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【性暴力を考えるvol.58】見過ごされてきた災害時の性被害 

2020年02月29日 | スクラップ

 

 

 

避難所のリーダーに、「(夫を亡くして)大変だね。タオルや食べ物をあげるから、夜◯◯に取りに来て」と言われ、取りに行くと、あからさまに性行為を強要されました。(震災で夫を亡くした女性)

 

仮設住宅にいる男性がだんだんおかしくなって、女の人を捕まえては暗い場所で裸にする。周りの人も、“若いから仕方がないね”と、見て見ぬふりをして助けてくれませんでした。(20代女性)

 

複数の男性に暴行を受けました。騒いで殺されても、海に流され津波のせいにされる恐怖があり、その後、誰にも言えませんでした・・・。(避難所のリーダーなどに暴力を受けた女性)
これは、東日本大震災の後、避難所や仮設住宅などで性暴力を受けた女性たちの証言。同じ女性として信じたくない、信じられない思いですが、実際にあった出来事です。もし、自分自身や家族、大切な人が、災害時にこのような被害を受けたら・・・。皆さんは、声をあげることができるでしょうか。

 

 

 

まもなく、東日本大震災から9年。今月、24時間の無料電話相談「よりそいホットライン」では、2013年から2018年の5年間に女性専用ラインに寄せられた36万件余りの相談について内容を分析しました。その結果、被災3県(岩手、宮城、福島)からの相談の5割以上が、性暴力被害に関する内容であることが明らかになりました。

 

分析結果から見えてきた被災地の性暴力の実態と、この問題に向き合い続けてきた3人の女性に話をお聞きしました。       
(大型企画開発センター 統括プロデューサー 小原美和)

 

 

 

■女性専用ホットラインの半数以上が、性暴力の相談

 

 

「よりそいホットライン」(NHKサイトを離れます)は、東日本大震災を契機に、様々な生活困難を抱える人たちの悩みを傾聴しながら、具体的な問題解決を図ることを目的に、2012年3月に開設されました。代表的な相談内容は、「家族問題」「心と体の悩み」「人間関係」「仕事の悩み」。相談者のおよそ6割が女性。中でも、女性特有の相談として圧倒的に多いのが、DVやレイプ、性的虐待など、性暴力の被害です。

 

 今回、過去5年間(2013年~2018年)に女性専用ラインに寄せられた相談を集計したところ、被災3県(岩手、宮城、福島)からの相談の5割以上が性暴力に関する相談で、10代~20代の若年層の被害も、全体の4割に上りました。

 

(相談窓口に寄せられた被害者の状況を記したメモ)

 

「よりそいホットライン」事務局長の遠藤智子さんによると、震災による環境の変化などが背景にあるDVや性暴力の被害は、その後も変わらず続いているそうです。被害を受けた女性の中には、誰にも相談できず、長い間ずっと一人で苦しんでいる人が多く、東日本大震災から9年たって、ようやく相談の電話をかけてくる人も少なくないと言います。そうした現状を踏まえ、遠藤さんは、今後の対策を呼びかけています。

 

(「よりそいホットライン」事務局長の遠藤智子さん)

 

「別の場所で災害が起きるたびに、そのニュースや情報を目にして、被害を受けた経験を思いだし、不安や恐怖からフラッシュバックや不眠に苦しむ女性もいて、電話相談が増加する傾向があります。 窓口では、相談内容に応じて警察や病院・民間支援団体を紹介するなど、関係機関につなぐよう対応していますが、今後は、女性や子どもたちが『震災弱者』とならないよう、日頃から社会全体が暴力の根絶に取り組むことが重要だと考えています。」(遠藤さん)

 

 


■阪神淡路大震災で “デマ”とされた性暴力被害

 

(阪神・淡路大震災直後の避難所)

実は、災害時の性暴力については、25年前の阪神淡路大震災の時から問題提起されていました。声をあげた一人が、神戸で女性や子どもの支援を続けているNPO法人「ウィメンズネット・こうべ」代表の正井禮子(れいこ)さんです。きっかけは、生活全般に関する悩みを聞くために始めた「女性のための電話相談」だったと言います。

 

NPO法人「ウィメンズネット・こうべ」代表の正井禮子(れいこ)さん

 

「電話相談を始めたら、次々とDVに関する相談が寄せられました。被災して仕事がうまくいかない夫が、殴ったり 蹴ったり、暴力を振るうのがつらいという相談です。さらにその後、女性のための小さな集会を開いた時に、仮説住宅に住むシングルマザーの女性から性暴力被害について打ち明けられました。参加者の一人が、警察にすぐに届けたのかと聞いたところ、その女性は 『ここでしか生きていけない時に、誰にそれを語れというのですか』 と、涙を流したのです。大災害で大変な時に性被害が起きるのは許せないし、被害者はどれほど深く傷つくことだろうと、その姿が忘れられなくて・・・。」 (正井さん)


避難所を回っていた保健師さんや、他の市民グループの相談窓口にも、同じような性被害の声がいくつも寄せられていましたが、当時は性暴力専門の相談機関もほとんどなく、被害を受けた女性は、声をあげることすらできない現状がありました。そこで、正井さんたちは、複数の支援団体と協力して、『私たちは暴力を許さない』という集会とデモ行進を行いました。

(性暴力の根絶を訴えながら、神戸市内を歩く女性たち 1996年 撮影)

 

ところが、当時は警察への被害届も少なく客観的資料も乏しかったため、一部のメディアから“デマ”として報じられ、正井さんたち支援者にも批判の声があがったそうです。


「バッシングされた時は本当にショックで、震えが止まりませんでした・・・。『被災地でレイプがあったと いうことが真実ならば、その情報を全国に流したことはセカンドレイプになる』と書かれているものもあったんです。声をあげることが被害者を傷つけることになるのかと、混乱しました。とても怖くなって、その後 長い間、性暴力について語ることはできませんでした。」(正井さん)

 

 


■全国の支援者や専門家が協力!「日本初の調査」へ

 

2011年3月11日、東日本大震災発生。するとその直後から、正井さんのもとには、次々と協力を申し出る連絡が・・・。阪神淡路大震災の経験を無駄にせず今後の対策につなげていこうと国内外の専門家やNPO等の団体が協力して、女性のための支援ネットワークを結成。日本国内で初めて、「災害時の女性や子どもに対する暴力」の実態調査が行われました。

 

(東日本大震災「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」調査報告書 2013年)

 

調査結果では、10代から60代までの女性や子どもたちが、さまざまな場所で、DVや性暴力の被害を受けていたことが明らかになりました。さらに、関係者が注目したのは「対価型(見返り要求型)の暴力」です。震災や津波などで夫や家族を亡くす、失業する、家財を失うなど、弱い立場の女性に支援をする対価として、性行為を要求するという事例が複数報告されたのです。

 

(「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」より)

 

調査に協力した静岡大学教育学部・同総合防災センター教授の池田恵子さんは、「災害時は、平常時の社会的構造の問題が顕在化する」と指摘します。また、海外では、早くから災害時の暴力について調査や研究が進み、具体的な対策が打たれてきましたが、日本では、東日本大震災まで、そういう議論がほとんど行われてこなかったと言います。

 

(静岡大学教育学部・同総合防災センター教授の池田恵子さん)


「災害時は、雇用や所得などの経済的格差が広がるうえ、介護や子育てなどの役割を担うことが難しい状況も加わり、弱い立場にある人たちがますます弱くなる。誰かに依存しなければ災害状況下を生き延びていけない人々には女性や子どもが多く、その格差が、暴力につながる余地を生んでいるのです。  どんな事件が、どのような場所で、どのような状況で起こっているのかを詳細に知ることは、具体的な対策に結び付けるために非常に重要です。災害に強い社会を作るという意味でも、大きな教訓が得られたのが、東日本大震災だったと思います。」 (池田さん)


同じような被害が繰り返されないために。池田さんと正井さんたちがまとめた報告書には、次のような具体的な対策案や提言が盛り込まれ、国へ届けられました。

1.災害直後からの暴力防止の啓発・相談支援の充実
2.避難所の改善(プライバシーの確保等)
3.被害者への支援・連携体制づくり(行政・警察・医療・女性支援センターなど)
4.防災・災害対策における女性の参画と男性との協働(意思決定の場の男女平等)

 

 


■女性や多様な視点が、災害に強い社会を作る

 

その後、国の防災基本計画や、内閣府の「防災・復興取組指針等」にも、災害時の安全性の確保や、復興過程における女性の参画を促進することが明記されました。熊本地震発生後は、災害直後からDVや性暴力防止の啓発活動が進められたほか、女性の意見や視点を取り入れた防災計画や避難所運営の見直し、女性の防災リーダーの育成に力を入れる自治体も現れています。

 

25年前、この問題について声をあげた正井さんは、取材の最後にこう語って下さいました。


「いま、全国各地で広がっているフラワーデモに初めて参加した時、被害を受けた女性が 『ここで話せて良かった・・』 と涙を流しながら話しているのを聞いて、安心できる場所があれば声をあげられる。25年前に語って良かったんだ、と思うことができました。 被害を受けた人達が、きちんと声をあげて訴えることができる社会であってほしい。男女がお互いを尊重しながら多様な視点で意見を出し合い考えていくことが、誰もが安心して暮らせる、尊厳を持って暮らせる社会につながると信じています。」  (正井さん)


(神戸で開催されたフラワーデモ 2019年12月11日)


今回、特集制作の取材のため、全国各地の支援者や専門家の方々にご連絡をとり、貴重なご意見や証言を多数聞かせていただきました。取材のたびに、「ようやくこの問題を取り上げてくださるんですね。ありがとうございます」と声をかけていただき、胸が詰まりました。取材者として、長く見過ごしてきたことに申し訳なさと悔しさで いっぱいです。

 

 阪神淡路大震災から25年。被害を受けた人の代弁者として、いち早く声をあげ対策を求めてきた正井禮子さんのもとには、今でも「性暴力があったなんて、いい加減なことを言うな!」という批判が寄せられるそうです。逆風にさらされながらも「埋もれた声」を掘り起こし、社会に届けてくださった先人の皆さんの血のにじむような努力と情熱に、感謝の言葉しかありません。この灯火を消さないように、私たち自身も、粘り強く伝え続けていきたいと思います。

 

 

 

阪神淡路大震災から続いてきた、「災害時の暴力」の実態と対策については、こちらの特集番組で放送します。ぜひ、ご覧ください。

3月1日(日)午前10時05分~10時53分 総合

証言記録 東日本大震災 「埋もれた声 25年の真実 ~災害時の性暴力~」

 

 

2020年2月28日

 

 

 

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