ユニットを搭載する物理的(空間的)余地が残されていません。
音響の世界ではスピーカーの性能だけでなく、
それを繋ぐケーブルの品質、加えて駆動エネルギーを送り出す電源ケーブルにまでこだわるため
薄いテレビに薄いアンプとスピーカーを積んだところで高音質化には一定の限界が存在するはずです。
そこで私の環境では最低限の外部音響システムとしてオンキヨーのHTX-22HDを選んだわけです。
この製品はBlu-rayやHDMIの最新規格に対応、アンプ本体のみならずフロントスピーカーを標準添付し
パッケージ状態で相応の2.1ch環境を提供します。価格は実売で5万円です。
PC用のスピーカーでもオンキヨーの普及帯アクティブスピーカーを使用している関係で
オンキヨー製品には根拠の無い期待を抱いていたのですが、
実際にこのパッケージを導入して現実を知ることとなりました。
映画のセリフが聴こえませんでした。
2.1ch想定のPC用のスピーカーとは違い、
5.1chを想定したシアターパッケージは、少なくとも私の環境では、初期内容の2.1chで真価を誇ることはできませんでした。
すぐにセンタースピーカーを増設し、現在は3.1chで期待を満たす環境が整いましたが
3.1chまで来ると2本のリアスピーカーを足せば5.1ch環境構築まであと少しです。
5.1chで満足できれば良いですが、満足できない場合には7.1chという環境があることは無視できないでしょう。
一体、どこまでこだわるべきなのでしょうか?
正直に白状すると、画質を優先しすぎるあまり
音響は安価でそこそこ高音質なら満足できるだろうという甘い考えで帰結していたことを認めざるを得ません。
画質がよければ、それに釣りあう音響設備が要求されるのでしょう。
現状で私の環境は3.1chですが、
金銭・スペース的な問題を解決できればすぐにでも5.1ch化すべきだと思います。
しかし5.1chにすれば本当に満足できるという保証は一切ありません。
満足できなければ、スピーカーのアップグレード、7.1ch化、7.1化のためのアンプ買い替え、
考え出すときりがありません。
手を出せば出すほど深みにハマる世界です。
サウンドはどこまでこだわれば良いのか?
いったい、自身が納得する地点はどこなのか?
プラズマを導入するまで深く考えなかった疑問が、
画質への感動を打ち消さんとばかりにズシリと乗しかかってくる結果となりました。
【拾ってしまった課題と、現状満足の獲得】
長くなりました。
このしょうもない文章を、ここまで読んでくださった皆様には感謝で頭が上がりません。
ここまで書いたように、
私は薄くて大きいテレビが欲しくなり、現状の液晶に限界を感じ、プラズマに憧れ、プラズマの画質に悦びを感じ、
そして抜け出せない沼地に足を踏み入れるという課題を踏みました。
満足を得ると同時に、終着点の検討もつかない課題を拾いました。
後は自分がどこで納得のいく終着点を見出すかです。
音響にこだわればいくら金があっても足りません。
一本10万円もするスピーカーなど社会人3年目の阿呆サラリーマンには贅沢極まりないです。
物欲とは願望・理想と現実と妥協で成り立っているのかもしれません。
金の無い中で理想と現実と妥協がミートする地点を探求することが、
物欲の原動力となっているのではないかと思います。
【私にとっては、プラズマは最適だった】
結論はやはり、2009年末現在で限られた予算で選べる大型テレビとして
プラズマが最適であると思います。
大量の電気を喰っても、
焼きつきの恐怖に震える毎日を送ったとしても、
地に足の着いた現実主義な工業製品を所有する悦びは何事にも代えられません。
自ら物欲魔人を自称する私にとって、
ここまでおもしろくて悩ましいデバイスを選んだことは筆舌しがたい快楽を感じます。
これから薄型テレビを選ばれる方々には、
是非、液晶とプラズマの長所と短所を客観的に比較して悩む楽しみを愉しんで欲しいと思います。
個人ごとにテレビの使い方は異なりますから、
たまたま私のような人種とってプラズマが最適であっただけで、
明るい環境でテレビや映像コンテンツを視聴する方にとってはLED液晶は最良の選択になると思います。
テレビに限らず、デジタル製品を選択する際は
自身の使用環境と各社製品の特徴のマッチングを意識して比較してください。
比較と選択 / 理想と妥協がもたらす快楽がここまで凝縮された世界はなかなか無いと思います。
自分の使用環境に最適な工業製品を比較して選ぶことが、
こんなに楽しいことだと実感した、たいへん楽しい経験となりました。
私にとっては、
部屋が暗く残像と光漏れが耐えられない神経質な人間にとっては、
プラズマは人間らしい感動と葛藤を運ぶ悩ましい悦びを内包したデバイスなのかな、と
笑みを漏らしながら納得している次第です。
物欲って、なんて深い世界なんでしょうね!