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パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「人づくり革命」は左派政策の「つまみ食い」ばかり

2018年02月26日 | 格差社会
 ◆ 「人づくり革命」の狙いと対抗構想の必要性 (週刊新社会)
中京大学教員・大内裕和

◆ 人生100年時代の対応
 2017年12月8日に、安倍政権は「経済政策パッケージ」を閣議決定した。「経済政策パッケージ」の第2章は、「人づくり革命」というタイトルとなっている。ここでは「人づくり革命」の狙いとその問題点を批判的に考察する。
 安倍政権のいう「人づくり革命」とは、「生産性革命」とともに両輪に掲げる看板政策である。「経済政策パッケージ」の第1章「はじめに」では、これまで5年間のアベノミクスの延長上に「生産性革命」と「人つくり革命」が位置づけられていることが分かる。
 「人づくり革命」推進の前提となっているのは、「少子高齢化」と「人生100年時代」への対応である。
 「少子高齢化」と「人生100年時代」においては「全世代型の社会保障」が必要となっており、それを推進するためには「人づくり革命」が鍵を握っているとされている。
 「人づくり革命」のポイントは「幼児教育の無償化」、「待機児童の解消」、「高等教育の無償化」、「私立高等学校の授業料の実質無償化」、「介護人材の処遇改善」などである。
 ◆ 安倍政権のつまみ食い政策
 幼児教育の無償化については、「3歳~5歳までのすべての幼稚園、保育所、認定こども園の無償化」を進める。
 待機児童の解消については、32万人分の受け皿整備を行う。
 高等教育の無償化については、住民税非課税世帯の国立大学授業料免除実施が柱となる。
 私立高等学校の授業料の実質無償化は、住民税非課税世帯の実質無償化が実施される。
 介護人材の処遇改善については、勤続年数10年以上の介護福祉士に月額平均8万円相当の処遇改善を行う。
 どれも子育て、教育、社会保障について一定の予算増額と改善が進められる政策であることが分かる。連立を組む公明党だけでなく、野党が主張してきた政策と重なる点も少なくない。
 外交や安全保障、歴史認識については「極右」の安倍政権が、この分野では野党の「左派」的政策を一部取り込んでいるとも見ることができる。
 ◆ 普遍的福祉ではなく選択的福祉ばかり
 しかし、政策を丁寧に見ていくと「人づくり革命」の不十分さは明確だ。
 幼児教育の無償化といつても、0歳~2歳の子どもの無償化は含まれていない
 待機児童の解消については32万人分の受け皿整備というが、「隠れ待機児童」と呼ばれる潜在需要を含めた対策にはなっていない
 高等教育の無償化や私立高等学校の実質無償化は住民税非課税世代に限定されているため、大多数の学生には実施されない
 介護人材の処遇改善も10年未満の介護福祉士には行われない
 改善は行われるが、その改善は限定的で、すべての者には適用されない。この政策が普遍的福祉ではなく選別的福祉であることは明らかだ。
 ここに安倍政権の「つまみ食い」政策の特徴がよくあらわれている。内閣支持率を維持するために、有権者の不満が大きい課題について部分的な改善や野党の政策の「つまみ食い」を次々と行っていく。
 野党の政策の「つまみ食い」は、野党の支持率向上をあらかじめ,封じ込む点でも有効である。また、こうした「つまみ食い」による分断は、一定の利益を得る社会層を生み出すことで、政権批判へのエネルギーを結集させない効果もある。
 ◆ 消費税増税で一部無償化
 もう一つの問題点は、これらの政策がいずれも2019年10月実施予定の消費税8%から10%への増税分(約5兆円)のうちの、約2兆円によって実施される計画となっていることである。
 低所得層に負担が重く、逆進性の強い消費税の増税によって「人づくり革命」が実施されれば、その弊害はさらに大きくなる。
 一定の改善が行われる人々であっても、消費税増税分の負担増は進むからその効果は限定的となるし、改善が行われない人々にとっては負担増だけが行われることとなる。
 ◆ 非正規雇用の急増
 安倍政権の「人づくり革命」は、選別的福祉と逆進性の強い消費税増税のパッケージとなっている。これでは、現在の日本社会の苦境を改善することはできない。なぜなら、1980年代以降の新自由主義グローバリズムによって、貧困層の固定化と中間層の解体が同時に進行しているからだ。
 民営化による「小さな政府」路線によって格差拡大が進んだ。経済のグローバル化は国内雇用の縮小と低賃金化をもたらし、雇用の規制緩和低賃金で不安定な非正規雇用労働者を大量に生み出した
 日本型雇用の解体は、終身雇用と年功序列型賃金で自分たちの生活を支えられる社会層を急速に縮小させつつある。
 非正規雇用が労働者の4割以上となり、「名ばかり正規」と呼ばれる周辺的正規労働者が急増する現状においては、最低賃金の上昇に加えて、教育・住宅・医療・保育・介護といった領域の脱商品化(=無料化)につながる普遍的福祉を、応能負担の税制によって実現できるかどうかが鍵となる。
 ◆ 応能負担税制による所得再分配の強化を
 たびかさなる法人税の減税、所得税の減税と累進性の緩和によって、税の所得再分配機能は、大きく低下している。
 所得再分配機能の低下は、多くの労働者・市民が増税を忌避し、ひたすら減税を求める風潮を強化した。
 普遍的福祉が普及せず高い教育費や住宅費の支払いに追われれば、可処分所得が1円でも多くなることを期待して「税はとにかく安ければいい」という意識を多くの人々が持ちがちである。それでは「左派」の政策をつまみ食いする安倍政権に、明確に対抗することはできない。
 参考となるのはイギリスとアメリカの近年の動向である。
 イギリスとアメリカは、日本と並んで1970年代後半~1980年代にかけて「右派」政権が新自由主義と新保守主義を強力に推進した。イギリスのサッチャー、アメリカのレーガンによって福祉国家の解体や社会の不平等化が進行した。
 ◆ 「格差と貧困」の是正
 1990年代に共和党や保守党から政権を奪ったにもかかわらず、クリントン民主党政権やイギリスのブレア労働党政権は所得再分配政策や平等化政策を放棄した。民主党、労働党といった「リベラル」や「左派」が政権を担っても「格差と貧困」の是正が行われないという政治状況が生まれたのである。
 これに対して「格差と貧困」の是正を明確に主張したのが、イギリス労働党のジェレミー・コービンであり、アメリカのバーニー・サンダースである。
 富裕層や大企業への課税強化、最低賃金の上昇や教育への公的予算の増額など、応能負担税制による所得再分配と社会民主主義政策によって、近年若年層を中心に支持を急速に広げている。
 「格差と貧困」が深刻化する日本社会においても、同様の方向が求められていることは間違いない。安倍政権の「人づくり」革命への対抗構想として、応能負担の税制による垂直的再分配の強化と普遍的福祉の推進という社会民主主義政策を明確に打ち出すことが強く求められている。
『週刊新社会』(2018年2月6日、2月13日)

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