墨汁日記

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夏休みの木村実

2006-08-10 20:07:37 | 駄目
 俺の名前は木村実。
 福島市の市立中学の1年生だ。

 夏休みはヒマだね。
 夏休みにまで遊んでくれるほど親しい友人もいないし、中学に入学した時にこれなら続けられるかもと「卓球部」に入部したんだけど、なんだか基礎トレばっかで試合にも参加出来ないくせに、そろいのジャージだの言い出すし、ラケットも強制で買わされるし。
 自前じゃないのはピンポン球と卓球台だけ。
 そのうえ、夏休みまでほぼ強制で合宿。
 たかがピンポンじゃねーかとアホらしくなって、夏休み前に退部した。 

 ヒマなんでマンションの廊下を徘徊してたら、マンションのガキ共が「ヘラクレス」だとか「コーカサス」だとか言っている。
 なんだそれと思って眺めていたらただの虫かごの虫けらじゃん。
 ムシキングだかなんだかしらないけど、虫を金出して買ってきて、その金を親におねだりするのはなんだか俺的に許せない。

「お前ら、虫の最高は、オオクワだぞ!」

 つい、小学生低学年相手にぶちかましてしまった。
 ところが、思いもしなかった事に、低学年共は「オオクワ」にくいついてきた。

「兄ちゃん、オオクワのいるところ知ってんの!」

 もはや、知らんとも言えないな。

「あぁ、俺の半生はオオクワとともにあったと言っても過言ではないだろう」

 低学年共の目はすでに潤み、尊敬のまなこで俺を見つめている。

 そんななんで。
 最近は、4時起きして暗いうちに懐中電灯をもって裏山のクヌギ林に出かけるのが日課になっている。じつを言うと、俺にはクワガタムシの区別なんて全くつかない。でもなんだか7センチ以上だとオオクワなのらしい。
 朝4時に起きて、懐中電灯と竹の30センチ物差しを持って裏山に出かける。五つ年上の姉ちゃんの男が、この裏山でオオクワを捕えた事があると姉ちゃん経由で聞いたので、そのうち見つかるだろう。

 クラスの気の合う友達は、他の小学校からきた内山という奴だけだ。残りのクラスメイトは、いつ敵にまわるか分からないので油断出来ない。
 俺は、彼の事を敬意を込めて「うっちん」と呼ぶが、彼は俺を「木村」と呼び捨てにする。少々ムカつくが敵にはならない奴だし許してやろう。
 
 夏休みにはいってすぐに、うっちんから「暑中見舞い」のハガキがきた。
 あー、偉いな感心だなと感動した。
 来年は、俺も早めに「暑中お見舞い」をだそうと決意すらした。
 ところが、その次の日の次の日にも、同じ内容の「暑中お見舞い」がまた届けられた。
 その後も、しつこく何度も何通も。
 なんだよ嫌がらせかと思っていたら、昨日に最後の「暑中見舞い」が届いた。

「暑中お見舞いだけに、しょっちゅうおみまい」

 で、今朝にうっちんから「残暑お見舞い」が届いた。

「残暑がきびしいざんしょ!」

 彼は俺以上に、夏休みがヒマでヒマでたまらないらしい。


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