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幼児期の心の傷 ~大人の愛着障害~  №279 

2022-07-07 12:53:45 | 公認心理師
 愛着障害とは文字通り、幼少期の愛着形成に問題を抱えている状態の事を指します。愛着とは、幼少期に親など養育者と子どもの間に情緒的なきずなが育まれていく事です。それがなんらかの形で上手くいかず、信頼関係や親や養育者の愛情を感じられないまま大きくなってしまうと、対人関係や社会生活に問題を抱えやすくなると言われています。
 精神科医である岡田尊司先生は、「愛着を土台に、その後の情緒的、認知的、行動的、社会的発達が進んでいくからであり、その土台の部分が不安定だと、発達にも影響が出ることになる。愛着障害が発達障害と見誤られてしまうのも、一つにはそこに原因がある。」と言っています。
 子どもの愛着障害については、保育や教育などの現場で認識が普及しつつありますが、大人の愛着障害に関する研究はまだ発展途上で医学的にも確立された疾患ではありません。しかし、その困りごとや症状に、その人の抱える人間関係の悩みや困難、発達障害、他の精神疾患の合併などが隠れている可能性もあります。

<大人の愛着障害の人の特徴>
①人間関係の距離感が極端になりやすく、トラブルを抱えやすい
②自尊心や自信が持てない
③自律神経や胃腸の不調などが続いている
④発達障害と似た症状がある
 などがあります。大人の愛着障害も子どもの愛着障害と同じく、発達障害と間違えられる症状が見られることもあるようです。大人は子どもと違い、自分自身で決断して、選択しなければならない場面が多くあります。しかし、愛着障害がある人は自尊心や自己肯定感が低いケースが多いので、そういった場面でなかなか自分の選択を信じられずに苦労する事も多くあると言われています。例えば進路や、就職に関する決断です。この事から自分の人生に対する満足度が低かったり、時間をかけていたのに少しの情報で決断してしまい、損をすることもあります。
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父親不在症候群とは  №278

2020-05-28 14:11:11 | 公認心理師
 日本では子どものいる世帯のうち10分の1が父親のいない世帯だといわれています。厚生労働省の平成28年度調査によると、一人親世帯約142万世帯のうち、約87%に当たる、123万世帯が母子世帯で、平均収入は243万円です。
 父親の不在の要因は、死別や離婚、婚外子等があります。また、父親がいたとしても、仕事一筋で家庭を顧みない父親や夫婦仲が悪く子どもを顧みない父親、アルコールやギャンブル依存の父親など、心理的、機能的不在の場合もあります。
 精神科医の岡田尊司先生は、「父という病」(ポプラ社刊)の中で、経済的な問題とは別に、父親不在の家庭で育った子どもたちの精神的な困難さを「父親不在症候群」としてその問題を指摘しています。
(1)母親への依存と分離不安
  3歳児の頃に母親からうまく自立へ導かれないと、母子分離が成し遂げられず、母親に執着するし依存する一方で、母親に対して支配的で、攻撃的になり、アンビバレントな状態になる。母親にべったりになると共に、母親に対して要求がましく、それが満たされないと攻撃的となる。
(2)誇大な願望と自己コントロールの弱さ
  父親は社会的な存在として、幼児的な誇大自己を抱えたまま万能感を持つ子どもに対して、歯止めをかけ、だめなものはだめとブレーキをかけ、社会の厳しさを教える立場にある。それがないと、誇大な万能感や自己顕示性がそのまま残り、社会で適応するのが困難になりやすい。
(3)不安が強くストレスに弱い
  社会の厳しさや社会に適応する導き手であり、また保護してくれる存在である父親の不在は、生ぬるい空想の中に子どもをとどめ、社会の中で自己を確立することを困難にしがちである。
(4)三者関係が苦手で集団不適応になり易い
  複数の関係よりも一対一を好み、一対一の関係でしか、安心して自分を出せない。父親がいることで子どもは三者関係でも安心感を失わずに気持ちや行動を共有することを学ぶが、父親が、心理的、機能的不在で、母子融合の状態が続いてしまうと、自分だけを特別扱いして貰えない三者関係に強い不満と疎外感を覚えてしまう。そのため、集団不適応の原因ともなる。
 岡田先生は、他にも、「学業や社会的な成功に対する影響」や「性的アイデンティティの混乱」等の問題をあげています。もちろん、父親不在で育った人が全てこうした問題を抱えてるわけではありません。子どもの成長にとって母親の影響が大きいことは勿論ですが、父親の不在も、決してないがしろにはできないということです。

  
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薬にたよらないメンタルヘルスの改善 №275

2019-12-02 17:04:45 | 公認心理師
筑波大学文京キャンパスで行われた、日本カウンセリング学会認定カウンセラー会に出席しました。会長の飯田俊穂先生(安曇野ストレスケアクリニック)の、「脳科学の進歩とカウンセリング」の講演は大変興味深いものでした。講演の中で、イギリスにおけるうつ病治療の実験について紹介されました。
 424人の重度のうつ病患者を抗うつ薬による治療グループとマインドフルネスによる治療グループに分けて治療し、さらに2年間追跡調査したところ、2つのグルーブ間の再発率に差がないことがわかったということでした。抗うつ薬はうつ状態になりにくい状態を強制的に作り出すので、効果が期待できる反面副作用の問題があります。しかし、マインドフルネスは「今ここ」だけに集中し、心のあり方を変えるだけですから、副作用の心配はありません。
 しかし、マインドフルネスよりも、もっと高い効果を得られるのではないかといわれるのが、森林浴等による自然との触れあいということでした。アメリカのハーバード大学付属病院の調査によると、都市部に住んでいる人たちに比べて、自然が多いエリアに住む人たちのがん死亡率はマイナス13%、呼吸器疾患による死亡率は34%も少なかった。ストレスや大気汚染等のレベル等様々な要因がありますが、メンタルの改善によるところが30%程度あると推測できるということでした。私たちは自然に触れると、心が癒やされ、リラックスした気分になりますができますが、それが、科学的にも裏付けられたということでしょうか。
 日本でも、千葉大学の宮崎良文教授等のグループが、「自然セラピーの予防医学的効果について」の研究に取り組み、森の中を15分歩くだけで、都会を散歩した人たちに比べ、ストレスホルモンのコルチゾールが16%減少し、血圧は2%、心拍数も4%、それぞれ低下したということです。宮崎教授によると、人類は自然の中で長い時間をかけて進化してきたので、自然に囲まれていると体がリラックスするのだということです。
 自然と触れあうことでのリラックス効果は、メンタルヘルスの改善にも役立つということは前述の通りですが、ストレスフルな場面では、直接自然と触れあわなくても、風景写真を見たり、緑色ものを見たりするだけでも、心拍数が低下し、副交感神経の働きが高まり、リラックス効果があるということです。
 都会のマンションの一室でゲームにはまり、交感神経を高ぶらせている青少年には、せめて、プランターで観葉植物や花を育てて、こころを癒してほしいものです。
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虐待する親の心の病  №273

2019-11-06 15:15:50 | 公認心理師
 報道番組で虐待のニュースや記事を見聞すると、いたいけな乳幼児に対して、どうしてあんなに残酷なことができるのかと疑問を抱く人が多いかと思います。
 暴力や差別、怒りやストレスの発散は、より強い者から弱者に向かって行われるのが常です。会社で上司に𠮟責された人、顧客や得意先からクレームを受けた人が家に帰ると、パートナーの些細な言動にストレスや怒りを発散してしまいます。家事や子育てでストレスを抱えている弱者は、パートナーから受けた怒りの矛先に反論することができずに、つい、泣き騒ぐことで欲求を押しつけてくる乳幼児に転嫁してしまうことになりがちです。このようにして、身近な大人を頼るしか生存の道がない乳幼児が、被害を受けるはめになるのではないでしょうか。もちろん、我が子の愛くるしい笑顔に癒やされる人の方が多いかとしは思いますが・・・。
 先日(2019.11.4)の日経新聞に、虐待に潜む親の「心の病」という記事がありました。記事によると、子育てに追われ、抑うつ傾向が強いと答えた人の脳をfMRI画像で診断すると、相手の気持ちを読み取る能力等の低下が見られたということです。こうした能力の低下が起きると、家族や地域の人達に子育ての相談をしたり、互いに協力あったりしづらくなる恐れがあり、結果的に自分を追い込み、虐待につながることがあると指摘しています。
記事では、保護者の精神疾患も乳幼児虐待の重要なリスク因子であるとしています。自閉症スペクトラム症の親の場合はネグレクトに、ADHDの親の場合は身体的虐待との間に統計的に有意な関連が見られたとあります。もちろん、精神疾患が虐待に結びつくという事例はあくまでごく一部で、むしろ孤立して精神的に追い詰められるなど、様々な要因が絡むことは言うまでもありません。虐待は、保護者のSOSでもあると考え、精神疾患が潜んでいないか、追い詰められていないか、周囲の人達が気付いてやることも大切なことです。
 「虐待の世代間連鎖」ということも、よく語られます。海外の調査では虐待を受けたことのある人の3分の1は、自分の子どもを虐待するという報告がありますが、一方で3~4%でに過ぎないという報告もあります。しかし、幼い頃に実際に虐待を受けた18歳~25歳の男女の脳を調べた結果、脳の一部(感情や思考を制御する前頭前野)が萎縮していたり、共感や意思決定、集中力に関係する部分の容積が減っていたということが明らかになっています。虐待が心に深刻な傷跡を残すことは確かなことです。ただ、医師やカウンセラーによる心理療法により治療は可能であり、世代関連差のリスクを減少させることはできるのです。
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100歳の公認心理師を目指して №271

2019-09-18 15:17:42 | 公認心理師
 昨年、平成最後の年に、心理職として初めての国家資格「公認心理師」制度ができました。8年前からカウンセリングルームを開室していた私は、受験資格があることを確認し、挑戦することにしました。
 70歳という年齢を考え、ためらう気持ちもありましたが、高齢の男性心理職がいても良いのではないかと考えました。多くのことを学ぶことで視野を広げることができますし、活動の場も広がります。心の支援を必要とする人達の援助の機会も増えるのではないかと考えました。
 9月13日金曜日、8月4日に受検した公認心理師の結果が届きました。昨年はあと1点で不合格でしたが、今年は気合いを入れて頑張ったので、合格できたことを素直に喜ぶことができました。昨年に比べて難易度が高く、合格率も昨年は79.6%でしたが、今年は46.4%でした。
 歳をとると記憶力が衰えると言われますが、それよりも感じるのは情報の処理速度が遅くなるということでした。午前、午後ともに77問を120分で処理するのがかなり大変でした。
 見直している時間はほとんどありませんでした。事例問題も午前午後、それぞれ19問ずつあります。じっくり考えて判断するというより、直感的に判断するという感じです。
 医師や看護師には生命の危機を救うために、1分1秒を争う判断を求められることもあるかと思いますが、公認心理師にはむしろ、熟慮と深い洞察が求められる場面の方が多いのではないかと思います。もう少し時間的ゆとりが欲しいと思うのは、高齢者だからでしょうか。若い受験者の方の意見を聞いてみたい気もします。
 医学や生命科学の進歩に伴い、カウンセリング技法も様々な形で変化することと思われますが、高齢であることがマイナスになるとは思いません。20代の公認心理師よりも90歳の公認心理師の方が寄り添うことができる場面もあると思います。100歳でも現役の公認心理師を目指して、あと30年、多くの人達に寄り添っていきたいと考えています。
<公認心理師制度概要>
公認心理師は、公認心理師登録簿への登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいいます。
①心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
②心理に関する支援を要する者に対する、相談及び助言、指導その他の援助
③心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
④心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
<公認心理師受験資格>
① 大学において指定の心理学等に関する科目を修め、かつ、大学院において主務大臣指定の心理学等の科目を修めてその 課程を修了した者等
② 大学で指定の心理学等に関する科目を修め、卒業後一定期間の実務経験を積んだ者等
③ 主務大臣が①及び②に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認めた者
<公認心理師制の義務>
① 信用失墜行為の禁止 
② 秘密保持義務(違反者には罰則)
③ 公認心理師は、業務を行うに当たっては、医師、教員その他の関係者との連携を保た ねばならず、心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治医があるときは、その 指示を受けなければならない。
<名称使用制限>
 公認心理師でない者は、公認心理師の名称又は心理師という文字を用いた名称を使用してはならない。(違反者には罰則)
<主 務 大 臣>
 文部科学大臣及び厚生労働大臣
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