▼ 『放射線副読本』
~書かれていないことと巧妙なごまかし (都高退教ニュース)

2018年再改訂版
文科省が2018年9月に全国の小中高校生向けに「放射線副読本」の再改訂版を作りましたが、大切なことが書かれていません、巧妙なごまかしの酷い内容の副読本です。
文科省は何故このような副読本を作成したのでしょうか。「放射線副読本」が辿ってきた道とその内容について検討してみます。
1.「放射線副読本」が辿ってきた道
①福島原発事故で「原発安全神話」が崩壊した
2011年福島第一原発事故までは、電力会社、政府など「原子力ムラ」が国民に「原発安全神話」を振りまいて原発を推進してきました。
文科省は小中高校生向けに「原発副読本」を作成して子どもたちを洗脳してきたのです。
文科省や経産省の受託事業・税金を使い原子力文化振興財団は「原発副読本」などの小中高校生・教職員向けの資料を作成してきました。
しかし、福島第一原発事故は「原発安全神話」を吹き飛ばし、文科省は「原発副読本」を廃止せざるを得なくなりました。
「原子力ムラ」は原発事故後一時息をひそめていましたが、すぐに、放射線教育に活路を見出そうとしてきました。
②原子力ムラと原発の「復活」のカギを握る「放射線安全神話」
なぜ、文科省は「放射線副読本」を作成したのでしょうか?
「原子カムラ」は「原発安全神話」が破綻したために生き残りをかけて「放射線安全神話」を子供たちに植え付けようとしています。
その狙いは、長期的には原発を復権させること、短期的には
「100ミリシーベルトの放射線は危険ではない」、
「放射線量が20ミリシーベルト以下になり福島は安全になった」、
「避難地域を解除して福島は復興した」、
「放射線の危険性を言うのは風評被害を助長する非国民」
とのキャンペーンを行うためなのです。
そのために「原子力ムラ」は必要なことが書かれていない、巧妙なごまかしの「放射線副読本」を作成したのです。
彼らは避難している人々を福島に返し、
汚染水を海に流し、
汚染土壌を減らし、
一刻も早く廃炉を完了させて
福島原発事故を終わったことにしたいのです。
③「放射線副読本」はどのように変わってきたか
福島第一原発事故を受けて、文科省は今までの「原発副読本」に替えて、小中高校生向けに「知っておきたい放射線のこと」、「高校生のための放射線副読本」を2011年10月に発行しました。
福島第一原発事故について本文では全く触れずに、放射線の利用や安全性について強調する内容であり、子どもたちに「放射線は危なくない」という印象を植え付けるものでした。
多くの人々から批判されて、文科省は2014年2月「中学生・高校生のための放射線副読本」を発行しました。
この中では福島第一原発事故の記載はされましたが、福島原発事故により2000人を超える関連死など多くの被害の実態には触れていません。
更に、放射線の危険性については2011年の副読本より後退していました。
復興庁は風評被害払拭のためと称して酷い内容の子供ども向け冊子「放射線のホント」を2017年月発行しました。
2018年9月の「放射線副読本」再改訂版ではこの酷い内容をそのまま引用しています。
④「放射線副読本」 削除されたもの 書き加えられたもの
「放射線副読本」2018年版において2014年版から削除されたのは、後藤忍(2019)によれば
事故を起こした原発の写真、
広域汚染地図、
国際原子力事象評価尺度レベル7、
放射線の直線しきい値なしモデル、
予どもの被ばく感受性、
「汚染」という言葉
などです。
そして、付け加えられたのは
「放射線が身の回りにあり、利用されていること」、
「放射線の測定機器」、
「復興の様子」
などです。
その結果、福島原発事故の実態は影を潜め、
放射線が危険ではない、福島は復興してきたことが強調される内容になっています。
2,「放射線副読本」(2018年版)に書かれていないこと
「放射線副読本」の最大の欠陥は「放射線の危険性」は書かれていないことです。
まず、「放射線はどこにでもある」と書きはじめ、放射線の利用や利点については詳しく書いてありますが、前書きに「科学的な理解を深める」と記しながら、「放射線の危険性」には触れていません。
書かれていないことを具体的に上げてみます。
①放射線の危険性について、特に低線量放射線のがん発生のデータなどに一切触れていません。
例えば、子どもは1ミリシーベルト(mSv)も安全ではないという次のような疫学調査研究もあります。
・スイスの16歳未満の子ども209万人の調査では自然放射線累積1mSvにより全がんは2.8%増加し、脳腫瘍は4%増加しました。(Spycherら:2015)
・オーストラリアの20歳未満の68万人の調査ではCT検査で1mSvあたりで2・3%増加しました。(Mathews:2013)
②甲状腺がんの増加はもちろんのこと放射能の健康被害につては一切触れられていません。
福島県の子どもたちに甲状腺がんが多発していること、死産などが増えていること、呼吸器・循環器などの病気が増えていることなど全く書かれていません。
③避難している多くの人びとが苦労していること、帰還している人の多くは高齢者であり、子どもや若い人は帰還していない現実など人々の苦悩にほとんど触れていません。
④「外部被ばくも内部被ばくも健康への影響の大きさは同等」と書いていますが、内部被ばくの危険性に触れていません。
生物は30数億年の進化の過程でカリウムなど自然放射能と共存しながら生存してきました。
最近100年ほどの間にヒトが作り出した人工放射能は生物が初めて出会う毒物です。人工放射能の中には生物濃縮すること、ヒトの特定の器官組織に蓄積すること、セシウムボールの様な放射性微粒子の内部被ばくの危険性などについて無視しています。
⑤たまり続けている汚染水の中のトリチウムの危険性について書かれていません。
原発や再処理工場の周辺ではがん発生が増加し、トリチウムの影響と考えられています。
トリチウムはエネルギーが弱く空気中では5mmしか飛びません。外部被ばくより内部被ばくが問題になります。
化学的性質は水と同じためにDNAや蛋白質などの有機物に取り込まれ長期間内部被ばくをします。
半減期は12,3年でヘリウムになります。DNAに取り込まれたトリチウムは不活性ガスのヘリウムに変化し、そのためにDNAが切断されます。
その他にも大量の汚染土壌の処理・廃炉の問題なども書かれていません。
⑥自然放射線や医療放射線による被ばく線量は書かれていますがその危険性は書かれていません。
日本では医療被ばくが多いこと、その医療被ばくによるがん発生の危険性が高いこと、また医療被ばくのリスクと利益のトレードオフにも触れていません。
⑦福島原発事故により多くの労働者が被ばくしていること、多くの労働者ががんになり労災認定されていること、廃炉や除染を行う労働者のことなどに一切触れていません。
3.巧妙なごまかしと事実を歪曲して書いていること
文科省は、子どもたちを洗脳し「放射線は危険でない」ことにするために「放射線副読本」を作成しました。しかし、官僚は明確な誤りを書くことはできませんし、責任も取りたくありません。
そのために都合の悪いことは書かないことを基本に、問題点をすり替えたり、別のデータを用いて言い逃れをしたりしました,
その巧妙な手口とごまかしを以下に纏めてみました。
①「放出された放射性物質はチェルノブイリ原発事故の約7分の1であり」と書いてあります。
しかし、大気中に放出された放射能量は放射性希ガスを含めればチェルノブイリ原発事故よりも多くなります。さらに、海水や汚染水として放出された量を含めれば福島原発事故の方が2倍ほど多くなります(山田、渡辺2018年)。
7分の1という数字は放射性物質の総排出量を比較したものではありません。
希ガスは無害として処理するなど放射性物質の人体への影響を評価するために換算した排出値なのです。
セシウムの大気中への排出量を比較してもチェルノブイリ事故と同じくらいです。7分の1というのは全く恣意的で、福島原発事故を小さく見せたいという数字なのです。
②「日本の食品の放射能基準は世界で最も厳しい」というために、
日本は平常時の低い基準のデータを用い、
外国は緊急時の高い基準のデータを用いて比較しています。
異なる基準のデータを比較してはいけません。
③放射線の発がんが少ないことを印象付けるために、野菜不足や食塩の取りすぎの発がんと比較していました。
がんセンターの調査でも野菜不足と発がんの関係は実証されていません。
放射線と食塩の過剰摂取という発がん期間の異なる年数のものを同じ表に載せて比較していますがデータの取り方の基本としてやってはいけないことです。
また、避けることが出来ない原発事故による放射線被ばくと自分の努力で避けることが可能な塩分の取り過ぎを比較することは無意味です。
放射能の発がんリスクの数値も低すぎる数値を用いています。
④「100ミリシーベルト(mSv)以下の放射線の相対リスクは検出困難」としていますが、ICRPも採用している「直線しきい値なしモデル」では100mSv以下でも発がん死のリスクがあります。
国や県は避難者の帰還政策で20mSv以下になったからと帰還させています。
しかし、放射線管理区域の年間被ばく線量5.2mSvよりも高い20mSvは危険な線量なのです。
安全の為には一般人の被ばく線量限度年間1mSvは守るべき基準です。2の①に示したように1mSvでも安全ではないのです。
⑤「県民等に、今回の事故後4か月間において体の外から受けた放射線による健康被害があるとは考えにくい」と書かれていますが、放射線量が圧倒的に多い初期被ばく線量は全く測定されていません。
初期被ばく線量が非常に多量であった可能性もあります。
⑥「福島県がH30年4月実施した内部被ばく検査によれば、健康に影響が及ぶ数値ではなかった」と書いてあります。
しかし、福島県が行ったホールボディーカウンター検査は2011年9月から始められており、この時点で甲状腺がんを引き起こす半減期が8日のヨウ素131はすでに消滅しています。
また、初期の内部被ばくについて一切触れていません。
⑦「原爆被爆生存者や小児がん治療生存者から生まれた子供たちを対象とした調査においては、人が放射線を受けた影響が、その人の子供に伝わるという遺伝性影響を示す根拠はこれまで報告されていません。」と書いてあり、あたかも放射線の影響が遺伝しないように読み取れます。
しかし、湾岸戦争などの劣化ウラン弾の影響により米軍兵士の子どもやイラクの子どもたちに先天性異常が見つかっています。
ICRPの2007年勧告でも集団被ばく線量1万人・Sv当たり4人の遺伝的影響があると認めています。
「原爆被爆生存者や小児がん治療生存者の調査」ではまだ見つかっていないだけのことであり、上記の様に他の調査では見つかっています。巧妙なウソです。
⑧「福島県が実施した妊産婦に関する調査によれば。震災後、福島県内における先天性異常の発生率など、全国的な統計や一般に報告されているデータと差がない」と書かれています。
全国と福島県の調査では方法が異なり、「差がない」というには科学的な要件を満たしていません。
きちんとした疫学調査もあります。
バーゲン・シュアブ、森国悦、林敬次ら(2017)の報告によれば、福島原発事故後10カ月経過後より周産期死亡(妊娠満22週以後の死産に生後7日未満の死亡を加えたもの)が福島県と近隣5県で15.6%も上昇し、他の地域よりも高くなりました。この事実が副読本の偽りを示しています。
⑨「福島県内の空間線量率は国内や海外の主要都市とほぼ同水準になっています」と書いてあります。
福島市の2018年度の放射線量0.15マイクロシーベルト/時(μSv/h)は原発事故前の0.04μSv/hと比較しても十分に高い値です。
しかも、この福島市の測定値は除染を行いコンクリートの土台の上に設置したモニタリングポストの値です。林などではこれより高くなり、同じページの「事故後の空気中の放射線量の変化」のH29年度の図では福島市付近の放射線量は0.2-0.5μSv/hと高くなっています。
4 ウソと過ちに満ちた「放射線副読本」を子どもたちに読ませたくない
文科省の放射線副読本は小中高校生に「放射線は安全である」と刷り込み、長期的には原発と核を受け入れさせ、短期的には20ミリシーベルト以下の被災地に帰還させ、甲状腺がんの発生原因を隠ぺいし、トリチウム汚染水を海に投棄し、汚染土壌を道路や堤防に使用することを目指すためのものなのです。
今まで見てきたように全く科学的な内容ではありません。
この様な内容の「放射線副読本」が全国の小中高校で配布され、使用されているのを黙って見ていることはできません。是非とも、このような「放射線副読本」を廃止させましょう。
※ 参考資料
・青谷知己、小倉志郎、草野秀一、後藤政志、後藤康彦、山際正道「原発は日本を滅ぼす」緑風出版2020年
・後藤忍「紙面が”除染“された放射線副読本」科学2019Vo1.89No6岩波書店
・山田耕作、渡辺悦司「中学生、高校生のための放射線副読本」の問題点2018年
http://www.torikaesu.net/data/20181201_yamada_watanabe.pdf
『都高退教ニュース No.96』(2020年4月1日)
東京都高等学校教職員組合退職者会 千代田区一ツ橋2-6-2都高教内
~書かれていないことと巧妙なごまかし (都高退教ニュース)
後藤康彦

2018年再改訂版
文科省が2018年9月に全国の小中高校生向けに「放射線副読本」の再改訂版を作りましたが、大切なことが書かれていません、巧妙なごまかしの酷い内容の副読本です。
文科省は何故このような副読本を作成したのでしょうか。「放射線副読本」が辿ってきた道とその内容について検討してみます。
1.「放射線副読本」が辿ってきた道
①福島原発事故で「原発安全神話」が崩壊した
2011年福島第一原発事故までは、電力会社、政府など「原子力ムラ」が国民に「原発安全神話」を振りまいて原発を推進してきました。
文科省は小中高校生向けに「原発副読本」を作成して子どもたちを洗脳してきたのです。
文科省や経産省の受託事業・税金を使い原子力文化振興財団は「原発副読本」などの小中高校生・教職員向けの資料を作成してきました。
しかし、福島第一原発事故は「原発安全神話」を吹き飛ばし、文科省は「原発副読本」を廃止せざるを得なくなりました。
「原子力ムラ」は原発事故後一時息をひそめていましたが、すぐに、放射線教育に活路を見出そうとしてきました。
②原子力ムラと原発の「復活」のカギを握る「放射線安全神話」
なぜ、文科省は「放射線副読本」を作成したのでしょうか?
「原子カムラ」は「原発安全神話」が破綻したために生き残りをかけて「放射線安全神話」を子供たちに植え付けようとしています。
その狙いは、長期的には原発を復権させること、短期的には
「100ミリシーベルトの放射線は危険ではない」、
「放射線量が20ミリシーベルト以下になり福島は安全になった」、
「避難地域を解除して福島は復興した」、
「放射線の危険性を言うのは風評被害を助長する非国民」
とのキャンペーンを行うためなのです。
そのために「原子力ムラ」は必要なことが書かれていない、巧妙なごまかしの「放射線副読本」を作成したのです。
彼らは避難している人々を福島に返し、
汚染水を海に流し、
汚染土壌を減らし、
一刻も早く廃炉を完了させて
福島原発事故を終わったことにしたいのです。
③「放射線副読本」はどのように変わってきたか
福島第一原発事故を受けて、文科省は今までの「原発副読本」に替えて、小中高校生向けに「知っておきたい放射線のこと」、「高校生のための放射線副読本」を2011年10月に発行しました。
福島第一原発事故について本文では全く触れずに、放射線の利用や安全性について強調する内容であり、子どもたちに「放射線は危なくない」という印象を植え付けるものでした。
多くの人々から批判されて、文科省は2014年2月「中学生・高校生のための放射線副読本」を発行しました。
この中では福島第一原発事故の記載はされましたが、福島原発事故により2000人を超える関連死など多くの被害の実態には触れていません。
更に、放射線の危険性については2011年の副読本より後退していました。
復興庁は風評被害払拭のためと称して酷い内容の子供ども向け冊子「放射線のホント」を2017年月発行しました。
2018年9月の「放射線副読本」再改訂版ではこの酷い内容をそのまま引用しています。
④「放射線副読本」 削除されたもの 書き加えられたもの
「放射線副読本」2018年版において2014年版から削除されたのは、後藤忍(2019)によれば
事故を起こした原発の写真、
広域汚染地図、
国際原子力事象評価尺度レベル7、
放射線の直線しきい値なしモデル、
予どもの被ばく感受性、
「汚染」という言葉
などです。
そして、付け加えられたのは
「放射線が身の回りにあり、利用されていること」、
「放射線の測定機器」、
「復興の様子」
などです。
その結果、福島原発事故の実態は影を潜め、
放射線が危険ではない、福島は復興してきたことが強調される内容になっています。
2,「放射線副読本」(2018年版)に書かれていないこと
「放射線副読本」の最大の欠陥は「放射線の危険性」は書かれていないことです。
まず、「放射線はどこにでもある」と書きはじめ、放射線の利用や利点については詳しく書いてありますが、前書きに「科学的な理解を深める」と記しながら、「放射線の危険性」には触れていません。
書かれていないことを具体的に上げてみます。
①放射線の危険性について、特に低線量放射線のがん発生のデータなどに一切触れていません。
例えば、子どもは1ミリシーベルト(mSv)も安全ではないという次のような疫学調査研究もあります。
・スイスの16歳未満の子ども209万人の調査では自然放射線累積1mSvにより全がんは2.8%増加し、脳腫瘍は4%増加しました。(Spycherら:2015)
・オーストラリアの20歳未満の68万人の調査ではCT検査で1mSvあたりで2・3%増加しました。(Mathews:2013)
②甲状腺がんの増加はもちろんのこと放射能の健康被害につては一切触れられていません。
福島県の子どもたちに甲状腺がんが多発していること、死産などが増えていること、呼吸器・循環器などの病気が増えていることなど全く書かれていません。
③避難している多くの人びとが苦労していること、帰還している人の多くは高齢者であり、子どもや若い人は帰還していない現実など人々の苦悩にほとんど触れていません。
④「外部被ばくも内部被ばくも健康への影響の大きさは同等」と書いていますが、内部被ばくの危険性に触れていません。
生物は30数億年の進化の過程でカリウムなど自然放射能と共存しながら生存してきました。
最近100年ほどの間にヒトが作り出した人工放射能は生物が初めて出会う毒物です。人工放射能の中には生物濃縮すること、ヒトの特定の器官組織に蓄積すること、セシウムボールの様な放射性微粒子の内部被ばくの危険性などについて無視しています。
⑤たまり続けている汚染水の中のトリチウムの危険性について書かれていません。
原発や再処理工場の周辺ではがん発生が増加し、トリチウムの影響と考えられています。
トリチウムはエネルギーが弱く空気中では5mmしか飛びません。外部被ばくより内部被ばくが問題になります。
化学的性質は水と同じためにDNAや蛋白質などの有機物に取り込まれ長期間内部被ばくをします。
半減期は12,3年でヘリウムになります。DNAに取り込まれたトリチウムは不活性ガスのヘリウムに変化し、そのためにDNAが切断されます。
その他にも大量の汚染土壌の処理・廃炉の問題なども書かれていません。
⑥自然放射線や医療放射線による被ばく線量は書かれていますがその危険性は書かれていません。
日本では医療被ばくが多いこと、その医療被ばくによるがん発生の危険性が高いこと、また医療被ばくのリスクと利益のトレードオフにも触れていません。
⑦福島原発事故により多くの労働者が被ばくしていること、多くの労働者ががんになり労災認定されていること、廃炉や除染を行う労働者のことなどに一切触れていません。
3.巧妙なごまかしと事実を歪曲して書いていること
文科省は、子どもたちを洗脳し「放射線は危険でない」ことにするために「放射線副読本」を作成しました。しかし、官僚は明確な誤りを書くことはできませんし、責任も取りたくありません。
そのために都合の悪いことは書かないことを基本に、問題点をすり替えたり、別のデータを用いて言い逃れをしたりしました,
その巧妙な手口とごまかしを以下に纏めてみました。
①「放出された放射性物質はチェルノブイリ原発事故の約7分の1であり」と書いてあります。
しかし、大気中に放出された放射能量は放射性希ガスを含めればチェルノブイリ原発事故よりも多くなります。さらに、海水や汚染水として放出された量を含めれば福島原発事故の方が2倍ほど多くなります(山田、渡辺2018年)。
7分の1という数字は放射性物質の総排出量を比較したものではありません。
希ガスは無害として処理するなど放射性物質の人体への影響を評価するために換算した排出値なのです。
セシウムの大気中への排出量を比較してもチェルノブイリ事故と同じくらいです。7分の1というのは全く恣意的で、福島原発事故を小さく見せたいという数字なのです。
②「日本の食品の放射能基準は世界で最も厳しい」というために、
日本は平常時の低い基準のデータを用い、
外国は緊急時の高い基準のデータを用いて比較しています。
異なる基準のデータを比較してはいけません。
③放射線の発がんが少ないことを印象付けるために、野菜不足や食塩の取りすぎの発がんと比較していました。
がんセンターの調査でも野菜不足と発がんの関係は実証されていません。
放射線と食塩の過剰摂取という発がん期間の異なる年数のものを同じ表に載せて比較していますがデータの取り方の基本としてやってはいけないことです。
また、避けることが出来ない原発事故による放射線被ばくと自分の努力で避けることが可能な塩分の取り過ぎを比較することは無意味です。
放射能の発がんリスクの数値も低すぎる数値を用いています。
④「100ミリシーベルト(mSv)以下の放射線の相対リスクは検出困難」としていますが、ICRPも採用している「直線しきい値なしモデル」では100mSv以下でも発がん死のリスクがあります。
国や県は避難者の帰還政策で20mSv以下になったからと帰還させています。
しかし、放射線管理区域の年間被ばく線量5.2mSvよりも高い20mSvは危険な線量なのです。
安全の為には一般人の被ばく線量限度年間1mSvは守るべき基準です。2の①に示したように1mSvでも安全ではないのです。
⑤「県民等に、今回の事故後4か月間において体の外から受けた放射線による健康被害があるとは考えにくい」と書かれていますが、放射線量が圧倒的に多い初期被ばく線量は全く測定されていません。
初期被ばく線量が非常に多量であった可能性もあります。
⑥「福島県がH30年4月実施した内部被ばく検査によれば、健康に影響が及ぶ数値ではなかった」と書いてあります。
しかし、福島県が行ったホールボディーカウンター検査は2011年9月から始められており、この時点で甲状腺がんを引き起こす半減期が8日のヨウ素131はすでに消滅しています。
また、初期の内部被ばくについて一切触れていません。
⑦「原爆被爆生存者や小児がん治療生存者から生まれた子供たちを対象とした調査においては、人が放射線を受けた影響が、その人の子供に伝わるという遺伝性影響を示す根拠はこれまで報告されていません。」と書いてあり、あたかも放射線の影響が遺伝しないように読み取れます。
しかし、湾岸戦争などの劣化ウラン弾の影響により米軍兵士の子どもやイラクの子どもたちに先天性異常が見つかっています。
ICRPの2007年勧告でも集団被ばく線量1万人・Sv当たり4人の遺伝的影響があると認めています。
「原爆被爆生存者や小児がん治療生存者の調査」ではまだ見つかっていないだけのことであり、上記の様に他の調査では見つかっています。巧妙なウソです。
⑧「福島県が実施した妊産婦に関する調査によれば。震災後、福島県内における先天性異常の発生率など、全国的な統計や一般に報告されているデータと差がない」と書かれています。
全国と福島県の調査では方法が異なり、「差がない」というには科学的な要件を満たしていません。
きちんとした疫学調査もあります。
バーゲン・シュアブ、森国悦、林敬次ら(2017)の報告によれば、福島原発事故後10カ月経過後より周産期死亡(妊娠満22週以後の死産に生後7日未満の死亡を加えたもの)が福島県と近隣5県で15.6%も上昇し、他の地域よりも高くなりました。この事実が副読本の偽りを示しています。
⑨「福島県内の空間線量率は国内や海外の主要都市とほぼ同水準になっています」と書いてあります。
福島市の2018年度の放射線量0.15マイクロシーベルト/時(μSv/h)は原発事故前の0.04μSv/hと比較しても十分に高い値です。
しかも、この福島市の測定値は除染を行いコンクリートの土台の上に設置したモニタリングポストの値です。林などではこれより高くなり、同じページの「事故後の空気中の放射線量の変化」のH29年度の図では福島市付近の放射線量は0.2-0.5μSv/hと高くなっています。
4 ウソと過ちに満ちた「放射線副読本」を子どもたちに読ませたくない
文科省の放射線副読本は小中高校生に「放射線は安全である」と刷り込み、長期的には原発と核を受け入れさせ、短期的には20ミリシーベルト以下の被災地に帰還させ、甲状腺がんの発生原因を隠ぺいし、トリチウム汚染水を海に投棄し、汚染土壌を道路や堤防に使用することを目指すためのものなのです。
今まで見てきたように全く科学的な内容ではありません。
この様な内容の「放射線副読本」が全国の小中高校で配布され、使用されているのを黙って見ていることはできません。是非とも、このような「放射線副読本」を廃止させましょう。
※ 参考資料
・青谷知己、小倉志郎、草野秀一、後藤政志、後藤康彦、山際正道「原発は日本を滅ぼす」緑風出版2020年
・後藤忍「紙面が”除染“された放射線副読本」科学2019Vo1.89No6岩波書店
・山田耕作、渡辺悦司「中学生、高校生のための放射線副読本」の問題点2018年
http://www.torikaesu.net/data/20181201_yamada_watanabe.pdf
『都高退教ニュース No.96』(2020年4月1日)
東京都高等学校教職員組合退職者会 千代田区一ツ橋2-6-2都高教内
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