《たんぽぽ舎です。【TMM:No2986】2017年1月28日(土)》
▼ 破たんの一歩手前
東芝の損失はどこから生じたか
※《地震と原発事故情報》編集部より
東芝の綱川社長が「口が裂けても言わない」、日本のテレビ・新聞でもほとんど語られない「東芝の原発巨額損失」の裏側に鋭く迫る山崎久隆氏の分析です。ぜひ、ご一読を!
目次の紹介
1.米国原発の衰退
2.軍需産業ウエスチングハウス
3.ウエスチングハウスを売却すべきだが
4.国策の呪縛
5.他の原発企業も軒並み破たんへ
1.米国原発の衰退
もはや債務超過=倒産の危機さえ囁かれ出した東芝の巨額損失問題。
米国の原発建設を行う会社が発生させた損失が原因であることは明らかだが、その経過がだんだん明らかになってきた。
その多くが「原子力ルネッサンス」と呼ばれた原発バブルの時期に受注していた原発が、次々にキャンセルまたは延期されたことが主な原因だった。
シェール革命などで全米のエネルギー体制が大きく変化し、さらに福島第一原発事故の影響で原発の安全対策が強化され、原発に巨額の費用が掛かるようになったことで、まともな会社ならば原発になど魅力を感じなくなるのは誰にでも分かる話だが、ウエスチングハウスを買収していた東芝は、その後も「2030年度まで45基の受注」などと荒唐無稽としか言いようのない目標の下に原子力にのめり込んでいった。
毎日新聞が報じるところでは、2009年に受注したテキサス州のサウステキサスプロジェクト(ABWR2基)は、福島第一原発事故の影響で共同出資していた東電が撤退、その後テキサス州の電力事情などから計画凍結、事実上のキャンセルになっている。同様にキャンセルされたのは2009年受注のフロリダ州レビィ原発1、2号機(BWR110万kw2基)で訴訟合戦の泥仕合になっている。
東芝が損失を計上した原因になった原発は、ウエスチングハウス製AP1000型のサウスカロライナ州VCサマー原発とボーグル原発のそれぞれ2基。2008年に受注し2016年と2017年に運転開始予定が2019年と2020年に2基ずつに延期、現在の進捗率は3割である。
結局、受注した原発は全て延期かキャンセルでは、経営破たんは当たり前である。まともな経営者ならば、少なくても福島第一原発事故の時に方向転換を図るであろう。
ちなみに福島第一原発3号機は東芝製だ。(1、2号機はGE社、4号機は日立)
2.軍需産業ウエスチングハウス
ウエスチングハウスは2006年に東芝が買収した米国の原発企業だが、この会社には「原子力艦船の動力炉製造企業」というもう一つ別の顔がある。れっきとした軍需産業であり、海軍軍用原子炉の開発も行っていた。
東芝が買収した際に軍事部門の独立性と機密保護について米国議会で問題になったが、米国政府は分社化しているので問題は生じないと「保障」した。つまり軍事部門については東芝の「支配権」は一切及ばない。現在は海軍原子炉部門はベクテル社に移籍しウエスチングハウスには残っていないとの説もある。
実際にそれまでニミッツ級原子力空母の全原子炉を一手に作っていたが、最新鋭のジェラルド・R・フォード級ではベクテル社が原子炉を作っておりウエスチングハウス製の原子炉は新造艦には搭載されていない。
親会社が子会社のやっていることをコントロール出来ないのだから、買収と言うより出資に近いことが分かる。しかも、損失の責任は親会社としてかぶることになるのだから、一方的に割を食う買収だった。
ウエスチングハウスが普通の企業だったらこのような事態にはならなかったと思われる。
米国の軍需産業を不用意に買収などしたために起きた。「のれん代」に目がくらんで先見の明を失った結果だ。
ウエスチングハウスは軍需部門の利益を明らかにしていない。そもそも、社の決算などが正確に東芝に伝わっていたとも思えない。
これらが正確に報告されれば、社の採算性が明らかになり、米軍の機密が分かる可能性がある。年末も押し迫った時期のまさかの損失発生の記者会見が行われたわりには損失額は「数千億円」と、きわめて曖昧なものだった。東芝の社長でさえ正確な数値は知らないという呆れた実態なのは、ウエスチングハウスから正確な報告が東芝にされていないからである。
3.ウエスチングハウスを売却すべきだが
東芝が立ち直るにはウエスチングハウスを売却するほかはない。
財政上の透明性も無いような原発企業を何時まで抱えていても、損失が膨らむだけである。来年以降も原発の受注は望み薄。一方、作っている原発は完工の見通しも立たないので費用ばかりが掛かっている。来年度も同程度の損失を出す危険性が高い。
ところが東芝は、本来すべき対策の真逆を行おうとしている。つまり、成長部門である半導体を分社化して出資の受け皿とし、外部の資金援助を受け、原発部門を本体に残すというのだ。
採算部門を切り離して不採算部門を残すのでは、再建など出来るわけがない。
ウエスチングハウスは軍需部門で利益が出るのだろうから、商用原子力部門の赤字を東芝に押しつけているだけである。万一ウエスチングハウスが経営破たんの危機に陥れば、米国の企業が買収するかもしれない。
しかし、そんな企業の赤字を日本の企業が抱え、さらにその赤字を日本企業が救済しなければならない謂われなどない。
米新政権が軍事予算を増大させるのならば、今後ウエスチングハウスの軍需部門の利益は増える。
しかし、その利益は東芝には還元されない。ばかばかしいにもほどがある。
4.国策の呪縛
日本では原子力は未だに国策だ。
米国はそうではない。米国の場合、国策は核兵器と核動力艦を含む核戦力だ。
国策会社はつぶれない。だから東芝もつぶれないとの驕(おご)りがあるのだろう。
一方ウエスチングハウスは米国の国策企業だからつぶれない。こういう驕りが、不正経理を引き起こし、喉元過ぎてさえいないうちから「熱さを忘れ」てしまう。
まさに福島第一原発事故で「煮え湯」を飲まされたはずの原子力産業が、依然として国策企業ぶりを発揮し、やりたい放題をしていることと付合する。
しかし、米国にとっての国策企業は軍需産業としてのウエスチングハウスであって、商業原発部門はリストラ対象の斜陽産業に他ならない。
だから、ゼネラルエレクトリックは福島第一原発事故直後に商業原子力から撤退した。
日本では原発が国策と言っても、もはや採算は度外視状態、原子力ムラと原発に寄生する地元関係者や官庁と官僚を養うこともままならない。
託送料金に原発の費用をねじ込もうとしても、さすがに年間何兆円もの費用を押し込めるわけがない。そんなことをしたら日本経済が崩壊してしまう。
国策会社だから何をしても倒産しないといった驕りは、東電解体が行われなかったために原子力ムラに広がった誤った認識だ。
東芝の巨額損失は、事故を起こして巨額の賠償金を支払わなければならない被災者がいる東電とは本質的に異なる。だから国費(税金)での救済はおそらく無い。
採算部門を切り離して、日立やSONYなどIT産業が資産を継承したら、残った不採算部門は身売りも出来ずに破たん処理に移行するだろうし、それが最もまともな対策である。
5.他の原発企業も軒並み破たんへ
三菱重工業も東芝と似た道を歩んでいる。アレバ社の損失をかぶる格好になるベトナム・トルコ原発輸出の失敗、米国での欠陥蒸気発生器売り込みによる巨額損失、国産ジェット機開発の失敗、三菱が破たんするか、不採算部門の原子力を切り離すことが出来るか、軍需産業として巨額の防衛費でなんとか凌いでいる会社が、東芝以上のリスクを抱えていることもまた事実だ。
経営状態が良好の日立も、英国への原発輸出に血道を上げれば同じ道を辿るだろう。
英国への進出は、まず英国のホライズン・ニュークリア・パワー社を買収し、この会社が受注した原発建設を、全原発が運転停止になっている日本原電と日立が建設する計画だ。
東芝が、ウエスチングハウスが買収した原発建設会社のCB&Iストーン・アンド・ウエブスター社の損失をかぶった構図と同じ事態にならないとは限らない。
EU離脱と再生可能エネルギーへの投資などで無理に建設を強行すれば英国原発が巨額の負債を抱えるリスクが大きいのが現状だ。
それが証拠に3兆円もの原発4基建設計画を受注しても、政府系金融機関である国際協力銀行や日本政策投資銀行しか日立に資金援助をするところはない。
日立は台湾第四原発を建設したが、これも稼働せずに廃炉が決まっている。同様のことが英国原発でも起こりえるのである。
▼ 破たんの一歩手前
東芝の損失はどこから生じたか
山崎久隆(たんぽぽ舎)
※《地震と原発事故情報》編集部より
東芝の綱川社長が「口が裂けても言わない」、日本のテレビ・新聞でもほとんど語られない「東芝の原発巨額損失」の裏側に鋭く迫る山崎久隆氏の分析です。ぜひ、ご一読を!
目次の紹介
1.米国原発の衰退
2.軍需産業ウエスチングハウス
3.ウエスチングハウスを売却すべきだが
4.国策の呪縛
5.他の原発企業も軒並み破たんへ
1.米国原発の衰退
もはや債務超過=倒産の危機さえ囁かれ出した東芝の巨額損失問題。
米国の原発建設を行う会社が発生させた損失が原因であることは明らかだが、その経過がだんだん明らかになってきた。
その多くが「原子力ルネッサンス」と呼ばれた原発バブルの時期に受注していた原発が、次々にキャンセルまたは延期されたことが主な原因だった。
シェール革命などで全米のエネルギー体制が大きく変化し、さらに福島第一原発事故の影響で原発の安全対策が強化され、原発に巨額の費用が掛かるようになったことで、まともな会社ならば原発になど魅力を感じなくなるのは誰にでも分かる話だが、ウエスチングハウスを買収していた東芝は、その後も「2030年度まで45基の受注」などと荒唐無稽としか言いようのない目標の下に原子力にのめり込んでいった。
毎日新聞が報じるところでは、2009年に受注したテキサス州のサウステキサスプロジェクト(ABWR2基)は、福島第一原発事故の影響で共同出資していた東電が撤退、その後テキサス州の電力事情などから計画凍結、事実上のキャンセルになっている。同様にキャンセルされたのは2009年受注のフロリダ州レビィ原発1、2号機(BWR110万kw2基)で訴訟合戦の泥仕合になっている。
東芝が損失を計上した原因になった原発は、ウエスチングハウス製AP1000型のサウスカロライナ州VCサマー原発とボーグル原発のそれぞれ2基。2008年に受注し2016年と2017年に運転開始予定が2019年と2020年に2基ずつに延期、現在の進捗率は3割である。
結局、受注した原発は全て延期かキャンセルでは、経営破たんは当たり前である。まともな経営者ならば、少なくても福島第一原発事故の時に方向転換を図るであろう。
ちなみに福島第一原発3号機は東芝製だ。(1、2号機はGE社、4号機は日立)
2.軍需産業ウエスチングハウス
ウエスチングハウスは2006年に東芝が買収した米国の原発企業だが、この会社には「原子力艦船の動力炉製造企業」というもう一つ別の顔がある。れっきとした軍需産業であり、海軍軍用原子炉の開発も行っていた。
東芝が買収した際に軍事部門の独立性と機密保護について米国議会で問題になったが、米国政府は分社化しているので問題は生じないと「保障」した。つまり軍事部門については東芝の「支配権」は一切及ばない。現在は海軍原子炉部門はベクテル社に移籍しウエスチングハウスには残っていないとの説もある。
実際にそれまでニミッツ級原子力空母の全原子炉を一手に作っていたが、最新鋭のジェラルド・R・フォード級ではベクテル社が原子炉を作っておりウエスチングハウス製の原子炉は新造艦には搭載されていない。
親会社が子会社のやっていることをコントロール出来ないのだから、買収と言うより出資に近いことが分かる。しかも、損失の責任は親会社としてかぶることになるのだから、一方的に割を食う買収だった。
ウエスチングハウスが普通の企業だったらこのような事態にはならなかったと思われる。
米国の軍需産業を不用意に買収などしたために起きた。「のれん代」に目がくらんで先見の明を失った結果だ。
ウエスチングハウスは軍需部門の利益を明らかにしていない。そもそも、社の決算などが正確に東芝に伝わっていたとも思えない。
これらが正確に報告されれば、社の採算性が明らかになり、米軍の機密が分かる可能性がある。年末も押し迫った時期のまさかの損失発生の記者会見が行われたわりには損失額は「数千億円」と、きわめて曖昧なものだった。東芝の社長でさえ正確な数値は知らないという呆れた実態なのは、ウエスチングハウスから正確な報告が東芝にされていないからである。
3.ウエスチングハウスを売却すべきだが
東芝が立ち直るにはウエスチングハウスを売却するほかはない。
財政上の透明性も無いような原発企業を何時まで抱えていても、損失が膨らむだけである。来年以降も原発の受注は望み薄。一方、作っている原発は完工の見通しも立たないので費用ばかりが掛かっている。来年度も同程度の損失を出す危険性が高い。
ところが東芝は、本来すべき対策の真逆を行おうとしている。つまり、成長部門である半導体を分社化して出資の受け皿とし、外部の資金援助を受け、原発部門を本体に残すというのだ。
採算部門を切り離して不採算部門を残すのでは、再建など出来るわけがない。
ウエスチングハウスは軍需部門で利益が出るのだろうから、商用原子力部門の赤字を東芝に押しつけているだけである。万一ウエスチングハウスが経営破たんの危機に陥れば、米国の企業が買収するかもしれない。
しかし、そんな企業の赤字を日本の企業が抱え、さらにその赤字を日本企業が救済しなければならない謂われなどない。
米新政権が軍事予算を増大させるのならば、今後ウエスチングハウスの軍需部門の利益は増える。
しかし、その利益は東芝には還元されない。ばかばかしいにもほどがある。
4.国策の呪縛
日本では原子力は未だに国策だ。
米国はそうではない。米国の場合、国策は核兵器と核動力艦を含む核戦力だ。
国策会社はつぶれない。だから東芝もつぶれないとの驕(おご)りがあるのだろう。
一方ウエスチングハウスは米国の国策企業だからつぶれない。こういう驕りが、不正経理を引き起こし、喉元過ぎてさえいないうちから「熱さを忘れ」てしまう。
まさに福島第一原発事故で「煮え湯」を飲まされたはずの原子力産業が、依然として国策企業ぶりを発揮し、やりたい放題をしていることと付合する。
しかし、米国にとっての国策企業は軍需産業としてのウエスチングハウスであって、商業原発部門はリストラ対象の斜陽産業に他ならない。
だから、ゼネラルエレクトリックは福島第一原発事故直後に商業原子力から撤退した。
日本では原発が国策と言っても、もはや採算は度外視状態、原子力ムラと原発に寄生する地元関係者や官庁と官僚を養うこともままならない。
託送料金に原発の費用をねじ込もうとしても、さすがに年間何兆円もの費用を押し込めるわけがない。そんなことをしたら日本経済が崩壊してしまう。
国策会社だから何をしても倒産しないといった驕りは、東電解体が行われなかったために原子力ムラに広がった誤った認識だ。
東芝の巨額損失は、事故を起こして巨額の賠償金を支払わなければならない被災者がいる東電とは本質的に異なる。だから国費(税金)での救済はおそらく無い。
採算部門を切り離して、日立やSONYなどIT産業が資産を継承したら、残った不採算部門は身売りも出来ずに破たん処理に移行するだろうし、それが最もまともな対策である。
5.他の原発企業も軒並み破たんへ
三菱重工業も東芝と似た道を歩んでいる。アレバ社の損失をかぶる格好になるベトナム・トルコ原発輸出の失敗、米国での欠陥蒸気発生器売り込みによる巨額損失、国産ジェット機開発の失敗、三菱が破たんするか、不採算部門の原子力を切り離すことが出来るか、軍需産業として巨額の防衛費でなんとか凌いでいる会社が、東芝以上のリスクを抱えていることもまた事実だ。
経営状態が良好の日立も、英国への原発輸出に血道を上げれば同じ道を辿るだろう。
英国への進出は、まず英国のホライズン・ニュークリア・パワー社を買収し、この会社が受注した原発建設を、全原発が運転停止になっている日本原電と日立が建設する計画だ。
東芝が、ウエスチングハウスが買収した原発建設会社のCB&Iストーン・アンド・ウエブスター社の損失をかぶった構図と同じ事態にならないとは限らない。
EU離脱と再生可能エネルギーへの投資などで無理に建設を強行すれば英国原発が巨額の負債を抱えるリスクが大きいのが現状だ。
それが証拠に3兆円もの原発4基建設計画を受注しても、政府系金融機関である国際協力銀行や日本政策投資銀行しか日立に資金援助をするところはない。
日立は台湾第四原発を建設したが、これも稼働せずに廃炉が決まっている。同様のことが英国原発でも起こりえるのである。
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