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パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

人を大事にする終身雇用という「日本の古き良き伝統」は極めて合理的

2020年01月29日 | 格差社会
 ◆ 日本企業が忘れている「フォードが給料を2倍にした理由」をご存知か (現代ビジネス)
 ◆ 終身雇用はエクセレント・カンパニーの条件
 11月20日公開の「日本企業はバカか…! いまこそ『終身雇用』が大切である決定的理由」で述べた様に、エクセレント・カンパニーであろうとするのなら、終身雇用は維持すべきである。
 もちろん、2018年1月25日の記事「バフェットが実践する『実力主義の終身雇用』こそが企業を再生する」で明らかにしたとおり、「終身雇用は堅持すべきだが、『年功序列』は排除すべき」である。
 この2つをまるでセットでもあるかのように扱うから、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長でもある)や、トヨタ自動車の豊田章男社長から「終身雇用に後ろ向き」な発言が出てくるのだ。
 1月12日の記事「『経営者として三流、犯罪者なら一流』のゴーンは日本に何を残したか」で、いわゆるゴーン事件について述べたが、
 このような事件がなくても、5月15日の記事「国策自動車会社であるルノーも日産も、結局、生き残れはしないだろう」にて解説した通り、従業員のリストラ以外に取り立てて才能がない「首切り屋ゴーン」の末路はわかっていたとも言える。
 そして「首切り屋」が去った後の企業がどのようになるのかも、見事に実証してくれた……。
 さらに、8月6日の記事「従業員の不信を引きずったパナソニックに復活はあるのか?」で取り上げたパナソニックは、いわゆる「中村改革」の惨劇から立ち直れず、状況はますます悪化しているように思える。
 まさに「幸之助の会社はリストラで疲弊した」状態だ。

 資本と機械・設備を準備して、低賃金の使い捨て労働者を次々と雇用していけば企業がなり立った時代は、とっくに終わった(次に述べるフォードのケースが示すように、それが成り立ったと思うことさえ幻想かも知れないが……)。
 現在はピーター・F・ドラッカーが述べる「知識社会」である。
 機械・工場、店舗設備などが産業の主役から滑り落ちつつあり、個々の従業員が持つ「知識」が現代の生産財である。
 ◆ 利益を生むのは人間(従業員)である

 そもそもドラッカーは、「機械、工場、店舗などを用意するだけでは1円の利益も生まない。利益を生むのは、それらの設備を動かす人間だけである」と看破している。
 このように、「利益の源泉」であり、かつ貴重な「生産財」である従業員を、簡単に取り換え可能な会社の単なるパーツとして粗雑に扱う会社が成功するはずがない
 現在では、経営が思わしくなくなると、リストラで「人件費削減」を行い、生き残ろうとする経営者が多いが、従業員の数を減らして経費を削減することなど「カルロス・ゴーン」のように他人の痛みが分からない人間にとっては、小学生レベルの簡単な仕事だ。
 しかし、そのような経営者は二流にしか過ぎない。

 従業員を「安く使う」のではなく「払った給料以上に働いてもらう」ことこそが、有能な経営者なのだ。
 以下、100年以上前に大成功したフォード・モーターの「給料2倍作戦」を例に挙げて「従業員の給料を高く払うべきだ」ということを論じたい。
 ◆ 初代フォードが決断した

 1903年にヘンリー・フォードによって設立されたフォード・モーター・カンパニーは、1908年に発売したT型フォードの大成功によって、事業が活況を呈していた。
 この自動車は、1927年まで基本的なモデルチェンジのないまま、1500万台以上が生産された。2100万台以上が生産されたフォルクスワーゲン・タイプ1には負けるが、自動車業界の「金字塔」といってよいだろう。
 しかし、フォードには悩みがあった。事業が活況なのにもかかわらず、従業員が思うように集まらなかったのだ。
 当時の、工員の賃金は安く(フォードの最低賃金は日給2ドル程度)、きつい単純作業に嫌気がさして、次々と離職するため、その補充が追いつかなかったのだ。
 そこで、右腕と頼る部下が「日給を思い切って倍にしましょう!」という提案をする。フォードは、最初この突飛に思える提案を却下したのだが、考え直してみると妙案とも思えたので、思い切って実行することにした。
 そこで行われたのが、1914年の日給5ドル宣言である。

 単純労働の工員でも、一定期間働けば、それまでの日給の2倍以上の5ドルを支払うという画期的な内容は、たちまちのうちに噂になり、多くの応募者が集まった。
 例えば、現在月給20万円の仕事に、50万円支払うと宣言したらどのようになるかを想像してほしい。
 ◆ むしろ経費は下がった

 もちろん、彼らはこれまでのようにすぐに離職したりはしない。彼らにとって日給5ドルの仕事は、他では見つからない「貴重な仕事」だからである。
 さらに大事なのは、この「日給5ドル宣言」によって、人件費は大幅に上昇したものの、会社の「全体的な経費はむしろ下がった」ということである。
 1. それまで恒常的に大量の募集を行うために使っていた広告などの費用がほぼゼロになった。
2. 次々と新しく採用する工員の教育研修費用もほとんど必要無くなった。
3. 採用・研修のための専任部署も大幅に縮小できた。
4. 新人工員が熟練するまでの「生産性の低下」を大幅に削減できた。
 など、良いことずくめである。
 もちろん、フォードのように高い給与を払わない(えない)ライバル企業達は、さらに従業員集めに苦労するようになり、フォードとの差はますます開いた。
 結局、「企業経営者は従業員の雇用を守り、できる限り高い給料を払う」べきだという、「日本の古き良き伝統」は極めて合理的だと思う。
 私は投資を仕事にしているが、「リストラを繰り返して利益を確保している企業」は投資対象としない
 確かに、アクティビスと呼ばれるような世の中の多くの投資家は、リストラを行って利益を確保するよう迫ることが多いが、冒頭のドラッカーの言葉にあるように「利益を生み出せるのは人間だけ」である。
 従業員が高いモラルで働くことが企業利益に直結するのだから、従業員に高い給与を払うことを推奨すべきである。
 ただし、支払いの基準はあくまで「実力主義」にすべきであることは言うまでもない。
 人間を安く使い捨てにしようとするとかえって高くつく
 「人手(不足)」という言葉があるが、人間の手にはもれなく心と体がついてくるのだ。モチベーションが、生産性の重要な要素である。
 ◆ 中間層が乏しい100年前に戻りつつある

 「日給5ドル宣言」のもう1つの効用は、従業員がフォードの自動車を購入できるようになったことである。
 標準的T型フォードの価格は、1917年に360ドルであったが、日給2ドルであれば、日曜日だけが休み(月25日労働)として年収600ドル。自動車ローンが発達していない当時の貧しい人々には高嶺の花であった。
 しかし、2ドルで生活するとして、日給5ドルとの差額3ドルは、年間で900ドルにも達するから、5ドルで働く工員は現金でも十分購入できる。
 フォード・モーターに限らず、先進国の20世紀における目覚しい経済的発展は、それまで貧しかった人々が工業化によって、十分消費に回せるだけの所得を獲得できたおかげとも言える。
 工場労働者を中心とした大量の中間層が消費を支え、その消費を賄うための供給によって雇用が創出されるという好循環が、戦後の世界経済の発展を支えてきた。
 ところが今、この好循環が崩れてきている。

 5月29日の記事「世界経済低迷の最大原因・中国が退場すればデフレが終わる」で述べたように、共産主義中国などの発展途上国において、低賃金労働による安価な製品が大量に供給され、世界的なデフレを引き起こしている。
 それだけではなく、日本を始めとする先進国の企業が低賃金労働を求めて世界をさまよっている。
 その結果、先進国において、発展途上国と競合しなればならない非正規雇用を始めとする貧しい人々と、低賃金労働でコスト削減をして巨万の富を得るカルロス・ゴーンのような富裕階級との格差が著しくなっている。
 金持ちと貧乏人は、どのように遅れた発展途上国にも存在する。
 しかし、厚い中間層というのは、先進国あるいは準先進国にしか存在しない。逆に言えば、厚い中間層こそが先進国のシンボルなのだ。
 リストラ・海外移転が無能な経営者によって次々と行われ、中間層が疲弊する国は、結局先進国の座から滑り落ちる
 繰り返すが、「企業にとって人材こそが最も重要な資産」であり、国家にとっては「中間層こそが経済を支える原動力」なのである。
   大原 浩(国際投資アナリスト)

『現代ビジネス - Yahoo!ニュース』(2020/1/25)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200125-00069923-gendaibiz-bus_all
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