奥永さつき

日々のできごとをそこはかとなくつづります。

新型コロナは武漢華南海上市場から発生したのではない

2021-06-26 07:41:01 | 社会
科学誌 “Nature” に興味深い記事が掲載されました。

Deleted coronavirus genome sequences trigger scientific intrigue
https://www.nature.com/articles/d41586-021-01731-3


これによると、
武漢大学の研究者が、米国国立研究所の一部である国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)によって維持されている未加工のシーケンスデータのリポジトリであるSequence Read Archive(SRA)に発生初期のデータを登録したが、後にシーケンスを削除するように要求し、削除されました。
ワシントン州シアトルのフレッドハッチンソン癌研究センターのウイルス進化遺伝学者であるジェシー・ブルーム(Jesse Bloom)はこの削除されたデータを「発掘」し、武漢華南海上市場に関係する人々のシーケンス、米国で収集されたものを含む後のシーケンスなどを解析した結果、SARS-CoV-2の最初のヒトの症例が武漢華南海上市場に関連していなかったことを明らかにしました。

武漢大学の研究者にとっては都合の悪いデータだったということですね。

尾身さんに代わって

2021-06-09 21:29:24 | 社会
 尾身氏が「今の状況で(五輪を)やるというのは普通はない」と述べたのは、6月2日の衆院厚労委員会。以降、竹中氏をはじめ菅義偉首相の周辺から「五輪は尾身会長の所管ではない」といった声が相次いでいる。
 確かに、尾身氏率いる分科会は、コロナ対策について科学的な知見から政府に助言を行う立場。五輪開催の可否などについて、政府から諮問を受けているわけではない。
 にもかかわらず、なぜ五輪に関する提言を行うのか。
 西浦氏はこう語る。
(中略)
 西浦氏が五輪開催にあたって危機感を抱くのが、強い感染力を示すインド変異株の存在だ。現在、日本で流行しているのは英国変異株だが、各地で続々とインド変異株が確認されている。
「英国株は従来株より1.5倍の感染力があるとされていますが、インド株はそれより更に1.5倍強いと言われている。重症化リスクや死亡リスクも高い。7月半ばには、おそらく現在の英国株がインド株に置き換わる。感染対策がより困難になるのです」(文春オンライン、06/09/2021)


「科学的な知見から政府に助言を行う立場」であれば、数字を出して訴えかけるべきものだと思います。予測数値がないのであれば、単なる感情でしかありませんし、政府が彼の要望の是非を判断できるはずもありません。
それでは、西浦さんの予測はどうなのでしょう?
東京都における変異株の状況のS(E)IRD解析結果を1週間前に書いてみました。その図で東京都から発表されているデータは東京都健康安全研究センターでの解析結果のみでした。民間の変異株PCR検査を含めたデータが見つかりましたので、更新しました。
仮定しているパラメータに関して、前回との差は、
(1) N501Yの感染力は従来株の1.9倍(言われている数値の上限値)、L452RはN501Yの1.4倍(英国政府発表値)
(2) N501Yの致死率は従来株と同じ、L452Rは従来の1.5倍。

結果は以下の通りです。



西浦さんの予測とは異なり、五輪開会式の日にはL452Rに置き換わりませんし、今より陽性者数が増えるとも言えません。
海外からのアスリート、関係者、報道陣はワクチン接種済みで、アスリートは毎日PCR検査するらしいので、海外から持ち込まれるものなんてのは無視できる因子だと思います。
決定権のあるIOCがやると言っていることに対して、ホスト東京都から中止しますというだけのエビデンスはないということです。



変異株は脅威?

2021-06-02 22:17:54 | 社会
最近マスコミでは変異株の脅威を煽っているようです。
報道によると、 
全国で新型コロナウイルスの9割以上が、重症化しやすいとされるN501Y変異を持つ英国由来の変異株に置き換わったとする推計を、国立感染症研究所がまとめた。(2021.5.12 毎日新聞)

この報道には、これまで数理モデル計算してきた経験から違和感がありました。感染力は従来株の1.4~1.9倍と言われているN501Yが短期に従来株に置き換わることはあり得ないと思われたからです。
それで、東京都についてS(E)IRDモデルで計算してみました。仮定は以下の通りです。
(1) 東京23区の人口は957万人だが、母集団数はその2割。(自然免疫でそもそも新型コロナに「感染」しない人が多数、ヒューマンネットワークはモデルが仮定しているランダムネットワークではなくスケールフリーネットワークであることなどから、母集団数は人口の2割程度としなければ海外も含めて政府・自治体などの報告値に合わないことが、小ブログの経験でわかっています。)
(2) 従来株の基本再生産数R0は2.5、N501Yはその1.8倍、L452R(インド株と言われているもの)は2.5倍。
(3) 緊急事態宣言の発令や解除などにより「ロックダウン率」を変化させ、基本再生産数に「ロックダウン率」をかけて、実効再生産数とする。
(4) 致死率は当初の2.8%から、治療法の改善効果で0.5%、医療逼迫で1~2%と変化させている。N501YとL452Rの致死率は従来株の1.5倍。
(5) N501Yは昨年12月16日に発症開始、L452Rは今年3月26日に発症開始。

結果を以下に示します。


Infectious (=累計陽性者数-累計回復者数-累計死者数)とDeath(累計死者数)の計算値と東京都の公表値は一致して(重なって)います。なお、年末年始のピークはモデル計算上では非現実的な(異常に高い「ロックダウン率」などを仮定しないと報告値に合わない)ので、これは事務続き上のartificialなものと考えます。こういう分析もせずに、ピークアウト後に緊急事態宣言したりするから、素人にも笑われるのです。

変異株の割合(図の右軸)に関するデータは東京都健康安全研究センターから報告されたものです。(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/screening.html)
こんなに急激な立ち上がりはモデル計算上あり得ないものでした。報告をよく見ると、どうやら「発症者」の割合です。従来株の発症者が2割程度、N501Yの発症者が8割程度であることを考慮して発症者だけで計算してみると報告値を説明できます(緑の実線)。従来株の無症状者も含めた場合には点線のようになります。
L452Rについてはデータが少なく、取り敢えず、R0は従来株の2.5倍としていますが、予測精度は低くなります。R0がこれほど高いと集団免疫しきい値が高くなりますから、このまま放置するのはあまり感心したものではないでしょう。