《教科書ネット21ニュースから》
◆ 新型コロナウイルス感染症と子どもの権利
◆ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的影響
新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)の国際的蔓延は、世界中の人々の生活に甚大な影響をもたらしている。
英国公共放送BBCのまとめ(注1)によれば、感染拡大防止のための厳格な行動制限(しばしば「ロックダウン」=都市封鎖=と呼ばれるものを含む)を部分的・全面的に導入した国は、2020年3月末で100か国を優に超えた。
経済活動の停滞は、貧困層や不安定所得層をますます厳しい状況に追いやっている。
自宅待機を余儀なくされることにより、子どもの教育にも大きな影響が出ているほか、児童虐待、ドメスティック・バイオレンス、インターネットを通じた性的搾取・人身取引などの問題の悪化も報告されている。
感染者、感染を疑われる人々(外国人、とくにアジア系の人々を含む)、医療従事者とその家族等に対する差別や攻撃も深刻である。
このような事態を受けて、国際社会も対応を強化してきた。
医療面での対応はWHO(世界保健機関)が主導しているが、COVID-19の社会的・経済的影響については、国連事務総長、さまざまな国連専門機関、地域人権機構、国際NGO(非政府組織)などがそれぞれの領域で積極的な取り組みを行なっている。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連人権理事会のもとに設置されている特別手続(特別報告者・作業部会など)、人権条約機関(委員会)などの国連人権機構が果たしている役割も、きわめて重要である(注2)。
◆ 国連・子どもの権利委員会の声明
国連・子どもの権利委員会も4月8日付で声明を発表し、COVID-19への対応においてとくに次の措置をとるよう、各国に求めた(要旨)(注3)。
委員会の声明の特徴のひとつは、遊び・余暇・レクリエーション等に対する子どもの権利(条約31条)を声明の冒頭(パラ1および2)ではっきりと取り上げていることである。
多くの国で学校の部分的・全面的休校措置がとられたことから、その間の学習をどのように保障するかについては、国際的にさまざまな議論や情報・実践の共有が行なわれてきた。
しかしそこで条約31条に基づく権利が具体的に取り上げられることはほとんどなく、委員会のこのような指摘は重要である(なお、IPA=子どもの遊ぶ権利のための国際協会=は、今回の事態を受けて、「危機的状況における遊び:子どものくらしに関わる人のガイド」を4月末に発表している)。
また、子どもに対するさまざまな影響の評価(パラ1)、子どもに対する情報提供(パラ10)、子どもの意見の考慮(パラ11)の重要性を強調している点なども、委員会の姿勢を際立たせるものとして評価できよう。
◆ 子ども記者会見などの取り組み
感染の急速な広がりに対して迅速に手を打たなければならなかった関係上、子どもに対する影響の評価や子どもの意見の考慮については、どの国も後手に回ってきたことは否めない。
そのような状況にあって特筆に値するのは、いくつかの国で、首相や大臣が子ども向けの記者会見を開いたり、子ども・若者向けのメッセージを発したりする取り組みが見られることである。
とくに、デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド、フィンランド、ベルギーなどでは女性の首相がこのような発信を熱心に行なってきた。
もちろんこのような取り組みは女性の首脳に限ったことではなく、たとえばカナダのトルドー首相は、子どもたちに向けたビデオメッセージを発表した後、子ども向けニュース番組に出演して子どもたちの質問に答えている。
スウェーデンでも首相(男性)とジェンダー平等大臣(女性)がそれぞれ3月と4月に子ども向け記者会見を行なったほか、台湾でも保健福祉相と教育相(いずれも男性)が同様の取り組みを行なった。
印象的なのは、これらの首脳が、不自由な生活を我慢している子どもたちに対する真摯な感謝をしばしば表明していることである(アイルランドの大統領やイギリスの教育相も子どもや若者に対してこのような謝意を表明している)。
そこでは、COVID-19の終息に向けた努力への子どもたちの貢献がはっきり認知されている。
子どもたちに対するこのような敬意と誠意は、安倍政権にもっとも欠けているものではないだろうか。
他方、これらの国々でも、COVID-19に関する子どもたちの声を大規模に聴こうとする取り組みは端緒に就いたばかりである。
セントラル・ランカシャー大学(イギリス)の子ども・若者参加センターが欧州20か国の専門家を対象として4月に実施した調査でも、COVID-19対策への子ども参加の取り組みをひとつも挙げられなかった回答者が7割にのぼり、残る3割も広報など限定的分野での参加を挙げるに留まった。
現在、いくつかの国の子どもオンブズパーソンや国内・国際NGOにより、COVID-19パンデミック下での子どもたちの経験を明らかにするためのさまざまな調査が進められつつある。
この点、日本では、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンをはじめとする複数の団体が子どもたちを対象とするアンケートを実施し、その成果も、調査結果を踏まえた提言とともに順次発表されている。
また愛知県弁護士会は、国連・子どもの権利委員会の声明を踏まえ、「新型コロナウイルス感染拡大下における子どもの権利保障と子どもの最善の利益を求める会長声明」を5月15日付で発表した。
日本政府および自治体は、こうした民間の取り組みの成果と提言を今後の対応に積極的に活かしていくべきである。
※注1:BBC〈【図表で見る】封鎖される世界新型ウイルス対策に各地で行動制限〉(2020年4月9日配信)https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-52217073
※注2:COVID49と国際人権法に関するざまざまな資料(日本語訳されたものを含む)については筆者のウェブサイトを参照。https://w.atwiki.jp/childrights/
※注3:声明の全:訳は筆者のウェブサイトを参照。なお、筆者の日本語訳はOHCHRのウェブサイトにも掲載されたほか、これをもとにしたチャイルドフレンドリー版も有志によって作成されている。https://w.atwiki.jp/childrenrights/pages/327.html
『子どもと教科書全国ネット21NEWS 132号』(2020年6月15日)
◆ 新型コロナウイルス感染症と子どもの権利
平野裕二(ひらのゆうじ、子どもの人権連代表委員)
◆ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的影響
新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)の国際的蔓延は、世界中の人々の生活に甚大な影響をもたらしている。
英国公共放送BBCのまとめ(注1)によれば、感染拡大防止のための厳格な行動制限(しばしば「ロックダウン」=都市封鎖=と呼ばれるものを含む)を部分的・全面的に導入した国は、2020年3月末で100か国を優に超えた。
経済活動の停滞は、貧困層や不安定所得層をますます厳しい状況に追いやっている。
自宅待機を余儀なくされることにより、子どもの教育にも大きな影響が出ているほか、児童虐待、ドメスティック・バイオレンス、インターネットを通じた性的搾取・人身取引などの問題の悪化も報告されている。
感染者、感染を疑われる人々(外国人、とくにアジア系の人々を含む)、医療従事者とその家族等に対する差別や攻撃も深刻である。
このような事態を受けて、国際社会も対応を強化してきた。
医療面での対応はWHO(世界保健機関)が主導しているが、COVID-19の社会的・経済的影響については、国連事務総長、さまざまな国連専門機関、地域人権機構、国際NGO(非政府組織)などがそれぞれの領域で積極的な取り組みを行なっている。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連人権理事会のもとに設置されている特別手続(特別報告者・作業部会など)、人権条約機関(委員会)などの国連人権機構が果たしている役割も、きわめて重要である(注2)。
◆ 国連・子どもの権利委員会の声明
国連・子どもの権利委員会も4月8日付で声明を発表し、COVID-19への対応においてとくに次の措置をとるよう、各国に求めた(要旨)(注3)。
1.今回のパンデミックが子どもの権利に及ぼす健康面、社会面、情緒面、経済面およびレクリエーション面の影響を考慮すること。ここで取り上げられている論点の多くについてはユニセフ(国連児童基金)やユネスコ(国連教育科学文化機関)をはじめとする国際機関も取り組んでおり、さまざまな指針等も発表されている(声明の日本語訳を掲載した筆者のウェプサイトのページ=注3;参照)。
2.子どもたちが休息、余暇、レクリエーションおよび文化的・芸術的活動に対する権利を享受できるようにするための、オルタナティブかつ創造的な解決策を模索すること。
3.オンライン学習が、すでに存在する不平等を悪化させ、または生徒・教員間の相互交流に置き換わることがないようにすること。
4.子どもたちに栄養のある食事が提供されるようにするための即時的措置をとること。
5.子どもたちに対する基礎的サービスの提供を維持すること。
6.子どもの保護のための中核的サービスを継続するとともに、ロックダウン下で暮らしている子どもたちに専門家による精神保健サービスを提供すること。
7.パンデミックによって脆弱性がいっそう高まる子どもたちを保護すること。
8.自由を奪われている子どもを可能なかぎり解放し、解放できない場合には家族との定期的接触を維持できるようにすること。
9.COVID-19関連の制限違反等を理由に子どもの逮捕・拘禁を行なわないようにすること。
10.COVID-19および感染予防法に関する正確な情報を、子どもにやさしく、かつすべての子どもにとってアクセス可能な言語および形式で普及すること。
11.今回のパンデミックに関する意思決定プロセスにおいて子どもたちの意見が聴かれかつ考慮される機会を提供すること。
委員会の声明の特徴のひとつは、遊び・余暇・レクリエーション等に対する子どもの権利(条約31条)を声明の冒頭(パラ1および2)ではっきりと取り上げていることである。
多くの国で学校の部分的・全面的休校措置がとられたことから、その間の学習をどのように保障するかについては、国際的にさまざまな議論や情報・実践の共有が行なわれてきた。
しかしそこで条約31条に基づく権利が具体的に取り上げられることはほとんどなく、委員会のこのような指摘は重要である(なお、IPA=子どもの遊ぶ権利のための国際協会=は、今回の事態を受けて、「危機的状況における遊び:子どものくらしに関わる人のガイド」を4月末に発表している)。
また、子どもに対するさまざまな影響の評価(パラ1)、子どもに対する情報提供(パラ10)、子どもの意見の考慮(パラ11)の重要性を強調している点なども、委員会の姿勢を際立たせるものとして評価できよう。
◆ 子ども記者会見などの取り組み
感染の急速な広がりに対して迅速に手を打たなければならなかった関係上、子どもに対する影響の評価や子どもの意見の考慮については、どの国も後手に回ってきたことは否めない。
そのような状況にあって特筆に値するのは、いくつかの国で、首相や大臣が子ども向けの記者会見を開いたり、子ども・若者向けのメッセージを発したりする取り組みが見られることである。
とくに、デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド、フィンランド、ベルギーなどでは女性の首相がこのような発信を熱心に行なってきた。
もちろんこのような取り組みは女性の首脳に限ったことではなく、たとえばカナダのトルドー首相は、子どもたちに向けたビデオメッセージを発表した後、子ども向けニュース番組に出演して子どもたちの質問に答えている。
スウェーデンでも首相(男性)とジェンダー平等大臣(女性)がそれぞれ3月と4月に子ども向け記者会見を行なったほか、台湾でも保健福祉相と教育相(いずれも男性)が同様の取り組みを行なった。
印象的なのは、これらの首脳が、不自由な生活を我慢している子どもたちに対する真摯な感謝をしばしば表明していることである(アイルランドの大統領やイギリスの教育相も子どもや若者に対してこのような謝意を表明している)。
そこでは、COVID-19の終息に向けた努力への子どもたちの貢献がはっきり認知されている。
子どもたちに対するこのような敬意と誠意は、安倍政権にもっとも欠けているものではないだろうか。
他方、これらの国々でも、COVID-19に関する子どもたちの声を大規模に聴こうとする取り組みは端緒に就いたばかりである。
セントラル・ランカシャー大学(イギリス)の子ども・若者参加センターが欧州20か国の専門家を対象として4月に実施した調査でも、COVID-19対策への子ども参加の取り組みをひとつも挙げられなかった回答者が7割にのぼり、残る3割も広報など限定的分野での参加を挙げるに留まった。
現在、いくつかの国の子どもオンブズパーソンや国内・国際NGOにより、COVID-19パンデミック下での子どもたちの経験を明らかにするためのさまざまな調査が進められつつある。
この点、日本では、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンをはじめとする複数の団体が子どもたちを対象とするアンケートを実施し、その成果も、調査結果を踏まえた提言とともに順次発表されている。
また愛知県弁護士会は、国連・子どもの権利委員会の声明を踏まえ、「新型コロナウイルス感染拡大下における子どもの権利保障と子どもの最善の利益を求める会長声明」を5月15日付で発表した。
日本政府および自治体は、こうした民間の取り組みの成果と提言を今後の対応に積極的に活かしていくべきである。
※注1:BBC〈【図表で見る】封鎖される世界新型ウイルス対策に各地で行動制限〉(2020年4月9日配信)https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-52217073
※注2:COVID49と国際人権法に関するざまざまな資料(日本語訳されたものを含む)については筆者のウェブサイトを参照。https://w.atwiki.jp/childrights/
※注3:声明の全:訳は筆者のウェブサイトを参照。なお、筆者の日本語訳はOHCHRのウェブサイトにも掲載されたほか、これをもとにしたチャイルドフレンドリー版も有志によって作成されている。https://w.atwiki.jp/childrenrights/pages/327.html
『子どもと教科書全国ネット21NEWS 132号』(2020年6月15日)
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