=中教審「学校における働き方改革」中間まとめについて= (教科書ネット)
◆ 教職員が、笑顔でゆとりをもって、子どもの前に立てるように
◆ “本来業務”が勤務時間からあふれている
昨年12月に行われた都内の教育集会で、30代のある中学校教員の勤務実態が報告されました。
朝7時に出勤し、教材の印刷や教室整備。勤務時間が始まると様々な打ち合わせ。
授業と授業の間の休み時間も職員室に戻らず、生徒の様子を見守ります。空き時間は生徒の「生活の記録」へのコメント書きや配慮を要する生徒の支援。
放課後も班長会や個別の生徒指導、部活の指導が続き、あっと言う間に勤務時間終了時刻に。「休憩」をとった形跡はありません。
夜は保護者への連絡や学年の教員、管理職との情報共有、各種報告書の作成が続き、退勤は22時過ぎでした。
それから夕食、就寝。翌日は3時半から朝学習の問題づくりと教材研究、授業のプリント作成。1日の勤務時間は、なんと18時間でした。
これは特別な日のことではなく、普通の勤務実態とのこと。
教職員のいのちと健康を守るために、長時間過密労働の解決は“待ったなし”の課題です。
もう一つ、この実態が示していることは、教職員としての“本来業務”が勤務時間からあふれている、ということです。
文科省の勤務実態調査結果によっても、勤務時間の中で行われるべき“本来業務”にかかった時間は、小学校で10時聞46分、中学校で10時間26分です。
1日の勤務時間は7時間45分ですから、1人の教員が1.4人分(小学校)、1.35人分(中学校)の仕事をしているということです。
◆ 教職員定数の抜本的改善を
では、どうして“本来業務”が勤務時聞からあふれてしまうのか。一つは、学習指導要領の改訂で授業時間数が増えているのに、それに見合った教職員定数の改善が行われていないからです。
たとえば、東京都は中学校教員一人あたりの持ち時間数の上限(それ以上の場合、時間講師を配置することができる)を定めていますが、社会科の場合は週23コマです。1コマの授業は50分間ですから、実質19時間10分です。
文科省は「1時間の授業には1時間の準備が必要だと考えて教職員定数を算定している」と言います。
週23コマの授業と同じ時間を準備にかけたら、38時間20分。週あたりの勤務時間は38時間45分ですから、あと25分(1日あたり5分)しかありません。
子どもたちの生活指導や打ち合わせ、会議、書類づくりなどの時間がそこに納まるはずがありません。
教職員の“本来業務”を勤務時間の中で行うことができるようにするためには、教職員定数の大幅な増加が必要です。しかし、定数増どころか、非正規雇用の多用化等がもたらする教職員の未配置によって、必要な人員すら確保されていないのが全国の実態です。
◆ 文科省が「緊急対策」を発表
昨年末、中央教育審議会が「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中間まとめ)」を発表し、それを踏まえて文部科学省が「学校における働き方改革に関する緊急対策」をまとめました。
これまで教職員の「多忙感」などと言って、長時間過密労働の実態すら認めようとしなかった文科省が、「看過できない事態」としてこの問題に取り組み始めたことは貴重な前進だと思います。
「中間まとめ」は、この問題の解決は「教師一人一人の取組や姿勢のみで解決できるものではない」として、校長や教育委員会、国、「家庭、地域も含めた全ての関係者」のとりくみを期待しています。
また、標準授業時間数を大きく上回る計画は「教師の負担増加に直結するおそれが高い」としたり、入試における部活動の「評価の在り方の見直し」を求めるなど、重要な提起もあります。
しかし、教職員定数の抜本的改善については委員の一意見として紹介されているだけで、主に「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」によって、この問題を解決しようとしています。
◆ 「業務の明確化・適正化」で解決できるのか?
「業務の明確化・適正化」とは、今、学校で教職員が担っている業務を、
「①学校以外が担うべき業務」
「②学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」
「③教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」
の3つに分けて、地方公共団体や地域ボランティア、部活動指導員や様々な「スタッフ」、「民間委託による外部人材」等に振り分けるというものです。
それで本当に教職員の長時間過労働が解消されるのか、いくつかの疑問があります。
一つは、それだけの人が配置できるのかという疑問、二つは教職員と様々な「スタッフ」との打ち合わせの時間をどうやってつくるのかという疑問です。
「中間まとめ」は、そのためには管理職の「マネジメント」が重要だとしていますが、そのことによって効率優先の考え方や業務のマニュァル化が持ち込まれ、今以上に学校の中の管理と統制が強まってしまうのではないでしょうか。
三つは、そもそもこのような「業務の明確化・適正化」が、教育の場にふさわしいものなのか、子どもや父母・保護者、教職員の願いに合ったものなのか、という疑問です。
たとえば、休み時間の子どもとの対応や清掃指導は「必ずしも教師が担う必要がない」ものであり、「地域のボランティア」の協力を得るとされていますが、教職員にとっては、子ども理解を深め、信頼関係を築きながら指導をすすめる上で大切なとりくみです。
「中間まとめ」は「教師が意欲と高い専門性を持ち、今まで以上に一人一人の児童生徒に丁寧に関わりながら、質の高い授業や個に応じた学習指導を実現できるようにする」と述べています。そうであるなら、子どもの姿をまるごと受けとめ、目の前の子どもに合わせてわかりやすい授業をすすめようと努力している教師の「意欲と専門性」を、もっと大事にしてほしいと思います。
「教材の共有化」を否定するものではありませんが、教員や事務職員の「標準職務を明確にした学校管理規則のモデル作成」など、「働き方改革」の名で、教職員の自主性や専門性が損なわれたり、、指導の画一化が図られようとしているのではないか、と心配になってしまいます。
◆ 笑顔でゆとりをもって子どもの前に立てるように
「もっと子どもとふれあう時間がほしい」「しっかりと授業準備をする時間がほしい」。教職員アンケートに寄せられた声です。そのために必要なのは、
①教職員定数を抜本的に改善し、教員一人あたりの授業持ち時間数を減らすこと、
②国の責任で、小申高全学年での少人数学級を実施すること、
③全国一斉学力テストに代表される競争主義的で管理的な教育政策を抜本的に改めることです。
「貧困と格差」が広がり、保護者の雇用環境が悪化する下で、子どもたちは様々な思いをかかえて学校に通ってきます。そうした子どもたち一人ひとりの気持ちを受けとめながら、誰もが安心して楽しく過ごせる学校をつくっていくためには、教職員が笑顔でゆとりをもって子どもの前に立てる勤務条件を整えることが不可欠です。
そのためにも、「原則として時問外勤務は命じられない」としていながら、現実には長時間勤務の歯止めとなっていない「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)をどのように見直していくのか、これからの重要な検討課題となっています。(こうじやようこ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 118号』(2018.2)
◆ 教職員が、笑顔でゆとりをもって、子どもの前に立てるように
糀谷陽子(子どもと教科書全国ネット21常任運営委員・元中学校教員)
◆ “本来業務”が勤務時間からあふれている
昨年12月に行われた都内の教育集会で、30代のある中学校教員の勤務実態が報告されました。
朝7時に出勤し、教材の印刷や教室整備。勤務時間が始まると様々な打ち合わせ。
授業と授業の間の休み時間も職員室に戻らず、生徒の様子を見守ります。空き時間は生徒の「生活の記録」へのコメント書きや配慮を要する生徒の支援。
放課後も班長会や個別の生徒指導、部活の指導が続き、あっと言う間に勤務時間終了時刻に。「休憩」をとった形跡はありません。
夜は保護者への連絡や学年の教員、管理職との情報共有、各種報告書の作成が続き、退勤は22時過ぎでした。
それから夕食、就寝。翌日は3時半から朝学習の問題づくりと教材研究、授業のプリント作成。1日の勤務時間は、なんと18時間でした。
これは特別な日のことではなく、普通の勤務実態とのこと。
教職員のいのちと健康を守るために、長時間過密労働の解決は“待ったなし”の課題です。
もう一つ、この実態が示していることは、教職員としての“本来業務”が勤務時間からあふれている、ということです。
文科省の勤務実態調査結果によっても、勤務時間の中で行われるべき“本来業務”にかかった時間は、小学校で10時聞46分、中学校で10時間26分です。
1日の勤務時間は7時間45分ですから、1人の教員が1.4人分(小学校)、1.35人分(中学校)の仕事をしているということです。
◆ 教職員定数の抜本的改善を
では、どうして“本来業務”が勤務時聞からあふれてしまうのか。一つは、学習指導要領の改訂で授業時間数が増えているのに、それに見合った教職員定数の改善が行われていないからです。
たとえば、東京都は中学校教員一人あたりの持ち時間数の上限(それ以上の場合、時間講師を配置することができる)を定めていますが、社会科の場合は週23コマです。1コマの授業は50分間ですから、実質19時間10分です。
文科省は「1時間の授業には1時間の準備が必要だと考えて教職員定数を算定している」と言います。
週23コマの授業と同じ時間を準備にかけたら、38時間20分。週あたりの勤務時間は38時間45分ですから、あと25分(1日あたり5分)しかありません。
子どもたちの生活指導や打ち合わせ、会議、書類づくりなどの時間がそこに納まるはずがありません。
教職員の“本来業務”を勤務時間の中で行うことができるようにするためには、教職員定数の大幅な増加が必要です。しかし、定数増どころか、非正規雇用の多用化等がもたらする教職員の未配置によって、必要な人員すら確保されていないのが全国の実態です。
◆ 文科省が「緊急対策」を発表
昨年末、中央教育審議会が「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中間まとめ)」を発表し、それを踏まえて文部科学省が「学校における働き方改革に関する緊急対策」をまとめました。
これまで教職員の「多忙感」などと言って、長時間過密労働の実態すら認めようとしなかった文科省が、「看過できない事態」としてこの問題に取り組み始めたことは貴重な前進だと思います。
「中間まとめ」は、この問題の解決は「教師一人一人の取組や姿勢のみで解決できるものではない」として、校長や教育委員会、国、「家庭、地域も含めた全ての関係者」のとりくみを期待しています。
また、標準授業時間数を大きく上回る計画は「教師の負担増加に直結するおそれが高い」としたり、入試における部活動の「評価の在り方の見直し」を求めるなど、重要な提起もあります。
しかし、教職員定数の抜本的改善については委員の一意見として紹介されているだけで、主に「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」によって、この問題を解決しようとしています。
◆ 「業務の明確化・適正化」で解決できるのか?
「業務の明確化・適正化」とは、今、学校で教職員が担っている業務を、
「①学校以外が担うべき業務」
「②学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」
「③教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」
の3つに分けて、地方公共団体や地域ボランティア、部活動指導員や様々な「スタッフ」、「民間委託による外部人材」等に振り分けるというものです。
それで本当に教職員の長時間過労働が解消されるのか、いくつかの疑問があります。
一つは、それだけの人が配置できるのかという疑問、二つは教職員と様々な「スタッフ」との打ち合わせの時間をどうやってつくるのかという疑問です。
「中間まとめ」は、そのためには管理職の「マネジメント」が重要だとしていますが、そのことによって効率優先の考え方や業務のマニュァル化が持ち込まれ、今以上に学校の中の管理と統制が強まってしまうのではないでしょうか。
三つは、そもそもこのような「業務の明確化・適正化」が、教育の場にふさわしいものなのか、子どもや父母・保護者、教職員の願いに合ったものなのか、という疑問です。
たとえば、休み時間の子どもとの対応や清掃指導は「必ずしも教師が担う必要がない」ものであり、「地域のボランティア」の協力を得るとされていますが、教職員にとっては、子ども理解を深め、信頼関係を築きながら指導をすすめる上で大切なとりくみです。
「中間まとめ」は「教師が意欲と高い専門性を持ち、今まで以上に一人一人の児童生徒に丁寧に関わりながら、質の高い授業や個に応じた学習指導を実現できるようにする」と述べています。そうであるなら、子どもの姿をまるごと受けとめ、目の前の子どもに合わせてわかりやすい授業をすすめようと努力している教師の「意欲と専門性」を、もっと大事にしてほしいと思います。
「教材の共有化」を否定するものではありませんが、教員や事務職員の「標準職務を明確にした学校管理規則のモデル作成」など、「働き方改革」の名で、教職員の自主性や専門性が損なわれたり、、指導の画一化が図られようとしているのではないか、と心配になってしまいます。
◆ 笑顔でゆとりをもって子どもの前に立てるように
「もっと子どもとふれあう時間がほしい」「しっかりと授業準備をする時間がほしい」。教職員アンケートに寄せられた声です。そのために必要なのは、
①教職員定数を抜本的に改善し、教員一人あたりの授業持ち時間数を減らすこと、
②国の責任で、小申高全学年での少人数学級を実施すること、
③全国一斉学力テストに代表される競争主義的で管理的な教育政策を抜本的に改めることです。
「貧困と格差」が広がり、保護者の雇用環境が悪化する下で、子どもたちは様々な思いをかかえて学校に通ってきます。そうした子どもたち一人ひとりの気持ちを受けとめながら、誰もが安心して楽しく過ごせる学校をつくっていくためには、教職員が笑顔でゆとりをもって子どもの前に立てる勤務条件を整えることが不可欠です。
そのためにも、「原則として時問外勤務は命じられない」としていながら、現実には長時間勤務の歯止めとなっていない「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)をどのように見直していくのか、これからの重要な検討課題となっています。(こうじやようこ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 118号』(2018.2)
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