先週、自慢の安物ハイビジョンを見ていると
ある懐かしい曲をBGMに"手紙"という邦画のCMをしていました。
山田孝之と沢尻エリカが出てるやつです。
「間違いない!この映画は絶対泣ける!ダダ泣き確定!」
早速この日曜日に、
どちらかというと洋画のほうが好きな俺は
どちらかというと邦画のほうが好きな彼女の手を引いてこの映画を観て来ました。
ラーラーラー、ララーラー、言葉に、できーなーい。
小田和正の"言葉にできない"という曲を初めて聴いた時、
ここまで人の心に染み込む音楽を創ることができるのかと
クソガキながらに感動した覚えがあります。
夜眠れないときなんか、よく聴いてました。意味もなく泣いてしまいます。
友達と写った写真なんか見ながら聴くと、余計に泣いてしまいます。
別に写真の中の誰かが死んでしまったわけでもないのに、ダダ泣きします。
実際に死んでしまった友達の写真なんか見ながら聴いてしまった日にゃ、
ティッシュの箱がいくらあっても足りないと思います。
この曲になぜそこまでの魔力があるのかは、説明できません。
それこそ"言葉にできない"ってかんじです。
かなり前に、どこかの保険会社のCMに使われてましたよね。
まさかたった15秒のCMに泣かされると思いもしませんでしたね。
とにかく、俺にとっては、そしてたぶん多くの人にとって、
言葉にできないという曲はある意味"反則"なわけです。
残念ながら映画の方はサッパリだったんですけど、
これから生きていくうちに何度この曲に泣かされるんでしょうねぇぇ。
考えうるだけでも、
・大学を卒業するとき
・就職したとき
・友達が結婚したとき
・自分が結婚したとき
…は確実に泣いちゃうね。
ヘタすりゃアンパンマンのエンディングに流れても泣いてしまうかも…。
アンパンチを喰らったバイキンマンが地平線の彼方に消えるとともに、
どこからともなく「あなた~に、会え~て、本当に、良かった…」シュールだ。
皆さんも是非、心の落ち着いた夜なんかに
ヘッドホンつけてひとりでこの曲聴いてみてください。
アルバムとか寄せ書きとかセンチメンタルなグッズがあると涙止まりません!
ここから下はどうしてこの映画で泣けなかったのかを白状するわけですが、
ネタバレになるのでいつかこの映画を観る予定のある人は放置してください。
フレームの中をマウスでドラッグすると文字が浮かび上がるようにしてます。
この映画のテーマは"殺人で刑務所にいる男の弟が社会で理不尽な差別を受ける"というもので
映画が始まってからずっと弟が受ける差別の凄惨さを描いていくわけですが、
この作品に出てくる差別の描写に納得がいきませんでした。
おおまかに2点の描写が気になります。
ひとつめは、登場人物たちの誰もが差別の排除に積極的でないところです。
途中で弟くんが勤め先で差別に遭って薄暗い倉庫の仕事に左遷されるんですが
その勤め先のエライ人が彼のところへわざわざやって来て
「差別されるのは仕方のないことだから、差別されてやってきた場所で
一生懸命頑張って理解し合える人を増やしてください」
…みたいなことを言って、弟くんも納得しちゃうんです。
実際に親族に殺人者がいちゃうと差別されるのもわかりますけど
少しは理不尽な差別をする人間への批判を入れて欲しかったです。
「差別されちゃうのは当たり前」みたいな前提を堂々と掲げて、
これでは差別の存在を肯定もしくは黙認しているようです。
あくまでも理不尽な差別をする人間が悪いということを忘れてはいけないと思います。
もうひとつは、演出が過剰な点です。
弟くんの家族が差別に遭うシーンが白々しいと感じました。
どこの公園に行っても「殺人者の子どもだ」と避けられてましたが、
さすがに身内に殺人者がいるというだけで世間はあそこまで冷酷にはならないのでは?
例え大多数に差別されたとしても、
そこに救いの手を差し伸べてくれる人は少なからずいると思います。
さっきの「差別されるのは当たり前」という前提に加えて
「差別するのはすべての他人」という構図はあまりにも救われないです。
ここまで弟くんを追い詰める描写ばかりが続く理由は、
ラストのシーンで弟くんが兄に対して
「あんたのせいで沢山迷惑被ったけど、それでも僕の大切なお兄さんだよ」と
"どこまで酷い目に遭っても兄を想う弟"という構図を浮き立たせるためだと思います。
ここで「さあ泣いてください!」と言わんばかりに挿入される"言葉にできない"。
あざとくて参りました。周りの観客が結構泣いているので余計に参りました。
自分が相当ひねくれているのかと思いました。実際そうなのかもしれません。
とにかくこの映画は、ラストの切ない兄弟愛のシーンを目指して進んでいく話なのに
そこに辿り着くまでの過程に説得力が足りないと思いました。
逆にこの映画の良かったところは、弟くんの漫才シーンでした。
普段は人に関わるまいと寡黙な彼ですが、幼馴染の友人と壇上に上がるときは
まるで別人かと思うくらいの明るさを見せます。
そのギャップが彼の持つ心の問題を際立たせてました。
ラストの刑務所への慰問シーンも
面白おかしい漫談から兄への想いの告白にスムーズに繋がり、「やられた!」と思いました。
だからこそ、弟くんの不遇な境遇はもっと丁寧に描写していれば
このシーンが何倍にも感動的なシーンになったんじゃないかと思います。
大好きな小田和正の曲が泣かせるためのスパイス的な扱いをされたので
全体的に批判的ですが、普段考えない問題を考えるきっかけになりました。
DVDが出たら、レンタルしてみる価値はあると思います。
アクション映画ではないし、別段映像がきれいなわけではないので
映画館で観る必要はないかもしれません。 |
…なんかマジメに語ってきもいですが、
たまにはマジメなことも考えないと脳がだめになるので大目に見てください。