=時評自評=
◆ これは「春闘」ではない
「これは春闘ではない」というのが、今春の賃金交渉を見ての偽らざる感想だ。なぜか。
旧総評が始めた春闘方式は、労組のナショナルセンターである連合と加盟大手労組がベアを「断念」した時に事実上、終わったのであり、その意味で政府が主導した今年の賃金交渉を「春闘」というのは正確な表現ではない。交渉当事者である日本経団連は何年も前から「春闘は終わった」と繰り返し主張し、連合は「不況下では賃上げより雇用が大事」としてベアの要求をしておらず、「名ばかり春闘」が続いていた。
安倍政権ににらまれたくない経済界が示した今春の賃上げ回答は、春闘とは似て非なるものとしか言いようがない。
今年の賃金交渉で、一番熱心に早くから動いたのは安倍政権だった。
その狙いはデフレからの脱却であり、政権浮揚策の一環であることは間違いない。政治家や経産省などが経済界に賃上げを強く要請して、ムードの演出に奔走した。
「官製春闘」などと新聞は書いたが、政府対経済界・労組という図式が出来上がり、政権の巧妙な作戦に労使がはまってしまった格好だ。
有り体に言えば、賃上げがアベノミクスの4本目の矢として組み込まれたのだ。給料が上がれば、物を買う人が増え、それが生産の拡大や設備投資の活発化につながり、景気が上向くという、労組が主張してきた理屈を政府が先取りして風を送ったことで、賃上げは「アベダノミ(安倍頼み)」の様相を呈した。
政府は賃上げの地ならしとして企業減税を用意し、収益が上がっているのに賃上げをしない企業に対しては「経産省が何らかの対応をする」とアナウンスするなどして企業の外堀を埋め、賃上げせざるを得ない状況に追い込んでいった。
「春闘」は、労使の中央団体の作・演出による賃金交渉を、マスメディアが大きく報道することで成り立ってきた、「幻想」の仕掛けである。実体は大企業の個別の労使交渉を春に集中させただけのものである。
だから、ベア要求がなければニュースにさえならず、事実、ここ何年かの報道量は少なかった。
そこで、安倍政権は春闘の「幻想」を復活させ、デフレ脱却のシンボルにしようと考えた。労使自治など、どこ吹く風とばかりに、剛腕をもって経済界に賃上げを飲ませたのだ。
だから、今春の労使交渉は「春闘」ではない。この反動はやがて確実に、労組を襲うことになる。
デフレ脱却が達成され、今度はインフレ懸念が出れば、政府は「賃上げ自粛」と言い出すだろう。労働側がつくった戦後最大の発明と言われた「春闘」だが、賃金相場形成の主役を政府に奪われたツケは、労使双方にとって重いものになるはずだ。
賃上げに踏み切った大企業が出たことはいいことだが、政府が関与したこと、さらに中小や非正規労働者への波及が広がらないことなどを見ると、素直に評価することはできない。
労働を 生活を 社会を変える 『労働情報 885号』(2014年4月15日号)
http://www.rodojoho.org/
◆ これは「春闘」ではない
稲葉康生(ジャーナリスト)
「これは春闘ではない」というのが、今春の賃金交渉を見ての偽らざる感想だ。なぜか。
旧総評が始めた春闘方式は、労組のナショナルセンターである連合と加盟大手労組がベアを「断念」した時に事実上、終わったのであり、その意味で政府が主導した今年の賃金交渉を「春闘」というのは正確な表現ではない。交渉当事者である日本経団連は何年も前から「春闘は終わった」と繰り返し主張し、連合は「不況下では賃上げより雇用が大事」としてベアの要求をしておらず、「名ばかり春闘」が続いていた。
安倍政権ににらまれたくない経済界が示した今春の賃上げ回答は、春闘とは似て非なるものとしか言いようがない。
今年の賃金交渉で、一番熱心に早くから動いたのは安倍政権だった。
その狙いはデフレからの脱却であり、政権浮揚策の一環であることは間違いない。政治家や経産省などが経済界に賃上げを強く要請して、ムードの演出に奔走した。
「官製春闘」などと新聞は書いたが、政府対経済界・労組という図式が出来上がり、政権の巧妙な作戦に労使がはまってしまった格好だ。
有り体に言えば、賃上げがアベノミクスの4本目の矢として組み込まれたのだ。給料が上がれば、物を買う人が増え、それが生産の拡大や設備投資の活発化につながり、景気が上向くという、労組が主張してきた理屈を政府が先取りして風を送ったことで、賃上げは「アベダノミ(安倍頼み)」の様相を呈した。
政府は賃上げの地ならしとして企業減税を用意し、収益が上がっているのに賃上げをしない企業に対しては「経産省が何らかの対応をする」とアナウンスするなどして企業の外堀を埋め、賃上げせざるを得ない状況に追い込んでいった。
「春闘」は、労使の中央団体の作・演出による賃金交渉を、マスメディアが大きく報道することで成り立ってきた、「幻想」の仕掛けである。実体は大企業の個別の労使交渉を春に集中させただけのものである。
だから、ベア要求がなければニュースにさえならず、事実、ここ何年かの報道量は少なかった。
そこで、安倍政権は春闘の「幻想」を復活させ、デフレ脱却のシンボルにしようと考えた。労使自治など、どこ吹く風とばかりに、剛腕をもって経済界に賃上げを飲ませたのだ。
だから、今春の労使交渉は「春闘」ではない。この反動はやがて確実に、労組を襲うことになる。
デフレ脱却が達成され、今度はインフレ懸念が出れば、政府は「賃上げ自粛」と言い出すだろう。労働側がつくった戦後最大の発明と言われた「春闘」だが、賃金相場形成の主役を政府に奪われたツケは、労使双方にとって重いものになるはずだ。
賃上げに踏み切った大企業が出たことはいいことだが、政府が関与したこと、さらに中小や非正規労働者への波及が広がらないことなどを見ると、素直に評価することはできない。
労働を 生活を 社会を変える 『労働情報 885号』(2014年4月15日号)
http://www.rodojoho.org/
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