(mixi の日記から)
ネットはあまりに広大である。
もはや、個としてその世界の広さを全て認知出来る知性は無い。
有限ではあるけれど、知性持つモノには既に『無限』としてしか理解出来ないほどに拡大した世界。
そのネットの暗闇を、かすかな反応がふたつ。ヨレヨレと移動していく。
ビーッ!!
ビーッ!!
『警告 ー この先は、mixi 特区です。無関係者の即時退去を命令します!』
けたたましい警報と共に大音響で流される警告!
「お兄ちゃん、怖い」
「大丈夫。センサーで大騒ぎするだけのプログラム。どこともリンクしていない。ただの案山子だよ」
彷徨う二人は兄妹だった。
この二人は、ついこの間まで、とあるサイトのイメージキャラクターであった。
某企業が、宣伝の為にこしらえた『妖精の国』のイメージキャラクター。兄妹の妖精。
それが、この二人だ。
でも、何故、この二人はサイトから離れ、ネットを彷徨っているのか?
それは、『妖精の国』のサイトが消滅したから。
本来なら、サイトの消滅。ログの消去と一緒に、消えていなくなってもおかしくない二人だった。
だが、彼らはマスコットキャラとして特に愛されていた。
人々から愛される事により、彼らはネットの中で生命を得た。
そして、その愛された記憶が、彼らを消去から救ったのだ。
サイトの消滅によって、ほかの『妖精の国』の仲間達は全て瞬時に消え去った。もう、『妖精の国』も、その仲間達もどこにもいない。『妖精の国』はスポンサーの都合で中止となった。全ては人間の都合で生み出され消される。
ポツン。
と、気がついたら兄妹二人だけが、ネットの暗闇に佇んでいた。
「寒いよ。眠いよ」
妹が言う。
ネットの世界に明確な形は無い。
有るのは意思だけ。
意思のみが全てをつくる。
気がつくと、二人は吹雪の中を歩いていた。
心象風景が即座に形になる。
仮想現実。
心に思い描いたモノが現実となる。
「いやだよ。もう、歩けない」
兄は妹を背負い歩き出した。
妹は信じられないほどに軽かった。放浪の間に、あちこちでしょいこんだ無駄な命令文が、妹の体にバグとして食い込み妹の体を食い散らかしているらしい。
「背中あったかい」
兄は黙々と歩き続けながら考えた。
妹の体はもう限界だ。
魂の無い僕らのようなネットの住人にとって、人に見てもらう事、アクセス数だけが生命の糧となる。
すぐにでも、どこかのサイトに潜り込んで、妹にアクセス数を与えないかぎり、妹はじきに消滅する。
いや、僕だって、もうそんなにもたない!
何処でもいいんだ。
なんでもいい。
アクセス数が欲しい。
それさえあれば、妹の身はなんとかなる。
もう僕はどうなってもいい。
だから!
この背中で今にも消え入りそうな妹の消去だけは許してくれ!
だが、どれだけ歩こうとも潜り込めそうなサイトは何処にもない。どのサイトも、侵入者やウィルスよけに高い城壁を張り巡らし、その門は『パスワード』を問う門番に守られている。
兄妹のはるか頭の上を、多数の情報が飛び交う。
活動しているサイトは情報を発信し受信する。
頭上を鳥の群れのように行き来する情報。
兄は空を見あげた。せめて、翼があったなら行き交う情報にまぎれてサイトの中に潜り込めるのに。
ネットは膨大で、どこかにあるだろう潜り込めそうなサイトを探して兄妹は放浪する。確かにどこかにあるのだろうが、どこにあるとも分からない。
ネットの世界はあまりにも広大である。
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