劇場彷徨人・高橋彩子の備忘録

演劇、ダンスなどパフォーミングアーツを中心にフリーランスでライター、編集者をしている高橋彩子の備忘録的ブログです。

5月の歌舞伎&文楽~新橋演舞場、明治座、国立劇場~

2011-05-30 12:35:22 | 観劇
5月の東京は、歌舞伎を新橋演舞場と明治座でそれぞれ昼夜公演、
国立劇場で文楽昼夜公演と、古典芸能の上演が多い月となった。



新橋演舞場昼の部は通し狂言『敵討天下茶屋聚』。
早瀬家を巡るお家騒動的物語で、幸四郎が、立敵の東間三郎右衛門と、
酒癖の悪さゆえに主人を裏切って悪の道を歩むことになる安達元右衛門の2役を演じた。
この2役は天保年間以来約170年ぶりの挑戦なのだそうだ。東間は堂々たる悪漢ぶり。
一方、元右衛門は家の横の藤棚から屋根に登ったり足を踏み外したりの間抜けさ。
最後に悪人2人が、ほぼ同じ状況・台詞で、立て続けに「成敗」される趣向が興味深かった。

気になったのは観客の反応の鈍さ。スムースな早替わりにも無反応な人が周囲に少なからずおり、
慣れてしまっているというより、わかっていないような…? 
有名ではない物語の通し上演で、舞台も照明含め暗めだったことにも起因しているだろうが、
中身というより「歌舞伎見物」を楽しむ客が一定数いるのは歌舞伎座の時代も同じはずなのに、
どうも最近、盛り上がりが今ひとつなのが心配だ。上演中のおしゃべりが少ない点などは大変助かるのだが…。

一方、演舞場夜の部は、こちらも珍しい『籠釣瓶花街酔醒』通し。今回は普段出ることのない発端が上演された。
佐野次郎左衛門の夢として、次郎兵衛が女房お清を無惨に殺したことが表現され、
また、籠釣瓶が次郎左衛門の手に渡るまでの経緯が描かれたことで、
なぜ佐野次郎左衛門が妖刀・籠釣瓶で人々を滅多切りにするのかが、ある程度説明されたことは評価したい。
ただ、台詞での説明が多く面白みには欠けたのは残念。
妖刀が妖刀となった理由も、もっと“体感”的に理解できる情景として伝えてほしかった。
とはいえ後半、八ツ橋と九重が会話する場面が入ったことで、
通常の上演では「何を考えているかわからない」八ツ橋の誠実さも見えて好印象だったし、
最後の捕り場の本水での立ち回りは目にも鮮やかで面白かった。
吉右衛門の次郎左衛門はいつもながら、情愛深い中に底知れなさもあって巧い。福助も丁寧な役作りが好もしかった。
全体にまとまりもテンポも良く生き生き。壱太郎の可愛らしさも目を引いた。
『あやめ浴衣』は季節感ある舞踊で、爽やかだった。

                      *  *  *



明治座五月花形歌舞伎昼の部。四ノ切の亀治郎が大充実だった。
「亀治郎の会」でも、意味がよく伝わる確かな動きに感心したが、今回はこの役をより自分のものにしていた。
本物の忠信の武士ぶりもなかなか立派で、狐忠信では無駄のない見事な動き、親狐への情愛もたっぷりで見応えがあり。
染五郎と七之助の『蝶の道行』はきれいだがこれといって伝わるものがなかった。
『封印切』は忠兵衛の勘太郎、七之助の梅川、八右衛門の染五郎いずれも熱演。
逆(忠兵衛と八右衛門)にしたほうがしっくりいくであろう配役を敢えてというのも、花形~ゆえ大いに評価したい。
にしても上方和事は本当に難しい。勘太郎は、発音などは若手では健闘していると思うが、
「意味のない」柔らかな色気、みたいなものは、一朝一夕にはできあがらないもの。
本人もそのことを承知の上での挑戦だろうから、これから先に期待していきたい。

夜の部は『牡丹燈籠』。伴蔵の染五郎とお峰の七之助のノリノリのやり取りが実に楽しい。
それぞれの新三郎、お露との早替わり含め、花形ならではの軽妙さと言えるだろう。
源次郎の亀鶴は、刀を使うのがヘタに見えない立派なさばき方。もう少し、へっぴり腰のほうが良いと思う。
お国の吉弥は落ち着いた中に影のある感じが役に合っている。馬子の亀蔵も豊かな面白味を醸していた。
全体的に、若手の好演が今回は功を奏して、いい意味で現代的な物語に。一人二役も象徴的な対比を生んでいた。
『高坏』の勘太郎は踊りの名手だけあって姿がきれいだが、
ふんわりとした愛嬌や、下駄タップの音のクリアさは父君に及ばず。回を重ねてのさらなる成長を楽しみにしたい。

                      *  *  *



文楽第一部。九代目竹本源大夫&二代目鶴澤藤蔵襲名披露口上付。
『源平布引滝』実盛物語は襲名披露狂言だが、源大夫の体調ゆえ切だけで奥は英大夫。
それもあってか、源大夫、英大夫の横での藤蔵の三味線にはひと際気迫が感じられた。
源大夫はじっくりと重厚に、英大夫は生き生きと語っていた。
『傾城恋飛脚』新口村では津駒大夫の愁嘆の語りと鶴澤寛治のしんみりした音色の余韻が印象的だった。

文楽第二部。禿二人の愛らしいやりとりに顔が綻ぶ『二人禿』、
咲大夫が燕三と共に大迫力で語り、勘十郎の剛胆な武智光秀が躍動した『絵本太閤記』、
癖はあるが味わいのある嶋大夫と女の直情を表すが如き呂勢大夫の語りの中、
簑助の深雪&朝顔が一途な恋を貫いた『生写朝顔話』と、変化に富む演目ぞろいで充実していた。
 
                      *  *  *


今回は主に客席数の多い新橋演舞場と、そして、
襲名披露という話題や住大夫の出演もあってか盛況な第一部に押された文楽第二部で、空席がやや目立った。
ただでさえ不況に震災にと観劇を控える人が増える中、ちょっとした違いで動員がガクッと落ちる。
要因はさまざまあると思うが、作り手側の意識も変えざるを得ない時期だろう。
逆手に取って、行かずにはいられないと思わされる公演を企画していってもらいたい。
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