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パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ 日本は潜在的核ICBM保有国

2025年04月01日 | 平和憲法

  《百万人署名運動全国通信から》
 ☆ 拡大する日本の武器生産と武器輸出はどこに向かうのか

纐纈厚さん(山口大学名誉教授、明治大学国際武器移転史研究所研究員)

 ☆ ウクライナ戦争への軍事支援

 2022年2月から始まるロシアによるウクライナ侵攻、2023年10月からのイスラエルによるガザ地区空爆と、戦争が世界を覆(おお)っています。大国の歯止めの効かない覇権主義・侵略主義が既存の国際秩序を破壊し続けています。
 そこで大量に使用される武器はアメリカ、フランス、ドイツ、そして侵攻国ロシアを含めて生産の拡大が続いていて、まさに戦争によって途方もない利益を上げているのです。ドイツのゼングハースは、こうした状況を「軍拡の利益構造」の言葉で批判の論陣を張りました。
 日本の軍需産業は武器生産と武器輸出が厳しく統制されていましたが、いま急速にその統制から脱しようとしています。
 軍事技術が高度化し、軍需と民需、武器と民生品との区別が曖昧になっていて、いまや主力兵器と化したドローンも軍用と民用の境目がはっきりしません。武器の拡散がこれまで以上に容易になっています。
 ですから、武器そのものを造らせない、売らないという政策の実現が反戦運動の主要な課題となっていると思います。

 それでは世界の軍需産業の実態を数字で追ってみます。以下は、2022年2月からの1年間のウクライナ支援国の軍事支援の総額です。燃料費や食糧・衣服費なども含まれ、全てが武器購入費ではありませんが、その大半が武器に係る数字と見てよいでしょう。

アメリカは731億ユーロ(約10兆円)、
EUが  350億ユーロ(約5兆円)、
イギリス  83億ユーロ(約1兆1000億円)、
ドイツが  61億ユーロ(8700億円)、
カナダが  40億ユーロ(約5700億円)

となっています。
 つまり、これらの諸国だけで17兆円程度の軍事支援が実施されましたが、その後もウクライナは再三にわたり、軍事支援を求めています。戦争の継続は各国の軍需産業界を潤し続けている。まさに「ウクライナ特需」です。

 当事国ロシアは戦争開始後も一定してGNPの3%、額にして670億ドル(9兆3000億円)程度の国防費を計上しています。
 これに対し、ウクライナはGNPの30%以上を国防費に充てていますから、ロシアに比べ財政的には非常に苦しい。
 経済成長率に関しても、ロシアが戦争開始後も3%台を維持しているのに、ウクライナはマイナス30%以上となっています。ウクライナの国家財政は破綻寸前といった状況となっています。終戦を迎えたとしても支援諸国への返済が待っているのです。

 ☆ 世界と日本の軍需産業

 「防衛売上高世界トップ10」(上の表 纐纈作成)を見てください。軍需生産の世界企業は最新鋭ステルス戦闘機F22やF35を生産しているロッキード・マーチンをトップに、ミサイルメーカーのレイセオン(RTX)、民間機製造でも知られるボーイング等、上位5社は全てアメリカが占めています。
 ロッキードは89%、レイセオンが65%と軍需生産の売上比率が高い。日本のトップ企業は三菱重工業ですが世界では26位、次いで川崎重工業は53位、以下表にある通りです。
 いま日本の軍需産業界は台湾有事の戦争準備で防衛費2.5倍増、2025年度予算に8兆7000億円計上という国内需要の追い風だけでなく輸出に活路を開こうとしています。

 日本政府は2023年末に「防衛装備移転三原則」を改定し(後述)、地対空迎撃ミサイル「パトリオット」の対米輸出に道を開きました。このことは戦後日本の武器移転史において、一つの分岐をなすものです。
 つまり、ロッキード、レイセオンのライセンス生産で日本の企業がつくったパトリオットの完成品をアメリカに輸出する形をとって事実上の武器輸出をする。
 アメリカはウクライナにパトリオットを供給し弾薬不足が懸念されていて、日本製パトリオットの輸出は渡りに舟なんですよ。しかも日本は戦争当事国に武器を送るわけです。

 三菱はその他、「スタンド・オフ防衛」関連で、長射程の12(ひとに)式地対艦ミサイル(対艦誘導弾)などを生産しています。
 他にも、従来とは一線を画したコンパクトで多機能な「もがみ型」護衛艦(FFM)や「たいげい型」潜水艦、艦艇搭載武器として07(まるなな)式垂直発射型投射ロケット17(ひとなな)式艦対艦誘導弾12式魚雷、回転翼機として哨戒ヘリコプターSH60Kを製造しています。
 護衛艦は他にも三菱重工マリンタイムシステムズが「あきづき型」を、ジャパンマリンユナイテッドが「まや型」を建造しています。海上自衛隊関係でですね。
 陸自関係では10(ひとまる)式戦車16(ひとろく)式機動戦闘車の車体を三菱、砲塔を日本製鋼所が製造しています。
 空自関係ではF15F2を三菱重工業、練習機のT4を川崎重工業などが受注しています。三菱重工業は他にも04(まるよん)式空対空誘導弾(AAM5)や93(きゅうさん)式空対艦誘導弾(ASM2)などを受注し、三菱電機は03(まるさん)式誘導弾を受注しています。
 沖縄・南西諸島へはアメリカ製のパトリオットと国産の12式地対艦ミサイルが配備されています。
 昨年3月には沖縄本島のうるま市にある陸上自衛隊勝連分屯地に12式地対艦ミサイル部隊を配備しました。
 このミサイル技術は世界の5本の指に入ります。
 一般的には民需企業と思われている企業も、例えば日産はスパローやサイドワインダーなどレイセオンのライセンスで対空ミサイルを生産しています。
 主力火器である20(にいまる)式5.56ミリ小銃120ミリ迫撃砲RT豊和工業19(ひときゅう)式装輪自走155ミリ榴弾砲日本製鋼所が製造しています。
 東芝インフラシステムズ91(きゅういち)式携帯地対空誘導弾小松製作所NBC(核・生物・化学)兵器偵察車などを受注しています。
 輸送艦として三井造船日立造船「おおすみ型」輸送艦(LST)を建造しでいます。

 軍需産業は非常に裾野の広い産業で、中小企業も部品の一部を請け負う形で参入しています。実際、戦闘機には約1100社護衛艦には約8300社が生産に関わっていると防衛省が言っています。
 軍需品の注文主は日本政府、防衛省・自衛隊ですから取りっぱぐれがないという点と開発資金という形でも援助されるので、非常にうまみがあるわけです。
 したがって経団連の防衛生産委員会などは、軍事費率を上げることを政府にズーッと働きかけています

 アメリカからの武器の爆買いも重大です。
 例えば、グラマンのグローバルホーク(無人偵察機)は中国では使いものになりません。中国の迎撃能力は世界で1、2位だからです。その使えないグローバルホーク用の巡航ミサイルトマホーク400発、契約額は約2540億円を日本は買わされました。1発6億円余になります。
 オスプレイ17機も買わされました。これは26年までで製造中止ですが日本以外に買った国はありません。

 ☆ 武器輸出禁止→防衛装備移転

 日本は戦前も世界で屈指の武器輸出大国だったんです。
 中国には、第一次大戦前から1949年の中国革命まで、いろんな政府が成立していましたが、それらと協定を結んだりして小銃や砲弾などを売りまくった。三菱重工業や東京砲兵工廠(陸軍の兵器の製造・修理工場)の武器輸出の膨大なデータはちゃんと残っています。
 1945年の敗戦で軍工廠も民間の軍需企業も解体されましたが、1950年の朝鮮戦争で日本は米軍の補給基地の役割を担い、そのあとすぐ警察予備隊ができ自衛隊発足(54年)になりますが、それを契機に武器生産は再開されていきます。小銃とか猟銃とかロケット弾などからはじめ、タイとかフィリピンにも売っていきます。
 この本、『戦後日本の武器移転史』(6頁に写真)には戦前から始まって現在までの日本の武器輸出、武器政策の実態を、アメリカの戦略も絡めながら書きました。

 「武器輸出三原則」は、1967年に佐藤栄作首相が国会で表明した

①共産圏諸国、
②国連決議による禁止国、
③紛争当事国には武器の輸出を認めないと

 いう政策で、1976年には三木武夫首相がその他の地域にも武器輸出は慎むと答弁していましたが、第二次安倍内閣の時、2014年4月に閣議決定でそれを「防衛装備移転三原則」と変えて、

①紛争当事国への移転(輸出)などの禁止、
②国際協力や日本の安保に資する場合は移転を認める、
③目的外使用や第三国への移転は事前に日本の同意が必要

 としました。
 2022年12月には安保3文書が改定され、「国家防衛戦略」と「防衛力うた整備計画」で防衛産業の育成を謳い、2023年12月には「防衛装備移転三原則」を改定して、武器生産、武器輸出の道をどんどん開いてきました。
 安倍政権以来石破政権まで、「台湾有事」には日米同盟で中国包囲戦略で対処する、そのためには自衛隊の戦力を増強する必要があり、高度な兵器をアメリカから買う、高いライセンス料を払って武器を生産するとしています。
 つまり日本の軍拡は十重二十重(とえはたえ)にアメリカ軍産複合体の利益に直結しているわけですね。
 同時に日本も強大な軍産複合体を形成していっています。いま注目度が上がっているのは、イギリス、イタリア、日本の間で次世代戦闘機の2035年の配備をめざした共同開発が進んでいることです。
 日本はヨーロッパの武器市場に入っていきたいのです。10年後とはいえこの戦闘機は英、伊を通して売られていきますね。迂回輸出です。
 岸田元首相は2022年6月から3年連続でNATO首脳会合に出席しましたが、これは日本も準NATO国として仲間入りして、インターオペラビリティ(相互運用性)で、日本で作ったミサイル、砲弾をドイツのレオパルド戦車で撃てるようにする、その逆もあるというような形で、武器の相互運用化をどんどん進めていく意図があります。
 日本の武器は競争力が低いとよく言われるんですが、アメリカに輸出していることはお話しした通りです。フィリピンへはレーダーを輸出しています。昔から中古品を送っていたんですが、米日フィリピンで話して、中国との緊張が高まる中で最新の三菱電機の軍用レーダーを輸出することになりました。
 オーストラリアに潜水艦を売り込むことにしのぎを削ったことはご存じだと思いますが、日本の潜水艦はティアドロップ(涙滴)型と言って、原子力潜水艦の形と同じで、動力がディーゼルとかリチウム電池なんですけれど、これを原子力に換えれば原子力潜水艦になるものです。
 このときはフランスが受注しましたが、その後、AUKUS(オーカス米、豪、英軍事同盟)によってアメリカの原子力潜水艦の受注に変更されてしまった。今オーストラリアは軍艦がほしいと言って、ドイツ、韓国、日本が競争に入っています。

 種子島でやっているH3ロケットの発射も軍事色が濃いものです。日本にはいわゆる大陸間弾道弾はありませんが、これに相当する「デリバリー」(配達するという意味)と言われるロケットがあります。
 H3ロケットはデリバリーで、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と三菱で開発しています。2月2日に打ち上げられたH3には位置情報を高精度に測位する「みちびき」が搭載されていますけど、それを核弾頭にかえるのは簡単で、おそらく2、3カ月もかからないでしょう。
 もうひとつPGM(Precision Guided Munition精密誘導兵器)という撃ったら必ず目的地に当たるという優れたコンピューター制御の誘導装置をつけるのですが、この技術は日本は世界で1位か2位なんです。つまり、それとロケットと原発からのプルトニウムをワンセットにすれば核兵器はすぐできます。
 そういう意味で、日本は潜在的核ICBM保有国なんです。JAXAはほとんど政府がお金を出していて、民間とは言え、これは戦前の軍工廠だと私は思います。

 ☆ 歯止めなき軍拡を止めるには

 日本の軍事技術がどんどん高度化し生産が拡大していくには世界中に戦争が恒常的に起きていることが必須の条件になるわけですよね。世界の「戦争秩序」です。
 だって戦争の可能性がないのに武器を開発しても売れないわけで、軍需産業の権力体にとっては構造的に戦争状態であることが一番なんです。
 先ほど述べた通り、そのことをドイツのディーター・ゼングハースは「軍拡の利益構造」(『軍事化の構造と平和』中大出版部)と言ったんです。
 つまり軍拡をすればするほど利潤、利益が担保される。世界的に同時に不景気になっても、戦争さえ構造的にあれば、あるいは戦争の可能性があれば武器市場は潤っていく構造にある。軍産複合体が権力に巣食っていて一番安定した産業になる。これはめちゃくちゃなことなんだけれどもそういうことなんです。
 資本主義はそうやって生き延びることを狙う。私たちが戦争反対、平和実現という時に、その背後に動いている資本主義・帝国主義の戦争政策、戦争秩序をどう捉え、どう闘っていくのかという道筋を足下から作り直していくことがとても大事になってくるわけですね。
 自国の戦争政策を見据える、その点が戦争反対という言葉にリアリティを持たせて語り、闘うバックボーンになるということだと思うんです。(文責事務局)

『百万人署名運動全国通信 第328号』(2025年3月1日)


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