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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

文化の日_辻井喬

2006年11月04日 | ノンジャンル
  憲法 揺れる「還暦」

 憲法を改正しようという動きがあるのは確かなのですが、どうも理由や根拠がはっきりしない。今の憲法は「米国の押しつけだ」と言われるが、むしろ、押しつけられているのは憲法改正論の方ではないでしょうか
 自民党の改正草案を読んでがっかりしました。確かに翻訳ではないけれど、今以上にひどい文章だったからです。
 それは「戦争のできる国にしたい」という本音を隠しているからでしょう。憲法改正を言う人は民主主義が嫌いで、主権在民や平和主義も否定したい。でもそれを言い出せば国民に反発されるから、真っ向から否定する勇気はない。民主主義の枠の中で反民主主義を書こうとすれば、文章は死にます。本音を隠したままでは何度書き直しても、惨めな文章しかできないのは当たり前なんです。面従腹背では、人を感激させる文章にはなりません。
 改憲論者は、ただ今がよくないから変えなきゃならない、自前の憲法を作ろうと言う。改憲に反対する者を守旧派だと決めつける。閉塞(へいそく)的な現実に対する国民の欲求不満を、憲法改正でそらそうとしているわけです。
 改憲の外堀を埋めようとしているのが、教育現場の荒廃を理由にした教育基本法の改正でしょ。しかし教育は今の社会状況の反映なんです。敵をすり替えてはいけない
 私は憲法制定の前に、吉田茂外相(当時)の顧問で終戦連絡事務局参与だった白洲次郎さんから直接聞いているから言えるのですが、そもそも憲法は、米国に押しつけられたわけではありません
 吉田外相は、戦後復興は並大抵ではないので「まずは経済を復興させたい。軍隊は持たないで復興に全力を注ぎたい。敗戦国が軍隊を持てば戦勝国にいいようにあごで使われる」と心配していた。
 そこにマッカーサーの指示による連合国軍総司令部(GHQ)の憲法草案が示された。「紛争の解決手段としての武力を放棄する」とあったので、吉田外相は内心ホッとしたといいます。

  紋切り型では九条守れぬ

 問題は私も含め、正論を言う人が改憲の流れを押し戻せないことです。憲法を議論する時に九条だけを語るのはずれているとは思うけど、それでも「今、憲法を変えたら戦争になる」と、大衆に届く言葉で語ってこなかった。生活感覚に合った言葉が必要だったのに、真理は自分の方にあると紋切り型の表現でしか語ってこなかった。
 だから戦争の方に駆け出そうとしている政治家の方が選挙で支持を得てしまう。ドイツのナチスもヒトラーも、民主的なワイマール憲法の下で台頭したことを忘れてはいけない。北朝鮮の核実験によって、愚かな政治家たちが核武装論まで持ち出しています。
 しかし、世界で唯一の被爆国である日本がするべきことは、九条の精神を体現するものとして、北東アジアに非核地帯をつくろうと声を上げることなのです。日本が国際社会で果たす役割は、三流四流の核武装国に成り下がることではありません。

※つじい・たかし 1927年東京生まれ。本名・堤清二。東大経済学部卒。在学中は全日本学生自治会総連合(全学連)で活動。セゾングループ創業者91年に経営から退く。「虹の岬」(94年)で谷崎潤一郎賞、「父の肖像」(2004年)で野間文芸賞。79歳。

『東京新聞』(2006/11/3)「試される憲法 誕生60年」


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