今は無い故郷

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　俺は、親父の転勤先の神奈川県で生まれ、その土地は幼稚園入園前に離れているので、ほとんど最初に住んでいた家の記憶はない。
　俺の記憶に生涯残るであろう家は、国分寺で借りていた借家である。木造平屋建ての一軒家。俺たち一家は、この借家で１４年間、妹を含めて４人で住んでいた。今になっても、この家の事は夢にまで出てくる。
　今風にいうなら 2DK である。だが、現実そんなしゃれたものじゃない。
　その家は、最後までぼっとん便所で、便所の鍵は木製のかんぬきだ。風呂に脱衣所はなく台所のガラス戸を明けるといきなり風呂場。
　マイカーは存在したが、社用車のクラウンで、親父は風呂釜メーカーの秘書課勤めの運転手だった。クラウンが一台とめられるぐらいの庭があったが、会社の車だから駐車場代が支給されていたのだろう、クラウンは近所の駐車場に停めていた。一尺程の縁側は腐っていつもぐじぐじしていて、雨戸の立て付けは超悪く、戸袋には雀が巣をつくった。庭にはおふくろが良くネギを植えていたっけ。
　狭い家にぎゅうぎゅうに家族４人とその持ち物が詰め込まれ、ちっちゃくなって暮らしていた。

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