2007年8月28日
高揚感というよりも後のないがけっぷち感が先に立つ。安倍改造内閣が発足した。要所をキャリア豊富な人で固める。が、悪循環は断ち切れるか。そこが問題だ。
いずれのメディアの世論調査も、「内閣支持せず」が優に60%を超えていた。参院選の与党の惨敗からもう、ひと月近くたっている。
その間に、政権の求心力の陰りをうかがわす防衛省人事の内輪もめ、そして主要閣僚の事務所費問題にまたも火がつく事態も起きていた。
失敗したら終わり-こんな解説がワイドショーの“にわか評論家”からも語られた。締まりのなさと切迫感。それが入り交じる中での内閣改造・自民党役員人事であった。
自分を除く「人心一新」
安倍晋三首相は人事断行にあたって「反省」と「改革続行」を旗印にした。参院選の歴史的惨敗にも「基本路線は支持された」と続投した以上は、よほどの大義名分がなければ自分を除いての「人心一新」など世間に通用するはずがない。
幾人もの閣僚交代を余儀なくされた、これまでの任命責任を痛感してのことだろう。「反省」は閣僚の人選に事前の“身体検査”で時間をかけたことにも表れている。
総務相から官房長官への起用も取りざたされた菅義偉氏は党の選挙対策総局長へ転出、自主申告で難を認めたとされる二階俊博氏は国対委員長から官房長官などへの入閣はかなわず総務会長で処遇された。
二階氏は党内各派との良好な関係に持ち味がある。「党内治安」を期待されての三役入りであった。
党を表で仕切る幹事長には下馬評通り外相の麻生太郎氏が就いた。早期の衆院解散に追い込まれたときの選挙向けということでもある。
内外に意外感のあるのが石原伸晃氏の政調会長起用だ。首相の友人の一人で、かつての政策新人類。参院過半数の野党との政策調整が託される。党は守りの布陣となった。
手堅いが新鮮味乏しく
「改革続行」は、総務相に改革派知事で知られた増田寛也氏の起用、伊吹文明文部科学相と渡辺喜美行革担当相、甘利明経済産業相、大田弘子経済財政相らの留任に、首相の思いを読み取ることができる。続けたいのは、分権、教育、行革、成長路線ということなのだろう。
内閣改造のポイントとなった官房長官、直面する九月臨時国会で焦点になるテロ対策の特別措置法延長を抱える防衛相と外相、さらに財務相に、それぞれベテランや派閥領袖クラスを配置している。
年金問題の厚生労働相に首相続投を厳しく批判した参院自民の政審会長舛添要一氏を起用したのは、「お友だち内閣」と批判された学習効果がしのばれて、わかりやすい。
主要閣僚は入れ替えて重厚さを感じさせるが、目新しさに欠けるのは「かつての自民党内閣」復活の印象が否めないからだ。
官僚を束ねられない的場順三官房副長官が引き続きその職にある、として、不満を隠さない議員も多い。
官房長官の与謝野馨氏はかつて官僚に近すぎると指摘された。病み上がりの懸念もある。財務相の額賀福志郎氏には二度閣僚を途中辞任した「ツキのなさ」がつきまとう。
町村信孝外相、高村正彦防衛相は思想的にタカ派とされるが、首相の外交姿勢や復古調の歴史認識といささか趣の異なるものがある。
対米・対アジア関係や、歴史観で閣内一致は保たれるのかどうか。万一、テロ特措法延長をめぐって内閣が混乱するようなことになれば政変にも発展しかねない。そんな不安を改造内閣は抱える。
首相と思想的に極めて近く、政調会長から重要ポストでの入閣を取りざたされていた中川昭一氏は、なぜか人選に漏れている。
新内閣の売り物だったはずの五人の首相補佐官は二人を残して事実上の解散状態らしい。論功行賞の内閣発足時人事が十分な説明や総括のないまま修正された格好だ。首相の手がける人事に一貫性が欠けては、みんなが戸惑うだろう。
この組閣にあたって首相の唱える「戦後レジーム(体制)脱却」はどこまで意識されたのか。首相はこの顔ぶれでいったい何を志すのか。新閣僚の記者会見でも、そのへんはさっぱり聞けずじまいであった。
首相は記者会見で「美しい国、新しい国づくりに取り組んでいく」と力説した。クギを刺しておきたい。先の参院選で問われたのは首相の資質、統率力の欠如でもあった。内閣の顔ぶれを変えても、そこを不問にしては政権再浮揚など考えにくい。
行き詰まったら解散を
改造人事後の記者会見で首相は述べた。「政策の実行力に力点を置いた。適材適所で人事を行った」。はじめからそうしていれば、また別の展開があったのかもしれない。いまさら、の手遅れ感がある。
これをどうぬぐうか。ぬぐえず行き詰まれば総選挙で信を問うしかない。それでも選挙を避けるなら、党の参院選総括が答えを出している。
「自分の起こした問題を説明できなければ、自ら辞める覚悟を」と。
東京新聞
高揚感というよりも後のないがけっぷち感が先に立つ。安倍改造内閣が発足した。要所をキャリア豊富な人で固める。が、悪循環は断ち切れるか。そこが問題だ。
いずれのメディアの世論調査も、「内閣支持せず」が優に60%を超えていた。参院選の与党の惨敗からもう、ひと月近くたっている。
その間に、政権の求心力の陰りをうかがわす防衛省人事の内輪もめ、そして主要閣僚の事務所費問題にまたも火がつく事態も起きていた。
失敗したら終わり-こんな解説がワイドショーの“にわか評論家”からも語られた。締まりのなさと切迫感。それが入り交じる中での内閣改造・自民党役員人事であった。
自分を除く「人心一新」
安倍晋三首相は人事断行にあたって「反省」と「改革続行」を旗印にした。参院選の歴史的惨敗にも「基本路線は支持された」と続投した以上は、よほどの大義名分がなければ自分を除いての「人心一新」など世間に通用するはずがない。
幾人もの閣僚交代を余儀なくされた、これまでの任命責任を痛感してのことだろう。「反省」は閣僚の人選に事前の“身体検査”で時間をかけたことにも表れている。
総務相から官房長官への起用も取りざたされた菅義偉氏は党の選挙対策総局長へ転出、自主申告で難を認めたとされる二階俊博氏は国対委員長から官房長官などへの入閣はかなわず総務会長で処遇された。
二階氏は党内各派との良好な関係に持ち味がある。「党内治安」を期待されての三役入りであった。
党を表で仕切る幹事長には下馬評通り外相の麻生太郎氏が就いた。早期の衆院解散に追い込まれたときの選挙向けということでもある。
内外に意外感のあるのが石原伸晃氏の政調会長起用だ。首相の友人の一人で、かつての政策新人類。参院過半数の野党との政策調整が託される。党は守りの布陣となった。
手堅いが新鮮味乏しく
「改革続行」は、総務相に改革派知事で知られた増田寛也氏の起用、伊吹文明文部科学相と渡辺喜美行革担当相、甘利明経済産業相、大田弘子経済財政相らの留任に、首相の思いを読み取ることができる。続けたいのは、分権、教育、行革、成長路線ということなのだろう。
内閣改造のポイントとなった官房長官、直面する九月臨時国会で焦点になるテロ対策の特別措置法延長を抱える防衛相と外相、さらに財務相に、それぞれベテランや派閥領袖クラスを配置している。
年金問題の厚生労働相に首相続投を厳しく批判した参院自民の政審会長舛添要一氏を起用したのは、「お友だち内閣」と批判された学習効果がしのばれて、わかりやすい。
主要閣僚は入れ替えて重厚さを感じさせるが、目新しさに欠けるのは「かつての自民党内閣」復活の印象が否めないからだ。
官僚を束ねられない的場順三官房副長官が引き続きその職にある、として、不満を隠さない議員も多い。
官房長官の与謝野馨氏はかつて官僚に近すぎると指摘された。病み上がりの懸念もある。財務相の額賀福志郎氏には二度閣僚を途中辞任した「ツキのなさ」がつきまとう。
町村信孝外相、高村正彦防衛相は思想的にタカ派とされるが、首相の外交姿勢や復古調の歴史認識といささか趣の異なるものがある。
対米・対アジア関係や、歴史観で閣内一致は保たれるのかどうか。万一、テロ特措法延長をめぐって内閣が混乱するようなことになれば政変にも発展しかねない。そんな不安を改造内閣は抱える。
首相と思想的に極めて近く、政調会長から重要ポストでの入閣を取りざたされていた中川昭一氏は、なぜか人選に漏れている。
新内閣の売り物だったはずの五人の首相補佐官は二人を残して事実上の解散状態らしい。論功行賞の内閣発足時人事が十分な説明や総括のないまま修正された格好だ。首相の手がける人事に一貫性が欠けては、みんなが戸惑うだろう。
この組閣にあたって首相の唱える「戦後レジーム(体制)脱却」はどこまで意識されたのか。首相はこの顔ぶれでいったい何を志すのか。新閣僚の記者会見でも、そのへんはさっぱり聞けずじまいであった。
首相は記者会見で「美しい国、新しい国づくりに取り組んでいく」と力説した。クギを刺しておきたい。先の参院選で問われたのは首相の資質、統率力の欠如でもあった。内閣の顔ぶれを変えても、そこを不問にしては政権再浮揚など考えにくい。
行き詰まったら解散を
改造人事後の記者会見で首相は述べた。「政策の実行力に力点を置いた。適材適所で人事を行った」。はじめからそうしていれば、また別の展開があったのかもしれない。いまさら、の手遅れ感がある。
これをどうぬぐうか。ぬぐえず行き詰まれば総選挙で信を問うしかない。それでも選挙を避けるなら、党の参院選総括が答えを出している。
「自分の起こした問題を説明できなければ、自ら辞める覚悟を」と。
東京新聞
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