◆ 「経営労働政策特別委員会報告」批判 (週刊新社会)
経団連は1月17日、17春闘の経営側の交渉指針にあたる「2017年版経営労働政策特別委員会報告」を発表した。
17年の官製春闘は「働き方改革実現会議」に、16春闘の「官民対話」で外してきた労働(連合会長のみ1人)を再び同席させた。「経労委特別報告」を7項目に区分けして批判する。
1.序文
榊原定征経団連会長談話をまとめている。
「企業収益の高水準から3年運続して大幅な年収べースの賃金引き上げで所得を増加させた」と自賛する。しかし、「国民の将来不安は根強く、個人消費に力強さを欠いている」と嘆く。
それは当然であり、経宮側が主張する「大幅賃上げ」など一度もなく、社会保険負担増や増税で個人消費は伸びていない。
それ対して「安定した政権基盤を利用して国民の痛みを伴う社会保障制度を見直せ」と悪政を煽る。
17春闘を賃上げよりも、職場の増員もしない「長時間労働の是正」や「若者、女性の活躍」に矛先を逸らし、賃金引き上げの本気度は見えない。
賃金引き上げは「労働者の団結」で闘い取るしかない。
2.17春闘
昨年に引き続き、「労使関係良好(87・8%)の安定認識がある」と労使コミュニケーションの成果を並べ、「春闘は闘いではなく、経営のパートナーと協議する場」と規定。「労使関係は馴れ合いではなく、対立でもない、良好な関係を築く場にしたい」と春闘を煙に巻く。
経営側の基本スタンスは「自社の支払い能力に基づいて決定する」を大原則に個別交渉個別回答の下、収益の拡大した企業は「年収ベースの賃金引き上げ」で経済の好循環を回すと言う。
そうした中で、「賃金とは何か」に迫り、「企業が労働の対価として社員に支払うすべてのもの」と決めつけ、手当てや一時金など、どの部分を引き上げるか多様な選択肢があると勝手な理屈を付けてくる。
私たちの春闘要求は、基本給と一時金の引上げで選択肢などはない。
資本はべースアップを総額人件費を膨らませる元凶と決めつける。定期昇給実施だけでは、新たに人件費の持ち出しを発生させない。
「賃金とは何か」では、労働者の生活再生産費であることを自覚してアピールしないと経営側のレールに乗せられる。
賃金制度の多様化を持ち出し、賃金決定の大原則は総額人件費を膨らませないど釘を刺す。加えて、「法定福利費」の高まりの影響から、序文で榊原会長が述べた「政権基盤を利用して社会保障制度を見直せ」と企業の持ち出しを削減するアピールをしている。
4.同一労働同一賃金
「違いがあれば違いに応じたものとすることを基本的な考え方」と経営側は位置づけている。
「正規と非正規の差については、異なる理由を具体的に説明できるようにしておく」「説明が困難なときは見直しも考える」などレクチャーをして、本質的には「正規と非正規の間にもめ事を起こさない努力はする」が、「違いは今後とも続く」と結論づける。
安倍首相の「この国から非正規という言葉をなくす」ことには目もくれず、人件費がアップする「同一労働同一賃金」などやる気がない。
5.労働生産性向上の目論みホワイトカラーエグゼンプション
人口減少が続く今だからこそ、生産性向上のチャンスと位置づけると言う。ホワイトカラーの多い非製造業の生産性が低い。
労働者1人あたりのGDPもOECD(経済協力開発機構)の平均以下と指摘する。国別GDPによると日本は3位。
しかし、一人当たりの名目GDPは20位まで下降する。これらに対する記述はない。
要はホワイトカラーの生産性を向上する尺度は、時間ではなく成果で判断すると決めつける。いわゆる国会で継続審議になっているホワイトカラーエグゼンプションへの改悪を求める。全ての労働者にも「時間から成果で判断」を迫ってくる。
6.最低賃金制度
16年度「ニッポン一億総活躍プラン」に盛り込まれた、「年率3%程度を目途に引上げ」にクレームをつける。
名目GDOP3%に達していない中、「25円アップに地方経営代表者が反対表明をしている」と窮状を訴えている。
しかし、最低賃金で働く労働者の生活実態には全く触れず、経営側の生産性向上による利益拡大だけを論じている。
安倍政権が論じている「20年代の早い時期までに時給1000円」の文言は抹消されている。
また、例年のように、特定最低賃金(旧産業別機賃金)は、地域別最低賃金の「大幅引き上げ」が引き続き、その差は急激に縮まり特定最賃の役割は終えたと規定して、廃止に追い込もうとする。
7.経営側の基本姿勢
記録更新している内部留保は377兆8689億円にのぼり、前年度比6.6%増で23兆円も上積み(10年前から2倍)した。前の年から23兆円もの内部留殊を更新している。
労働者の賃金は横ばいどころか、11月の実質賃金はマイナス0・2%まで押し下げられ、家計は火の車。企業の儲けだけが際立ち、労働者の賃金増加に行き渡らず個人消費につながらない。
安倍首相と経営側のタッグで主張してきたトリクルダウン(富める者が富めば、おのずと富のしずくは下々に落ちて行く)など存在はせず、経済の好循環も機能しない。
「働き方改革実現会議」から文言のいいとこ取りをして、「春闘は対立でもない良好な関係を築く場」などと賃金引き上げの矛先を「同一労働同一賃金、長時間労働の是正、テレワーク、フレックスタイム導入」などに変える。
生産性向上に結びつく施策だけに飛びつき、賃金引き上げは「自社の支払い能力に基づいて決定する」を大原則に個別交渉で横並びを否定する。17春闘は、生産性向上と低額押さえ込みが経営側の戦術になっている。(宮川)
『週刊新社会』(2017年2月7日・14日)
経団連は1月17日、17春闘の経営側の交渉指針にあたる「2017年版経営労働政策特別委員会報告」を発表した。
17年の官製春闘は「働き方改革実現会議」に、16春闘の「官民対話」で外してきた労働(連合会長のみ1人)を再び同席させた。「経労委特別報告」を7項目に区分けして批判する。
1.序文
榊原定征経団連会長談話をまとめている。
「企業収益の高水準から3年運続して大幅な年収べースの賃金引き上げで所得を増加させた」と自賛する。しかし、「国民の将来不安は根強く、個人消費に力強さを欠いている」と嘆く。
それは当然であり、経宮側が主張する「大幅賃上げ」など一度もなく、社会保険負担増や増税で個人消費は伸びていない。
それ対して「安定した政権基盤を利用して国民の痛みを伴う社会保障制度を見直せ」と悪政を煽る。
17春闘を賃上げよりも、職場の増員もしない「長時間労働の是正」や「若者、女性の活躍」に矛先を逸らし、賃金引き上げの本気度は見えない。
賃金引き上げは「労働者の団結」で闘い取るしかない。
2.17春闘
昨年に引き続き、「労使関係良好(87・8%)の安定認識がある」と労使コミュニケーションの成果を並べ、「春闘は闘いではなく、経営のパートナーと協議する場」と規定。「労使関係は馴れ合いではなく、対立でもない、良好な関係を築く場にしたい」と春闘を煙に巻く。
経営側の基本スタンスは「自社の支払い能力に基づいて決定する」を大原則に個別交渉個別回答の下、収益の拡大した企業は「年収ベースの賃金引き上げ」で経済の好循環を回すと言う。
そうした中で、「賃金とは何か」に迫り、「企業が労働の対価として社員に支払うすべてのもの」と決めつけ、手当てや一時金など、どの部分を引き上げるか多様な選択肢があると勝手な理屈を付けてくる。
私たちの春闘要求は、基本給と一時金の引上げで選択肢などはない。
資本はべースアップを総額人件費を膨らませる元凶と決めつける。定期昇給実施だけでは、新たに人件費の持ち出しを発生させない。
「賃金とは何か」では、労働者の生活再生産費であることを自覚してアピールしないと経営側のレールに乗せられる。
賃金制度の多様化を持ち出し、賃金決定の大原則は総額人件費を膨らませないど釘を刺す。加えて、「法定福利費」の高まりの影響から、序文で榊原会長が述べた「政権基盤を利用して社会保障制度を見直せ」と企業の持ち出しを削減するアピールをしている。
4.同一労働同一賃金
「違いがあれば違いに応じたものとすることを基本的な考え方」と経営側は位置づけている。
「正規と非正規の差については、異なる理由を具体的に説明できるようにしておく」「説明が困難なときは見直しも考える」などレクチャーをして、本質的には「正規と非正規の間にもめ事を起こさない努力はする」が、「違いは今後とも続く」と結論づける。
安倍首相の「この国から非正規という言葉をなくす」ことには目もくれず、人件費がアップする「同一労働同一賃金」などやる気がない。
5.労働生産性向上の目論みホワイトカラーエグゼンプション
人口減少が続く今だからこそ、生産性向上のチャンスと位置づけると言う。ホワイトカラーの多い非製造業の生産性が低い。
労働者1人あたりのGDPもOECD(経済協力開発機構)の平均以下と指摘する。国別GDPによると日本は3位。
しかし、一人当たりの名目GDPは20位まで下降する。これらに対する記述はない。
要はホワイトカラーの生産性を向上する尺度は、時間ではなく成果で判断すると決めつける。いわゆる国会で継続審議になっているホワイトカラーエグゼンプションへの改悪を求める。全ての労働者にも「時間から成果で判断」を迫ってくる。
6.最低賃金制度
16年度「ニッポン一億総活躍プラン」に盛り込まれた、「年率3%程度を目途に引上げ」にクレームをつける。
名目GDOP3%に達していない中、「25円アップに地方経営代表者が反対表明をしている」と窮状を訴えている。
しかし、最低賃金で働く労働者の生活実態には全く触れず、経営側の生産性向上による利益拡大だけを論じている。
安倍政権が論じている「20年代の早い時期までに時給1000円」の文言は抹消されている。
また、例年のように、特定最低賃金(旧産業別機賃金)は、地域別最低賃金の「大幅引き上げ」が引き続き、その差は急激に縮まり特定最賃の役割は終えたと規定して、廃止に追い込もうとする。
7.経営側の基本姿勢
記録更新している内部留保は377兆8689億円にのぼり、前年度比6.6%増で23兆円も上積み(10年前から2倍)した。前の年から23兆円もの内部留殊を更新している。
労働者の賃金は横ばいどころか、11月の実質賃金はマイナス0・2%まで押し下げられ、家計は火の車。企業の儲けだけが際立ち、労働者の賃金増加に行き渡らず個人消費につながらない。
安倍首相と経営側のタッグで主張してきたトリクルダウン(富める者が富めば、おのずと富のしずくは下々に落ちて行く)など存在はせず、経済の好循環も機能しない。
「働き方改革実現会議」から文言のいいとこ取りをして、「春闘は対立でもない良好な関係を築く場」などと賃金引き上げの矛先を「同一労働同一賃金、長時間労働の是正、テレワーク、フレックスタイム導入」などに変える。
生産性向上に結びつく施策だけに飛びつき、賃金引き上げは「自社の支払い能力に基づいて決定する」を大原則に個別交渉で横並びを否定する。17春闘は、生産性向上と低額押さえ込みが経営側の戦術になっている。(宮川)
『週刊新社会』(2017年2月7日・14日)
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