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体外受精で取り違え 初歩的ミス生む土壌

2009年02月23日 | スクラップ





■実施病院、10年で急増/施設・人員追いつかず

 香川県立中央病院で発覚した体外受精での受精卵取り違え疑惑は、受精卵が入った二つのシャーレを混同したとみられる初歩的なミスが原因だった。不妊治療は精神的にも経済的にも負担は大きいが「わが子を抱きたい」と医療機関の扉をたたくカップルは増え続けている。一方、支える医療機関側は、必ずしも十分な体制の施設ばかりではない。【高木昭午、奥野敦史、日野行介】

 受精卵を取り違える危険性は、以前から指摘されてきた。

 95年、石川県小松市の不妊治療専門クリニックが、名前のよく似た女性を取り違えて受精卵を戻した。直後にミスが分かり、妊娠に至らなかった。愛知県小牧市の小牧市民病院では02年、人工授精を受けた女性に誤って夫以外の精液を注入したため、妊娠しない処置がされた。

 英国では02年、白人夫婦が体外受精で双生児を授かったが、赤ちゃんの1人が黒人で取り違えが発覚した。

 取り違え一歩手前の事例はさらに多い。

 蔵本ウイメンズクリニック(福岡市博多区)が07~08年に実施した全国調査によると、回答した不妊治療施設114カ所のうち、患者の取り違えなどを「身近に感じたことがある」と回答した施設は56と約半数を占めた。回答では▽受精卵の取り違え▽精子の名前の誤記入--などの事例があった。取り違え防止や事故発生時のマニュアルについては4分の3を超える87施設が「なし」と答えた。

 受精卵の培養などを担当する技術者らでつくる「日本臨床エンブリオロジスト学会」(会員570人)の佐藤和文理事長(聖隷浜松病院臨床検査技師)によると、取り違え防止には▽受精卵の入ったシャーレの底部とふたの両方に記名する▽取り出す場合は名前を2人で読み合わせる--などの方法がある。ただ、統一マニュアルはなく各施設の工夫に任されている。人員不足でチェックが難しい施設や、十分な訓練をせずに体外受精を始める施設も多い。

 国際医療技術研究所(宇都宮市)の荒木重雄理事長は「体外受精をする病院はここ10年で急増したが、法的な安全基準がなく体制はバラバラ。事故を起こしかねない施設は多いのではないか」と安全確保が伴わない実情を指摘する。

 荒木理事長によると急増の背景には、医療事故のリスクが高い分娩(ぶんべん)を取り扱うよりも、体外受精で収入を確保したいという経営事情がある。ただ、受精卵の管理がずさんな施設も多いという。

 04年度の厚生労働省研究班の調査では、全国の不妊治療施設のうち日本産科婦人科学会が「備えることが望ましい」とする設備や人員をすべて備えていたのは2割未満。受精卵を扱う技術者がいない施設も3割弱あった。

 07年度から厚労省の指示で、各都道府県が施設を訪れて設備や人員などを調べる制度ができた。ただ、調査担当者はまだ不慣れなのが実情。佐藤理事長は「本格的な改善には少し時間がかかるだろう」と話している。

 


■事故の病院、マニュアルなし

 香川県立中央病院には受精卵の取り違えを防ぐマニュアルはなかった。

 慣例では、顕微鏡のある作業台上に受精卵入りのシャーレを複数載せる場合、すべて同じカップルのシャーレを載せる▽複数のカップルの受精卵を調べる場合、必ず作業台を片づけ、何もないことを複数の医師らが確認後に新たなシャーレを載せる--ことなどになっていた。

 今回、作業台上を片づけた確認をしたのは担当医師1人だけ。慣例に反しており、直前に検査した別のカップルのシャーレをそのまま置いていた可能性があるという。

 病院は疑惑発覚後、慣例を明文化。シャーレの底部に名前入り識別用バーコードを付け、区別しやすいよう色つきテープを張ることにした。

 


■体外受精、日常的医療に 出生56人に1人

 国内では10組に1組のカップルが不妊に悩んでいるといわれ、背景として晩婚化や妊娠、出産の高年齢化が指摘され、不妊治療が発展してきた。

 不妊治療は、女性の排卵期に合わせて自然妊娠を目指す「タイミング指導」から始まる。これで妊娠できない場合、子宮に男性の精液を直接注入する「人工授精」、さらに卵巣から体外に取り出して培養液の中で精子と受精させ、その受精卵を子宮に戻す「体外受精」へと進む。

 国内初の体外受精児は83年10月に、東北大で誕生した。日本産科婦人科学会によると、06年に体外受精で生まれた子供は1万9587人。国内の出生数の56人に1人に達し日常的な医療行為となっている。また、厚労省は04年度から所得などの条件に合致した夫婦を対象に体外受精などの不妊治療の費用の補助を始めた。1回10万円が年2回、通算5年支給される。04年度1万7657組だった支給対象は、07年度に6万536組へと急増している。


 

毎日新聞 2009年2月20日 東京朝刊


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