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経済危機、心強く持って /東京

2009年01月04日 | スクラップ
(香山リカのココロの万華鏡)



 小林多喜二の『蟹工船』が書かれたのは、ニューヨークの株が大暴落して世界大恐慌が始まった年だ。それから約80年経(た)って時ならぬ『蟹工船』ブームが訪れているが、経済危機も一緒に訪れた。

 今回の問題がこれまでとはちょっと違うな、と門外漢の私が感じるのは、診察室に早くもその影響を受けて不眠やうつ症状を呈する人がやって来ている、ということだ。

 おそらくこの人たちは、この危機が一過性のものではないことを心のどこかで察知して、敏感に反応しているのではないだろうか。切迫した表情で「世の中、どうなるのでしょう」と語る人たちの話を聞きながら、「もしかして今後、多くの人々の心が壊滅的なダメージを受けることになるかもしれないぞ」とついこちらまで悲観的な想像をしてしまいそうになる。

 とはいえ、金融の世界で起きている危機は、今のところ直接、私たちの家を奪ったり食糧を減らしたりしているわけではない。「株価がいくら下がりました」と言われても、手もとからすぐお金が消えるわけではないから、実感を持てない人もいるだろう。

 しかし、この「実体が目に見えない」ということが、さらに私たちの不安をあおり、ストレスになる可能性もある。たとえば、天災で家の一部が壊れた、といったダメージなら、私たちは力を合わせてそれを修復することで危機を乗り越えることもできる。ところが、投資の世界のマネーの増減の話となると、もはや私たち個人がどうこうできる問題ではない。「なんだかよくわからないがたいへんなことが起きていて、どうやらそれはそのうち、私たちの生活にも影響しそうだ」といたずらに不安をかき立てられるだけだ。

 この「目に見えず、対処のしようがない不安」ほど、人の心にとって有害なものはないことは、この連載コラムでも繰り返し指摘してきた。今回は、それが世界規模でやって来た、と考えてもよい。

 では、私たちはどうやってこの事態に備えればよいのか。

 まずひとつは、情報に過剰に振り回されないことだ。楽観論も悲観論もいけない。そして、毎日の衣食住や家族との会話など、目に見える生活にしっかり取り組む。そうやって心のエネルギーをたくわえておかないと、いつのまにか不安に心をむしばまれ、うつ病などになってしまう可能性がある。

 経済危機は、心の危機でもある。自分と目の前の現実をしっかり信じて、ひとりひとりが心を強く持たねばならない。





毎日新聞 2008年10月15日 地方版

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