親父曰く

　俺は新聞屋で夕刊配達のアルバイトしてるんだが、その俺がつとめている新聞販売店の向かい側にあるラーメン屋には、昼間から酒を飲んでいる名物親父がいる。

　どう名物かというと、とにかく声がでかい。
　道路を挟んだ新聞販売店の軒先で、新聞を配達のバイクに積んでいる間にも親父の声がリアルタイムに実況生中継で俺の耳にまで届く。
　毎日ラーメン屋で飲んでいるわけではなくて、頻繁な時は週に２、３日。来ない時は２、３ヶ月も姿を見せない。最近はあまり来ていないようだ。

　親父が大声で怒鳴りながら酒を飲んでいると、「いい御身分だよね」と配達員は馬鹿にするが、世間様から見りゃ、俺も含めて新聞屋だってなかなかの「いい御身分」だ。

　ある日、親父がこんな事を言ってた。たぶん、周りの人から飲みすぎだとか注意されて言ったのだろう。

「バカヤロー！ 誰が酔っぱらってぃるって。フザケンナよ、誰が昼間から酔うもんかっての！」

　親父曰く、昼間飲む酒では酔わないらしい。その割にはロレツが危なかった。