印刷図書館倶楽部ひろば

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発売20年を迎えるフルメカニカル・フィルム一眼レフ ニコンFM10

2015-01-07 10:03:39 | 印刷人のフイルム・フイルムカメラ史探訪


発売20年を迎えるフルメカニカル・フィルム一眼レフ ニコンFM10

          
印刷図書館クラブ
印刷人のフィルム・フィルムカメラ史探訪 VOL-5

<印刷コンサルタント 尾崎 章>


今年2015年12月に㈱ニコンのフィルム一眼レフ・FM10が発売以来20年を迎える。
2~4年の短い期間でモデルチェンジ、マイナーチェンジが行われるデジタル一眼レフと異なりフィルム一眼レフは総じてロングライフ製品が数多く見られ、発売以来20年の記録をニコンF3(1980~2000年)と旭光学(現:リコーイメージング)のペンタックスLX(1980~2000年)が保持しているがニコンFM10はこの記録を上回る可能性を有している。


・ニコンFM10





写真後進国向けの低価格・マニアル一眼レフ市場


1985年にミノルタカメラ(現:コニカミノルタ)が発売したオートフォーカス一眼レフα7000は空前の大ヒットとなり、ニコン、キャノン、旭光学等の競合各社は急遽AFオートフォーカス一眼レフの商品化に迫られる程の影響を受けた。ミノルタカメラが競合他社に与えた衝撃は「αショック」として今日まで語り継がれている。



ミノルタα7000




1990年初頭には各社AF一眼レフが出揃いフィルム一眼レフはAFオートフォーカスが標準仕様となるが東南アジア・中南米・東欧等の写真後進国には「電池不要」の機械式マニアル一眼レフの需要が残り、グローバルな営業展開を図るカメラ各社は当該市場向け製品供給の必要に迫られる状況となった。
しかしながら、フルメカニカル・フィルム一眼レフを新たに開発・生産する程の市場規模では無い事より各社は軒並みOEMによる製品調達を選択している。カメラ各社がOEM調達先として白羽の矢を立てた会社が長野県の光学機器メーカー・㈱コシナ(長野県中野市)である。
最初のコシナからのOEM製品は、ヤシカFX3・スーパー2000(1993年 ボディ価格24.800円)で当時の㈱京セラは「コンタックス」ブランド展開を行っていたが写真後進国で高いブランド力を有していた「ヤシカ」ブランドをあえて採用、同時に国内市場向けの販売も行っている。


OEMのベース・コシナ2000




ヤシカFX3・スーパー2000





続いて㈱リコーが1994年にリコーXR-8スーパー(ボディ価格29.800円)を発売、ニコンは1995年にFM10のネーミングで発売を開始している。(ポディ価格37.000円)


リコーXR-8スーパー




最後は、オリンパスOM2000(1997年・37.000円)でオリンパス・ペンシリーズ(アナログ~デジタル)等々、同社製品の開発担当として著名な米谷美久さん(1933~2009)の強い意向でスポット測光、ガンメタリック塗装等を追加してOEM他社製品との差別化を図っている。


オリンパスOM2000




ヤシカFX3スーパー2000、リコーXR-8スーパー、ニコンFM10及びオリンパスOM2000は、いずれも機械式フォーカルプレーンシャッター、定点合わせ式マニアル測光、マニアルフォーカス、手動フィルム巻き上げ等々、マニアル操作のオンパレードで有ったが、廉価版デジタル一眼レフの多くが採用するペンタミラーを使わずペンタプリズム(視野率93%,倍率0.84倍前後)を採用する等、マニアル一眼レフの基本性能を有していた事よりオートフォーカス時代でも国内一部ファンの支持を得ていた。
特に、ニコンFM10は2013年には販売累計80万台を超える隠れたヒット機種となり、写真学校生徒向け需要も加わり今日まで販売が継続されるロンクライフ製品となっている。来年度のロングライフカメラ新記録樹立が楽しみであるがカメラ量販店でトイカメラと並べて陳列されている光景はフィルムカメラファンにとって寂しい限りである。



キャノン、ニコンのフィルム一眼レフ・フラッグシップモデルも未だ現役

2000年に発売したキャノンのフィルム一眼レフ最上位機種・EOS-1Vと2004年にニコンが発売したフィルム一眼レフ最上位機種・F6が現役製品であることは意外に知られていない。
EOS-1Vが14年、F6が10年のロングライフ製品で、特にニコンF6はデジタル一眼レフ・ニコンDfと共に国内生産機種で同社・仙台工場でベテラン作業者によって生産されている貴重なモデルでもある。


ニコンF6




ニコンでは、この2機種以外の一眼レフ全製品の生産をタイ工場に移管しており、品質差は全くないと同社はコメントしているものの消費者側としては高額一眼レフについては国内生産を行いMADE IN JAPANを記して欲しい所である。
デジタル一眼レフ・ニコンDfは、写真学会会員向け製品紹介時に日本品質をセールストークとして、「ではタイ生産品とは品質差があるでは?」との矛盾を指摘された経緯もある。
来日中国人がカメラ量販店でMADE IN CHAINA、MADE IN THAILANDのデジタルカメラを購入しない理由は、彼らが一番良く知っているのかも知れない。



チノンもキャノンとアグファに低価格マニアル一眼レフを提供

㈱コシナと共にチノン㈱(長野県茅野市 2004年コダックに吸収合併)もキャノン、アグファに低価格マニアル一眼レフのOEM供給を行った経緯が有る。
キャノンが1990年に海外専用マニアル一眼レフ・T60を発売しているが、このT60はチノンからのOEM調達品で有った。電子制御フォーカルプレーンシャッター、ペンタプリズム(視野率93%,倍率0.86倍)定点合わせ式マニアル測光、等の基本仕様を有していた。
T60は海外専用製品の為に国内中古カメラ市場にも出回る可能性の低いレアカメラ的な存在になっている。


キャノンT60




近代的一眼レフを保有しなかったアグファは、1980年に開催された展示会・フォトキナ(ドイツ・ケルン)に突然フィルム一眼レフ3機種を出展して来場者の注目を集めた。
製品名は、マニアル仕様のセレクトロニック1,AE仕様のセレクトロニック2,AE・マニアル仕様のセレクトロニック3で、セレクトロニック2及び3は電子制御フォーカルプレーンシャッターを採用していた。
このセレクトロニックシリーズはアグファ最初で最後のフィルム一眼レフとなり、販売期間も短い事より海外の中古カメラ市場でも見かける事の少ないレアカメラとなっている。


アグファセレクトロニック1





「フィルム装填」→「フィルム巻き上げ・シャッターチャージ」→「定点合わせマニアル測光」→「手動フォーカス」→「シャッターリリース」→「フィルム終了・巻き戻し」の手順を採るフルメカニカル・フィルム一眼レフによる撮影は、デジタル一眼レフによる撮影とは全く異なる次元にあり、スローフォトを満足できる貴重な存在で「お気に入り」フィルム一眼レフは是非とも長く保有していたい所である。
ちなみに筆者は、ヤシカFX3スーパー2000,オリンパスOM2000,リコーXR-8スーパー、ニコンFM10,キャノンT60,アグファセレクトロニック1の6機種のOEM製品を保有、それぞれに各社パンケーキレンズを装着して楽しんでいる。



52年のロングライフ製品、印刷学会ルーペの販売終了

印刷界のロングライフ光学製品としては、印刷学会出版部のIGSルーペ(5500円)が有った。当該製品はトリプレット・3枚レンズ構成、倍率17.5倍、金属ボディの高級ルーペで歪曲収差、色収差も良く補正されていて印刷技術者に愛用されていたが、網点を見る必要のないデジタル印刷の普及もあり需要が大幅に減少、惜しまれながらも昨年2014年4月に販売終了に至っている。このIGSルーペの発売開始は1962年、何と52年のロングライフ製品で有った。
       


以上

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