時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

転機を迎えるEU移民政策

2005年04月13日 | 移民政策を追って
 2004年5月、念願の拡大を果たしたEUだが、懸案であった統一移民政策については加盟国の合意が得られないままに今日を迎え、厳しい試練に迫られている。加盟国の拡大によって拡大EUの国境線は、大きく外へと伸びたが、最前線では押し寄せる移民・難民の流れに対応が間に合わなくなっている。
 さらに域外ばかりでなく、域内でも加盟国間の歩調が合わず、各国がそれぞれの移民政策(入国管理政策)で対応しており、早急な調整が必要になってきた。しかしながら、移民政策は各国のこれまでの移民受け入れ状況、福祉制度のあり方などに深く係わっており、統一的な方向でまとまることができない事情にある。EU加盟の多くの国々が高齢化時代を迎えつつあるにもかかわらず、加盟国の国民は雇用、治安などへの不安から、移民受け入れの増加には警戒的になっている。
 
 本年4月に入り、EUのヨーロッパ委員会は、加盟国それぞれの実施する移民政策の他に、EU全体としての政策充実のために、今後7年間に約58億ユーロ(約8100億円)を投入する予算を提示した。
 EU本部は、近く加盟国やヨーロッパ議会の承認を得て、2007年からの中期計画に算入する。この予算は主として次の3領域に当てられることになっている。
1) 国境警備
 拡大した国境フロンティアにおける出入国管理の充実のために、約21億ユーロ(2900億円)が予定されている。実際には、旧ソ連圏、北アフリカからの不法移民の流入が多いため、その阻止のための国境パトロールの人員や発見・通報システムなどの充実に当てられる。たとえば、スペインはアフリカなどからEUに進入を図る不法移民の圧力に耐えかねて、国内にいる100万人近いともいわれる不法滞在者を一定条件の下で合法化する措置を導入した。しかし、これも一定期間に限定しての対応とみられる。
2) 本国送還
 不法入国や不法滞在の事実が判明した入国者には、厳しさの程度に差異はあるが、ほとんどの国が本国への強制送還を行っている。現在イタリアが実施しているように、無条件で直ちに送還という厳しい対応をしている国もある。こうした本国送還のために、約7.6億ユーロ(約1000億円)が投入される。
3) 域内地域社会への定着
 オランダやフランス、ドイツなどにおける移民をめぐる地域社会での紛争の増加、移民の各地域での定着促進などの目的で、17億ユーロ(2400億円)という大きな予算が計上されている。特に、治安維持関係の予算は従来の3倍以上という内容になっている。
 長い間、ヨーロッパ諸国は北米、オーストラリアなどへの移民送りだし地域という立場にあったため、アメリカなどと異なり、経済的動機に基づく移民の受け入れには消極的であった。そのため、移住希望者は事実上、不法入国して難民申請する以外に方法が見いだしがたかった。しかし、グローバリゼーションの本格的展開、高齢化の進行などに伴い、移民にかかわる問題は、ヨーロッパの基盤を揺るがしかねない重要性を持って浮上してきた。移民増加に伴う社会の多様化と社会福祉の両立をいかにはかるか、ヨーロッパの選択には引き続き注目してゆきたい。

Source: EuroActive HPその他を参考にした。


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