夢を語った馬鹿

　俺は漫画家になりたかった。しかし、その為の努力は、なんもしてない。努力が嫌いだからだ。そんなこたーどーでもいい。
　俺は悟ったのだ。俺が漫画家なんかにならなきゃならない理由は実は一つもなかったのだと。理由も意味もない。けっこうなことである。だが、俺自身が楽しんで漫画を描くんでなければ、描かないほうがいーのだ。いや、むしろ描くな！と言いたい。
　そう、俺は漫画家として成功した自分になりたかっただけなんだ。手塚治虫になりたかっただけなんだ。手塚治虫の人生や漫画が俺の目標だっただけなんである。実際の俺には漫画を完成させるだけの才能も忍耐もない。第一、楽しんで描いてない。
　漫画家として、成功することが俺のたったひとつの夢であった。そして、夢がかなった時、俺は特別の俺になれるはずだったのだ。馬鹿だ。夢なんて叶おうが叶わなかろうが、俺は俺だ。特別の俺なんかにゃ絶対なれない。俺はどこまでいっても俺なんだ。
　漫画を描くのが楽しくないなら、かかなきゃいーだけだ。こんなにも、すでにこの世界は漫画であふれている。俺が描かなきゃならん理由はどこにもない。
　そんなで、俺の夢は終了した。後に残るのは、余生だけだ。３５にして、残りの人生が余生と化してしまった。もう、どうでもいいのだ。残りの人生は全て自由時間である。キャッホー！さーて、なにして遊ぶかな。