時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

グローバル化の衝撃~~繊維産業のケース~~

2005年04月06日 | グローバル化の断面
グローバル化の衝撃:激変する繊維産業(1)

 最近、東京銀座の並木通りあたりを歩くと、以前と景観が一変しているのに気づく。店の多くが外資系のファッションや装飾品関係の店になっている。とりわけ、フランス、イタリア、アメリカなどのファッション関係の店が多い。その中には、かつて調査に訪れたイギリスの名門繊維企業などもあり、驚かされた。どの店もそこそこにお客が入っているようだが、内情に通じている人の話では、どこも経営はかなり大変らしい。
 「ヨーロッパのファッション業界の苦境」という記事(注)を読んだこともある。それによると、ジバンシー、イヴ・サン・ローラン、ヴェルサーチ、ヴァレンチーノ、プラダなどの名店は、このところいずれも損失計上しており、わすかにシャネルだけが利益を上げたと書かれている。
 ヨーロッパの衣服産業は5年以上にわたり、低迷、苦境をつづけており、資本関係も変わったところが多いらしい。その背後にはなにがあるのか。実はここにも中国が大きく影を落としていることが分かった。グローバル化のひとつの現れである。

繊維製品の貿易完全自由化の衝撃
 2005年1月1日、欧米諸国を中心に設定されてきた繊維製品の輸入数量規制が完全撤廃された。その結果、世界の繊維、服飾・衣料、ファッション業界に多大な影響が出始めており、世界の繊維産業史上、最大ともいえる変化が展開しつつある。物財・サービスの貿易分野で完全に自由化されているものは少ないので、繊維産業のケースはグロバリぜーションの影響を測るについて大変参考になる。
 EUは現在の段階では繊維の主たる輸出者であり、衣服の第二の輸入者である。産業としては2003年時点でおよそ270万人を雇用し、225億ユーロ($250bill.)以上の売り上げを記録した。しかし、EUの中国からの輸入は2001-03年でほとんど倍増した。その急増の原因の一部は、10年前に始まった輸入割当制度(クォータ制)の段階的撤廃によるとみられる。WTO(世界貿易機構)は、2年以内に世界の繊維市場の約50%を中国が占めると予想している。世界中に生産・供給網を築きつつある中国は、3500億ドル規模の巨大市場の覇者となると推測されている。中国製品は、2005年末でアメリカの衣料市場の50%、EU市場の29%を占めるだろう。
 現在は欧米、日本など先進諸国向けに衣料を輸出している国は60カ国以上にわたるが、数十カ国が市場から締め出される可能性が大きいと予想されている。そのため、今後、生産コストの大幅削減、中間業者の消滅、小売価格の下落、生産拠点の集約化など、この産業には劇的な変化が起こるだろう。繊維製品は、そのどれをとってもMade in Chinaという状況が生まれることになる。
欧米諸国では、すでに労働組合やロビイストが新たな貿易規制の導入を要求し、活動をしている。その要求は、中国の競争力の秘密は、国営の苦汗労働制度、劣悪な労働環境と低賃金にあるとしている。アメリカの繊維産業の労働組合は過去3年に35万人の仕事が失われたという。
 しかし、実際には中国の優位と賃金水準の間に直接的な関連性はない。インドやインドネシア、ベトナムの方がずっと低い。シャツ1枚の生産コストに占める人件費の比率は、10%前後である。中国の真の強みは、最先端の生産設備、急成長する物流ネットワーク、不合理な数量規制を逆手にとる才覚などが重なったものとみられる。先年、上海近傍の繊維企業を見学して驚いたことがあった。最新鋭の設備と数少ない女子労働者で、高級シャツを製造しており、日本のデパートの商標から価格タグまでつけて出荷していた。その前に、日本で老朽設備のこともあって若い人が集まらず、高齢者と中国からの研修生に頼っている工場を見ていたので、時代の移り変わりのすさまじさに瞠目した。いまや、中国が生産するアパレル製品は年間200億点以上、4万社の企業が1500万人を雇用していると推定される。(画像は中国最先端の繊維工場)

数量規制の思わざる結果
 イギリスそして日本も、戦前は世界の主要な綿製品輸出国であった。競争力を失ったアメリカ繊維業界は政府に働きかけ、50年代半ばには日本政府に圧力をかけて「輸出自主規制」を設定させた。欧米諸国は開発途上国に特恵関税を与えてきた。
 その後アメリカは、1999年11月、中国のWTO加盟承認の際に、繊維製品の数量割当制(クオータ制)を中国側譲歩の一部として、アメリカと中国間で協定したものである。しかし、この仕組みは、皮肉なことに中国に対する間接的な国際援助になり、成長の起爆剤の役割を果たした。
中国産業の急速な拡大は、先進諸国の繊維・衣料産業などに多大な衝撃を与え、雇用機会の喪失など、大きな影を落としている。次回は、この点を中心に問題を整理してみたい。
(続く)

"European textiles: The sorry state of fashon today", The Economist, January 29th 2005.
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