高知のむかし話/土佐教育研究会国語部会編/日本標準/1976年)
めずらしく山んばが ふくをもたらしてくれる話。
舞の川に清べえという正直者のおんちゃんが おったと。
貧乏で子どもが五人。それでも正月にもちだけでも食べさせようと、いつも暮れの28日に餅つきをしていた。
ある日、ひとうすつきおわったとき、みょうなばあさんがはいってきて、餅つきを手伝わしてくれという。ばあさんは手際よく餅団子をつくり、つぎのをつくよう催促します。清べいが、お礼につきたてのもちをあげようとすると、一升の餅をくれといい、毎年暮れの28日に やってきたいという。よろこんだ清べいは、「わしのほうからたのみたいもんじゃ」と約束します。
それから十年の月日がたち、清べえの家は、幸せが続き、立派な家がたち、大きな倉もつくったと。そしたら、清べえは人が変わったようになり、自分の得にならんことはやらんようになり、家の人や奉公人をわけもなく、大きな声で怒鳴りつけるようになったと。
十一年目の暮れ。金もたまり長者になったのは、自分が一生懸命働いたからで、どこの馬のほねかわからない きたないおばあさんがやってくるのは 馬鹿らしいと 約束の28日ではなく、一日早い27日に、餅つきをすましてしまいます。
暮れの28日は、今までになく大雪が降り、冷たい風がびゅうびゅうふくいやな日。いつもの約束の時間にやってきたおばあさんは、「おまん、とうとう約束をやぶったのう。わしは、この先にすむ山んばじゃが、もうこれまでよ。もうこれまでよ。」と言い残し外の方にでていった。
それからは、清べえの家は、病人がつぎからつぎへと出るし、思いがけないことに金の入り用があったりして、しまいには、なんものうなってしもうたと。
自分の力だけと思いがちだけれど、学校では教師、会社では同僚、さらに友人と 周りの人から育てられていることを忘れてはならない。