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妊婦受け入れ拒否 都心でも産科崩壊寸前

2008年10月25日 | スクラップ
■医師不足、拠点まで--当直1人、土日対応に限界■

 都立墨東病院が今月4日、36歳の妊婦の受け入れをいったん拒否し、その後妊婦が死亡した問題は、緊急を要する妊婦に対する医療体制の不備や医師不足が東京など大都市にも及んでいることを示した。周産期医療の拠点病院でも医師の勤務実態は厳しく、搬送のための連絡態勢にも課題を残した。

 「亡くなられた方、そしてご遺族の方々に心よりお悔やみ申し上げます……」

 22日午後3時すぎ、東京都庁で開かれた記者会見。立ち上がって頭を下げたのは病院経営本部の及川繁巳・経営企画部長1人だけで、残りの説明者4人は座ったまま。しかも「おわび」ではなく「お悔やみ」。今回の問題での都の複雑な立場を物語っていた。

 墨東病院は一報を受けた4日午後7時の段階で、女性の症状をどう認識していたのか。

 会見で同病院の林瑞成(ずいせい)・周産期センター産科部長らは「下痢と吐き気があって、頭痛が少しあるという状態での依頼だった。一般的には感染症を疑うべき症状」と繰り返した。

 当時、産科の当直医として連絡調整に当たっていたのは経験4年の医師1人。適切な判断が疑われる背景には、医師不足で進む周産期医療の形骸(けいがい)化がある。

 都は同病院を「総合周産期母子医療センター」に指定しているが、基準は「複数の医師が24時間診療できることが望ましい」というあいまいなものだ。産科スタッフは常勤医の定数を9人としているが、法律や内規などで義務付けられたものではない。現状は常勤医の4人に加え▽非常勤のシニアレジデント(研修医)2人▽非常勤医師2人▽応援の非常勤医師7人--で日常業務をやりくりしているという。

 以前からも産科医不足に悩まされ、06年11月からは新規の一般分娩(ぶんべん)患者の受け入れを停止した。今年6月末にシニアレジデント1人が退職し、7月からは土日の当直は1人態勢に切り替え、土日の救急の受け入れを制限していた。それでも07年度の母体受け入れ数は199件で都内の同センター9施設の平均よりも約90件多く、林部長は「この人数でも頑張ってやっている」と理解を求めた。

 総務省消防庁が今年3月にまとめた07年の妊婦の救急搬送の実態調査によると、昨年全国で10回以上受け入れ拒否された53件のうち31件が都内。また、救急搬送されるまでに30分以上かかったのは264件、2時間以上は6件でいずれも全国最多。首都・東京の周産期医療は限界近くまで疲弊しているといえる。

 都内の産科医は06年に1411人となり、88年の1813人に比べ2割以上も減っている。都福祉保健局の吉井栄一郎・医療政策部長は「厳しい状況の中で役割分担をし、他の圏域からの応援ができる仕組みを作りたい」と話し、医療機関同士の協力態勢の再構築を急ぐ考えを示した。【木村健二、堀智行】





■搬送調整役を設置--大阪・千葉■

 妊婦の命にかかわる出産はまれではない。日本産科婦人科学会が04年に実施した調査によると、約12万人の分娩で32人が死亡した。うち、今回の妊婦と同じ脳内出血も4人。延べ417人が生死をさまよい、妊婦の250人に1人が命にかかわる状態に置かれた。久保隆彦・国立成育医療センター産科医長は「重症例は必ず発生する。危険度が増す高齢出産も増えている」と話す。

 現行体制の限界を指摘する見方もある。総合周産期母子医療センターは、危険度の高い出産の「最後のとりで」と考えられ、未熟児など新生児の救命を目的に設置された。現在45都道府県で74病院が指定されている。しかし、母体救命の設備を必須としていない。母体の救命を優先するならば、一般の救命救急センターに搬送したいが、多くの家族は「胎児も助けてほしい」と希望するため、総合周産期母子医療センターへ搬送される。ある産婦人科医は「結果的に母親への対応は後手に回る」と打ち明ける。

 緊急を要する妊婦の搬送体制にはどう対応するのか。奈良県橿原市の妊婦が搬送中に死産した問題を受け、大阪府は搬送先の調整に当たるコーディネーターを昨年11月に全国で初めて設置。千葉県でも24時間対応のコーディネーターを置いた結果、妊婦の県外搬送が減ったという。

 「受け入れ拒否」を防ぐ取り組みも求められるが、産院を経営する医師は「施設やシステムが構築されても、訓練と当事者意識が徹底されないと再び起きかねない」と指摘する。【永山悦子、奥野敦史、清水健二】





◆妊婦死亡までの経過◆

<4日(土)>
午後7時ごろ
  女性(36)が江東区のかかりつけの産婦人科医院に搬送される。主治医が墨東病院に受け入れの可否を問い合わせるが、当直医は「土日は基本的に母体搬送を受け入れていない」と説明。連絡した計7病院に断られる

同45分ごろ
  主治医が再び墨東病院に受け入れを依頼。当直医が外にいた産科部長に緊急登院を要請

同8時ごろ
   墨東病院が産婦人科医院に「受け入れ可能」と連絡

同18分
   女性が墨東病院に到着。救急車内で意識レベルが低下し、到着時には呼吸停止状態に

同9時41分
  帝王切開で胎児が生まれる(病院側が胎児から先行して手術を進めることを説明し、家族は同意)

同10時24分
 女性の頭部の手術を開始

 

<5日(日)>

午前1時28分
 頭部手術が終了
 ※その後、女性の症状が悪化

<7日(火)>

午後8時31分
 女性が死亡





毎日新聞 2008年10月23日 東京朝刊
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