夕方、バイトが終わって勤務表を記入していると
職員さんから「かくぱい君」とマジックで書かれた茶封筒を渡された。
給与明細のようだ。
おい、待てよ。給料の支払いは25日のはずじゃなかったか。今日何日よ。
カレンダーを見るまで状況が把握できなかった。
どうやら23~25日が連休なため今日がお給料日らしい。
まさか!と思いつつも、帰り道に銀行に寄って口座を確認してみると、
あった。そこには確かに7万円あった。先月の4万と、今月の3万。
ひゃっほー!と心の中で叫びながら、そして薄ら笑いを浮かべながら
急いで家路を急ぐ。この瞬間を長く待ちわびてきた。教習所へ入校しよう。
今期のアウトカムのひとつである普通ニ輪の免許取得を達成しちゃおう。
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そうと決まればまず行動。
帰宅したのは16時半で、18時からゼミの飲み会がある。急がなければ。
まず身の周りの諸問題の解決に努める。
タイヤのチューブが新星爆発を起こした自転車を修理に出し、
腰の部分の縫製が弱くて破れてしまったお気に入りジーンズの補修を
クリーニング屋さんに持っていってお願いする。
ここのクリーニング屋さんはちょっと高いけど
色々なわがままを聞いてくれる頼れるお店なんだ。多分俺のことが迷惑だろうけど。
さて教習所に行きますか、とアパートに戻ってくると、
何やら小学生たちが3人、うちのアパートの前でうろうろしている。
そして俺を見るなり、女の子がペコリと頭を下げて言う。
「山田さんっていうおばあちゃんがこの辺に住んでませんか?
運動会のお知らせをどうしても渡したいんですけど、住所がわかんないんです。」
話し方から察するにとても利発そうなお子さんのご様子。
彼女の後ろに隠れるように立っている男の子ふたりも、
名前も知らないきもちわるいお兄さんに対し期待の目を向けている。
「うーん。このアパートにはおばあちゃんは住んでないよ。」
と言うと、女の子は困り果てたという顔をして
「このへんだと思うんですけど…。どうしよう…。」
とつぶやく。今にも泣いてしまいそうだ。
子どもを狙った犯罪が目立つ現代において、この3人が俺の前で泣き始めたら
住民たちは迷わず警察を呼ぶだろう。そして俺は冤罪で5年間禁固の刑に服すのか。
そこで出会うとんでもないハードゲイ囚人に毎日辱められるのか。
わけのわからない妄想をかき消して、
こんな不法滞在しているタイ人のような顔立ちのお兄さんでは
純朴な子どもたちの力にはなれないことを伝える。
子どもたちはトボトボとアパートを後にした。
なんか、俺は何も悪いことしてないのにすごく背徳感や罪悪感を感じる。
なんじゃこりゃ。
アパートで教習所に入校するための印鑑や写真を準備して
いざ出陣とベンリィちゃんに跨って路地を出ると、
さっきの小学生たちがやはり困った顔つきで近所を徘徊している。
「ねぇねぇ、もしわからないようだったら、
近くに交番があるからそこでおまわりさんに聞いてみたらどうかな?」
子どもたちにそう伝えることが俺ができる精一杯の助けでした。
知らないお子様がたのためにどこに住んでいるかもわからない山田さんを探すなんて、
地域のすくすくボランティアじゃない俺にはできない。
それでも子どもたちはにっこりと笑みを浮かべて
「わかりました!ありがとうございます!」と声を揃えて言う。
あぁ。こんな頼り甲斐のないお兄さんでごめんなさい。
そのうちもう少し頼れるお兄さんになるので期待して待っていてください。
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枚方から約20分。寝屋川ドライビングスクールに到着。念願の地!
なんかヘンピな場所にある教習所だけど、やたら評判がいいのだ。
飲み会まで時間が無いので、急ぎ足で受付のお姉さんに申し込み手続きをお願いする。
ここのお姉さんの接客は、とても丁寧で気持ちが良い!
笑顔や声の大きさ、話す早さも適切で、初めて来る場所なのにすごくリラックスする。
こちらが急いでいるのを察してか、作業もきわめてスピーディに処理してくれる。
教習所って、こんなにステキな場所だったっけ?
これで全額7万円を切って、再検定料も追加技能料金も一切必要無いのだから
心の底から感動してしまう。
視力確認も終わって、二輪教習についての説明も一通り聞き終わったので
次回の来校日を確認しておしまい。
どうやら秋の涼しい季節になって若干混んでいるようで、
入校は来月の二日になってしまった。楽しみで仕方がない。
教習車はホンダのCB400という、
ベンリィちゃんの3倍の重量と8倍の排気量のあるバイク。
中古で買っても30万はかかる人気車に乗れる喜び。
じゅ、10月よ、早く来ておくれ!ぼくは待ちきれない!
これから舐め回すように読んであげるからね
調子に乗って教習所で長居してしまったため
飲み会にはバッチリ遅刻してしまい、おまけにお金がナイため
2次会のカラオケには参加せずそそくさと帰る。
本当は行きたかったんだけど、仕方がないんだぁ。
家に帰って、ひと息ついて、思い出す。
そう言えば小学生たちはどうなったんだろうね。