日本語の「は」と「が」について。

象は鼻が長い=∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}。
とりあえず「三上文法」を「批判」します。

(1293)「象は鼻が長い」の「述語論理」の「解説」。

2024-01-12 13:13:34 | 象は鼻が長い、述語論理。

(01)
「象は鼻長い。」という文の主語に関する話題です。皆様はいかがお考えでしょうか、この文の主語は「象」だと思われますか、「鼻」だと思われますか。非常に簡単な文ではあるのですが、実はこの文は大正時代から文法的な論争が繰り返されていて、現時点でも明確な結論が出ていない問題なのです。歴史で邪馬台国のあった場所が「畿内説」「九州説」に分かれて議論が繰り返されているのと同じような印象を持っています(象は鼻長い - 早稲田アカデミー)。
然るに、
(02)
 ― 何年もの間、繰り返し書いてゐるものの、―
(1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}
(2)∀x{兎x→∃z(耳zx&~鼻zx&長z)}
(3)∃x(象x&兎x)
といふ「論理式(Well formed formulae)」は、「日本語」に「翻訳」すると、
(1)すべてのxについて{xが象であるならば、あるyは(xの鼻であって、長く)、すべてのzについて(zがxの鼻ではないならば、zは長くない)}。
(2)すべてのxについて{xが兎であるならば、あるzは(xの鼻ではなくて、zは長い)}。
(3)  あるxについて(xは象であって、xは兎である)。
といふ「意味」である。
然るに、
(03)
次の「計算(Predicate calculus)」は、「妥当」である。
1       (1) ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)} A
 2      (2) ∀x{兎x→∃z(耳zx&~鼻zx&長z)}         A
  3     (3) ∃x(象x&兎x)                      A
1       (4)    象a→∃y(鼻ya&長y)&∀z(~鼻za→~長z)  1UE
 2      (5)    兎a→∃z(耳za&~鼻za&長z)          2UE
   6    (6)    象a&兎a                       A
   6    (7)    象a                          6&E
   6    (8)       兎a                       6&E
1  6    (9)                  ∀z(~鼻za→~長z)  47MPP
1  6    (ア)                     ~鼻ba→~長b   9UI
 2 6    (イ)       ∃z(耳za&~鼻za&長z)          58MPP
    ウ   (ウ)          耳ba&~鼻ba&長b           A
    ウ   (エ)              ~鼻ba              ウ&E
    ウ   (オ)                   長b           ウ&E
1  6ウ   (カ)                          ~長b   アエMPP
1  6ウ   (キ)                   長b&~長b       オカ&I
12 6    (ク)                   長b&~長b       イウキEE
123     (ケ)                   長b&~長b       36クEE
12      (コ)~∃x(象x&兎x)                      3ケRAA
従って、
(03)により、
(04)
(1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}。然るに、
(2)∀x{兎x→∃z(耳zx&~鼻zx&長z)}。従って、
(コ)~∃x(象x&兎x)。
といふ「推論」は、「妥当」である。
然るに、
(05)
(ⅰ)
1    (1)~∃x(象x& 兎x)  A
 2   (2)    象a& 兎a   A
 2   (3) ∃x(象x& 兎x)  2EI
12   (4)~∃x(象x& 兎x)&
         ∃x(象x& 兎x)  13&I
1    (5)  ~(象a& 兎a)  24RAA
  6  (6)    象a       A
   7 (7)        兎a   A
  67 (8)    象a& 兎a   67&I
1 67 (9)  ~(象a& 兎a)&
           (象a& 兎a)  58&I
1 6  (ア)       ~兎a   79RAA
1    (イ)    象a→~兎a   6アCP
1    (ウ) ∀x(象x→~兎x)  1UI
(ⅱ)
1    (1) ∀x(兎x→~象x)  A
 2   (2) ∃x(象x& 兎x)  A
1    (3)    兎a→~象a   1UE
  4  (4)    象a& 兎a   A
  4  (5)        兎a   4&E
1 4  (6)       ~象a   35MPP
  4  (7)    象a       4&E
1 4  (8)    象a&~象a   67&I
  4  (9)~∀x(兎x→~象x)  18RAA
 2   (ア)~∀x(兎x→~象x)  249EE
12   (イ) ∀x(兎x→~象x)&
        ~∀x(兎x→~象x)  1ア&I
1    (ウ)~∃x(象x& 兎x)  2イRAA
従って、
(05)により、
(06)
① ~∃x(象x& 兎x)
②  ∀x(象x→~兎x)
に於いて、すなはち、
① (象であって、兎であるといふ、そのやうなxは存在しない
すべてのxについて(xが象であるならば、xは兎ではない)。
に於いて、
①=② である。
従って、
(03)~(06)により、
(07)
1      (1) ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)} A
 2     (2) ∀x{兎x→∃z(耳zx&~鼻zx&長z)}         A
  3    (3) ∃x(象x&兎x)                      A
1      (4)    象a→∃y(鼻ya&長y)&∀z(~鼻za→~長z)  1UE
 2     (5)    兎a→∃z(耳za&~鼻za&長z)          2UE
   6   (6)    象a&兎a                       A
   6   (7)    象a                          6&E
   6   (8)       兎a                       6&E
1  6   (9)                  ∀z(~鼻za→~長z)  47MPP
1  6   (ア)                     ~鼻ba→~長b   9UI
 2 6   (イ)       ∃z(耳za&~鼻za&長z)          58MPP
    ウ  (ウ)          耳ba&~鼻ba&長b           A
    ウ  (エ)              ~鼻ba              ウ&E
    ウ  (オ)                   長b           ウ&E
1  6ウ  (カ)                          ~長b   アエMPP
1  6ウ  (キ)                   長b&~長b       オカ&I
12 6   (ク)                   長b&~長b       イウキEE
123    (ケ)                   長b&~長b       36クEE
12     (コ)~∃x(象x&兎x)                      3ケRAA
12     (サ)∀x~(象x&兎x)                      コ量化子の関係
12     (シ)  ~(象a&兎a)                      サUE
     ス (ス)    象a                          A
      セ(セ)       兎a                       A
     スセ(ソ)    象a&兎a                       スセ&I
12   スセ(タ)  ~(象a&兎a)&(象a&兎a)              シソ&I
12   ス (チ)      ~兎a                       セタRAA
12     (ツ)   象a→~兎a                       スチCP
12     (テ)∀x(象x→~兎x)                      ツUI
といふ『計算(Predicate calculus)』は、「妥当」であるものの、この『計算』を、『計算(07)』とする。
従って、
(07)により、
(08)
(1)象は鼻長い。
(2)兎は鼻ではなく、耳が長い。
(3)象は兎ではない。
といふ「日本語」が、
(1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}
(2)∀x{兎x→∃z(耳zx&~鼻zx&長z)}
(3)∀x(象x→~兎x)
といふ「意味」、すなはち、
(1)すべてのxについて{xが象であるならば、あるyは(xの鼻であって、長く)、すべてのzについて(zがxの鼻ではないならば、zは長くない)}。
(2)すべてのxについて{xが兎であるならば、あるzは(xの鼻ではないが、zは長い)}。
(3)すべてのxについて(xが象であるならば、xは兎ではない)。
といふ「意味」であるならば、そのときに限って、
(1)象は鼻長い。      然るに、
(2)兎は鼻ではなく、耳が長い。従って、
(3)象は兎ではない。
といふ『推論』は、「妥当」である。
然るに、
(09)
沢田充茂の『現代論理学入門』(一九六ニ年)には楽しい解説が載っています。
・・・・・・たとえば「長い」というような表現は、象が主語なのか、鼻主語なのかはっきりしないから、このままではその論理的構造が明示されていない。いわば非論理的な文章である、というひともある。しかしこの文の論理的な構造をはっきりと文章にあらわして「すべてのxについて、もしそのxが象であるならば、yなるものが存在し、そのyは鼻であり、xはyを所有しており、このyは長い」といえば・・・・・・たとえば動物園で象をはじめて見た小学生が、父親にむかってこのような文章で話しかけたとすれば、その子供は論理的であるといって感心されるまえに社会人としての常識をうたがわれるにきまっている。常識(すなはち共通にもっている情報)でわかっているものはいちいち言明の中にいれないで、いわば暗黙の了解事項として、省略し、できるだけ短い記号の組み合せで、できるだけ多くの情報を伝えることが日常言語の合理性の一つである。・・・・・・
(山崎紀美子、日本語基礎講座―三上文法入門、2003年、214頁)
然るに、
(09)により、
(10)
(1)すべてのxについて、もしそのxが象であるならば、yなるものが存在し、そのyは鼻であり、xはyを所有しており、このyは長い
といふことは、
(1)すべてのxについて{xが象であるならば、あるyは(xの鼻であって、長い)}。
といふことであり、
(1)すべてのxについて{xが象であるならば、あるyは(xの鼻であって、長い)}。
といふことは、
(1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)}。
といふ「論理式」に相当し、
(1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}。
といふ「論理式」には、相当しない
従って、
(08)(09)(10)により、
(11)
沢田先生による、
(1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)}。然るに、
(2)兎は鼻ではなく、耳が長い。従って、
(3)象は兎ではない。
といふ『推論』は、
(1)が「訳」であるが故に、「妥当」ではなく
私による、
(1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}。然るに、
(2)兎は鼻ではなく、耳が長い。従って、
(3)象は兎ではない。
といふ『推論』こそが、「妥当」である。
従って、
(07)(11)により、
(12)
沢田先生が、
(1)象は鼻長い。      然るに、
(2)兎は鼻ではなく、耳が長い。従って、
(3)象は兎ではない。
といふ『推論』を「妥当」とするのであれば、沢田先生は、
(1)象は鼻長い。
といふ「日本語」を、
(1)∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}
といふ風に、「翻訳」せざるを得ない。
然るに、
(07)(12)により、
(13)
(1)象は鼻長い。      然るに、
(2)兎は鼻ではなく、耳が長い。従って、
(3)象は兎ではない。
といふ『推論』が「妥当」でないはずが無いし、『計算(07)』も「妥当」でないはずが無い。
従って、
(02)~(13)により、
(14)
① 象は鼻長い。
② ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}。
③ すべてのxについて{xが象であるならば、あるyは(xの鼻であって、長く)、すべてのzについて(zがxの鼻ではないならば、zは長くない)}。
に於いて、
①=②=③ であって、尚且つ、
④ 象は兎ではない。
⑤ ∀x(象x→~兎x)。
⑥ すべてのxについて(xが象であるならば、xは兎ではない)。
に於いて、
④=⑤=⑥ である。
従って、
(14)により、
(15)
① 象は鼻長い。
④ 象は兎ではない。
に於ける、
① 象は
④ 象は
は、両方とも、
② ∀x{象x→
⑤ ∀x(象x→
といふ「意味」、すなはち、
③ すべてのxについて{xが象であるならば、
⑥ すべてのxについて(xが象であるならば、
といふ「意味」になる。
然るに、
(16)
② ∀x{象x→P}
⑤ ∀x(象x→Q}
といふ「論理式」は、「形式として、正しい」。
然るに、
(17)
② ∀x{象x→P}
⑤ ∀x(象x→Q}
に於いて、
② P=∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)
⑤ Q=~兎x
といふ「代入(substitution)」を行った「結果」が、それぞれ、
② ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}。
⑤ ∀x(象x→~兎x)。
である、といふ風に、「解すること」が出来る。
然るに、
(18)
これに対して三上は、日本語には主語はない、とする。「象は」は、テーマを提示する主題であり、これから象についてのことを述べますよというメンタルスペースのセットアップであり、そのメンタルスペースのスコープを形成する働きをもつと主張する(この場合は「長い」までをスコープとする)〔三上文法! : wrong, rogue and log〕。
(19)
③ すべてのxについて{xが象であるならば、
⑥ すべてのxについて(xが象であるならば、
といふ「言ひ方」は、
③ これから象についてのことを述べますよ。
⑥ これから象についてのことを述べますよ。
といふ「言ひ方」に、「ほとんど、等しい」。
然るに、
(20)
一階述語論理は、数学のほぼ全領域を形式化するのに十分な表現力を持っている。実際、現代の標準的な集合論の公理系 ZFC は一階述語論理を用いて形式化されており、数学の大部分はそのように形式化された ZFC の中で行うことができる。すなわち、数学の命題は一階述語論理の論理式によって記述することができ、そのように論理式で記述された数学の定理には ZFC の公理からの形式的証明 (formal proof) が存在する。このことが一階述語論理が重要視される理由の一つである。この他にペアノ算術のように単独で形式化する理論もある(ウィキペディア)。
従って、
(14)~(20)により、
(21)
「英語」ではなく、
② ∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}。
⑤ ∀x(象x→~兎x)。
といふ「数学語(普遍語)」を「基準」にするならば、
① 象は鼻長い。
④ 象は兎ではない。
に於ける、
① 象は
④ 象は
に、「区別」は無い
従って、
(01)(21)により、
(22)
「常識(習慣)」として、
④ 象は兎ではない。
に於ける「象は」が、「主語」であるならば、
① 象は鼻長い。
に於ける「象は」も、「主語」である。



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