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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

『朝日新聞』の歴史教科書「訂正申請」強要問題記事についてコメント

2021年11月02日 | こども危機
 ◆ <情報・私見>本日31日『朝日』が「訂正申請」強要問題の長文記事を掲載
   皆さま     高嶋伸欣です


 今朝(31日)の『朝日新聞』が歴史教科書の「訂正申請」強要による記述改変の問題を詳しく伝える記事を掲載しました(添付資料参照)。
 この問題の全体像に迫った長文の記事です。

  * 下のURLは電子版です
 ◆ 「従軍慰安婦」「強制連行」の記述 教科書7社なぜ訂正
   どう変わる
:digital.asahi.com
https://digital.asahi.com/articles/ASPBZ26F4PBFUTIL018.html?pn=12&unlock=1#continuehere
 中学社会や高校の地理歴史、公民の教科書にある「従軍慰安婦」「強制連行」の記述について、教科書会社7社が相次いで訂正申請を文部科学相に出し、9~10月に承認された。政府が4月に閣議決定した答弁書を受…
 *この電子版には紙版にはない年表形式の<「慰安婦」「強制連行」の教科書記述をめぐる経緯>が含まれています。内容は分かりやすいです。
 記事は通読した限り、事実関係は正確に伝えられていますし、
 ① 発端が「つくる会」による山川版中学教科書の「いわゆる従軍慰安婦」記述の削除要求だったこと
 ② 藤岡氏が「教科書から『慰安婦』の記述自体をなくすべきだ」と主張していること
 ③ 「教科書で『従軍慰安婦』という用語を使っても、今回の答弁書の政府見解が併記されていれば検定基準違反にならない」との文科省の説明を引き出していること
 など、意味のある記事であると言えます。

 けれども、気になる点も少なくありません。

 a) 両論併記ができるのですから「閣議決定で、使う用語を制限されることに違和感がある」というコメントには”違和感”を覚えますし、見出しで強調するのは疑問です。強いて言うなら「使う用語を指定される」では?
  *併せて「説明会をプレッシャーには感じなかった」との発言には「本当?」という疑問が湧きます。なぜ平気でいられたのかを問わなかったのでしょうか。本当であれば心強い発言ですが、その一方で怒りは感じなかったのでしょうか。
 b) 記事に添えられた表<各教科書の主な訂正内容>では、見た目に『答弁書』通りに表記を変更した事例ばかりが<主な(もの)>とされて列記されています。
 それらの多くは、両論併記にしたくてもすべて検定済の”完成品”ばかりで新たに加筆ができるスペースがなく、今回はやむをえず応急措置として『答弁書』に合わせた記述にせざるをえなかったのだとも言われていることが配慮されているようにみえません。
 結果的に「使う用語を制限された」ことになるということなのでしょうか

 c) それに、清水書院や第一学習社は既存の余白スペースを生かした加筆による両論併記を承認させ、藤岡氏たちの意図を無に帰す、みごとな対応をしていることに全く触れていません(下に貼り付けた先日のメール再掲参照)。
 これらの事例は、次の検定の際に先例として活用することで、藤岡氏や萩生田光一氏などに「今回の件は失敗、”やぶ蛇”だった」と思い知らせるのも可能であることを示しているものと考えられます。
 d) 何しろ、「いわゆる従軍慰安婦」も両論併記であれば検定で承認されることが明らかになった上に、『答弁書』は「慰安婦」と表記すれば検定では承認するという”お墨付き”を与えたことも意味し、共に上記②の藤岡氏の願望達成は不可能になったのです。
 これらの点も記事では明確に指摘されていません

 e) この間の文科省の言動には市民レベルでも様々な批判・抗議の動きがありますが、それらについての言及が全くありません。
 市民の声など、圏外の”遠吠え”ということでしょうか

 f) 藤岡氏たちと連携した保守派の市民団体が8月の採択に向けて各地の教育委員会に働きかけたという事実も、発行者の脅迫観念を高めた一因と考えられますが記事では触れていません。
 彼らも今では「やぶ蛇だった」とほぞを噛にでいるのではないでしょうか

 g) この記事全体が「文科省はけしからん」と権力・行政庁の批判をしているようで、そのことを際立てるために「教科書会社・執筆者は不当な圧力に屈した」と受け取られる面ばかり強調されているようにみえます。
 ”大変だ大変だ報道”に終始するのではなく、発行者・執筆者側のやむを得ない事情や「言いなりにはならない」気概を示すもの、市民の側のポイントを衝く動きなども視野に入れた記事にすることで、圧迫され続けの教育関係者が元気づけられるような続報を期待したいです。
 *ちなみに再録ですが参考までに、先日のメール「<情報・私見>訂正申請の結果から編集者・執筆者の「言いなりになるものか」の意気込みを読み取る」の<言いなりになっていない事例>の部分を下に貼り付けておきます。
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 ① <『詳説日本史改定版』など山川版3点>
 「(いわゆる従軍慰安婦)」などを削除する一方で「『慰安施設』には」を「日本軍向け『慰安施設』には」とした
 *今回の騒ぎを引き起した藤岡信勝氏たち「つくる会」の目的は「慰安婦」「慰安所」等記述の全面的な削除であったが、日本軍の具体的な関与を示すことで、逆に印象を強めている
 ② <『新選日本史B』東京書籍版>
 「国民徴用令によって朝鮮や台湾から、」を「国民徴用令によって朝鮮や台湾の人々が強制的に動員され、」と加筆した
 * 必ずしも記述を変更する必要がない部分に手を加え、徴用も事実上の強制連行だったと読める記述にした
 ③ <『歴史総合 近代から現代へ』(見本本)山川出版、『高校日本史B新訂版』他、実教出版>
 動員された労働者を中国人と朝鮮人とに区分して、中国人についての記述では「強制連行」の表記を存続させた
 *今回の記述改変の対象が朝鮮半島関係に限定されていることと、中国人労働者については徴用が適用されていないことなどから、「強制連行」表記を存続させる”訂正”にした
 ④ <『世界史A新訂版』実教出版>
 「強制連行や徴兵制も実施された」を「日本内地での労働力不足を補うため、多くの朝鮮人が動員され、鉱山などで過酷な条件のもとで労働に従事した。その後、徴兵制や徴用令も実施された」と大幅に加筆した
 *スペースのやりくりが可能であれば、このように「強制連行」の実態を詳述できることを示し、答弁書を根拠とした強要を無力化できることを実証した
 ⑤ <『高等学校日本史A新訂版』他2点、清水書院>
 本文の「強制連行」を「政府決定にもとづいて配置した」と書き換える一方で、注記に新たに「朝鮮では、企業の募集という形式を取りつつも、本人の意思を無視した動員が進められたこともあった」という詳細な記述を加えた
 ⑥ <『詳説政治・経済改定版』山川出版>
 「朝鮮人強制連行など、生命と人権を踏みにじる行為がおこなわれた」を「朝鮮人の本人の意思に反した強制的な動員など、生命や人権を踏みにじる行為がおこなわれた」に書き換え、「強制連行」の不当性をより鮮明にした
 *⑤⑥は「答弁書」による今回の手法は偏狭な”言葉狩り”にすぎないので、そうした浅薄な圧力に対しては柔軟にしてしぶとい抵抗力を執筆者側が保持し、今後も同様に対処できることを実証した事例。
 ⑦ <『私たちの歴史総合』(見本本)清水書院>
 a)「強制連行」表記に関し、付表「<資料:政府間以外のおもな戦後補償>」の「2003年 対不二越強制連行労働者に対する未払い賃金等請求二次訴訟」との項について「※訴訟・事件の名称は当時の呼称や通称にもとづく」という注釈を加筆し、「強制連行」という表現の変更を回避した。
 b)同様に、上記の付表に「1992年 釜山従軍慰安婦・女子挺身隊公式謝罪請求事件」とある点についても上記の注釈を加筆することで、「従軍慰安婦」という表現の変更を回避した
 *「強制連行」「従軍慰安婦」とも社会一般に用いられている表現であることを立証するとともに、検定では引用資料の原典の表記についてまで「答弁書」が適用されないことも明らかにした。
 * 先例として、学び舎版中学歴史教科書『ともに学ぶ人間の歴史』で「河野談話」の引用がある。ただし「河野談話」には「強制連行」という表現はない。学び舎版では同談話の注記として「現在、日本政府は『慰安婦』問題について『軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような資料は発見されていない』との見解を表明している」を付記している。
 この付記は学び舎本初版の検定中に「政府見解条項」が策定(2014年1月)されたために加筆され現行版にも掲載されているものであって、そこには「いわゆる強制連行」の表記が存在している。けれども文科省は今回の訂正申請の対象としていない。原典表記遵守の原則がそこに見られる。そのことから、a)b)の事例でもその原則に基づいた清水書院の書き換え回避策を、文科省が認めた可能性が高い。
 「政府見解条項」で加筆させたものが、今回は逆に同条項に逆らう措置を下支えすることになった。因果は縄をなうが如しとか。下村博文文科大臣(当時)が安倍晋三首相が予告していた2015年8月15日「70年談話」を教科書に記載させることを目論んだ小細工の条項を、萩生田光一文科大臣が悪用を図ったところで”返り討ち”にはまった図式に見える。
 両大臣それに文科省官僚も身の程を知るべきでは?

 ⑧ <『私たちの歴史総合』(見本本)清水書院>
 「アジア女性基金は、いわゆる従軍慰安婦問題に関して、~」の下線部に新たに注記マークを付け、「※従来は、政府の談話なども含めてこのように表現されることが多かったが、実態を反映していない用語であるとの意見もある。現在、日本政府は、「慰安婦」という語を用いることが適切であるとしている」との注記を加筆した。
 *今回の場合、検定基準の「政府見解条項」が両論併記の形などで政府見解を加筆することを義務付けているにすぎない点を見透かして対応したもの。
 生徒が「どのような表現が適切か?」を考える素材提起となっている。

 ⑨ <『高等学校改定版 世界史A』、『高等学校歴史総合』(見本本)いずれも第一学習社>
 それぞれ本文の「強制連行」に側注記号を付け、下記の側注を加筆した。
 「側注① 2021年4月、日本政府は、戦時中に朝鮮半島から労働者がきた経緯はさまざまであり、「強制連行」とするのは不適切とする閣議決定をしたが、実質的には強制連行に当たる事例も多かったとする研究もある」と。
 *今回の記述改変の話題を正面から扱ったもの。ことが閣議決定に由来し、検定の基準である専門的学術的判断によるものでないことを直截的に明示する加筆を、検定官に認めさせたもの。
 事実であるし、新聞等で広く報道され、議論を呼んでいる状況が公知となっていることが、承認の下支えになったと思われる。
 *学校教育法51条(高等学校教育の目的)の3項には「健全な批判力を養い」とある。「教科書もこうした政治力に影響されている」という事実を生徒が知ることで、教科書を鵜呑みにしない判断力育成が促進されるという効果が期待される記述でもある。
 記述改変を企てた側にとっては”やぶ蛇”に近い事態。

 * 第一学習社の訂正申請は7月12日だった。文科省のいう「6月末まで」に拘束されず、記述改変を巡る社会の反応・動向などを見極めながら、内容の検討に時間をかけた結果と読める。
 * ⑧⑨共に、他社の場合よりも字数の多い加筆が可能だったのは、検定済みであったにも拘わらず、余白のスペースが残っていたことにもよる。第一学習社の場合、同サイズの側注の字数は100字で、上記の加筆分は99文字。訂正申請が承認され、編集者・執筆者は”にんまり”では?
 ①~⑦を含め、その他今回の訂正申請は既に検定済みの”完成品”が対象だったので余白が限られ、不本意な改変になったケースが多かったと想像されます。
 10月下旬からの今年度の「日本史探求」などの検定では、他の検定意見による修正と関連付けることで、今回よりは融通が効きやすく、2023年度中学教科書検定ではさらに自由度が増すことになります。
 繰り返しますが、上記①~⑨事例からは、編集者・執筆者がそうしたそれぞれの機会に腕を振るい、底力を十分に発揮できるように、今回の経験を取り込んで準備を進めていることを示しているように見えます。
 私たち”外野”の一般市民が次世代のための教科書についてやるべきことは、教科書行政に関心を持ち続け、情報の迅速な共有化などを通じて、編集者・執筆者が検定に際して主体性を貫けるより健全な社会的環境を整えることだと考えます。
 その意味で、今回の訂正申請の結果に示されている「どっこい言いなりにはなるものか」という執筆者たちの誇りと意気ごみに私たちも寄り添い、今後の取り組みに結び付けたく思います。
 以上 訂正申請結果(1次分・2次分とも再度添付しました)についての高嶋の私見です

 <付記>
 * ところで、目下、各教科書会社は、採択した学校現場に記述改変についての通知作業に追われている模様です。これまでは重大な改変の場合以外ではされていない事柄のはずです。今後、他の教科科目についても同様の措置を実施することになると労力や経費などでの影響が心配されます。
 すでに社によってはHPで訂正箇所(学校への通知)を公開しています。今後はそれを見るように教委などを通じて依頼するなどの方法も考えられます。
 ちなみに、それら今回の訂正申請をHPで公表している各社の画面は一律ではなく、訂正理由に差異があります。その差異から各社のこの記述改変に対する立ち位置の差異、各社のがんばり様がまた読み取れます。 
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 以上 情報として記事紹介と高嶋の私見です ご参考までに 転送・拡散自由です


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