スカ

　今日は気分が悪い。仕事ものらない。フランスパンのパンチを忘れた。最低。やっぱり俺はパン屋に向いていない。
　夕刊配達も中途半端。新聞も変なあまり方をした。どこかで間違えて配達したらしい。アルバイトすら満足にこなせない。俺は駄目。だめだめの駄目人間。

　自分に嫌気がさす。

　ところで。今日はみょうに寒い。なぜだろう？俺がおかしいのか？
　新聞屋のまかないのおじさんも今日は寒いと言ってたから、たぶん本当に寒いんだ。

　夕刊の配達を終えて、西武線の駅まで歩く。
　下を向いて歩く。誰とも目線をあわせたくない。
　なんで、俺はこんなに下らない男なんだ。誰か助けてくれ。誰か俺をここから引き上げてくれ。

　下を向いて歩いていると、道にキラリとひかるものが落ちている。

　あの輝きと質感は！まぎれもない５００円玉！
　朝一番で排水溝に落とした一円玉が５００倍になって帰ってきた。

　俺にもツキがまわってきた。大喜びで拾い上げると５００円玉にしちゃなんだか軽い。手のひらにのせて確認してみる。

　KHSと刻印されている。

　スロットかゲーセンのコインだ！

　俺はまたまたスカをつかまされたのだ。
　いや、俺自身がすかすかのスカなのだ。俺こそスカ中のスカ。スカキングなのだ。

　大騒ぎするほどの事じゃない。スカがスカ拾っただけの話しだ。
　なんだか。拾った手前、コインを道に捨てるのも気がとがめる。

　心の中で、コインに話しかける。

　「ま。スカはスカ同士で仲良くしようや。」

　ポケットにコインをしまい俺はまた駅に向かって歩き出す。