どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

モイラの水・・シチリア

2022年10月03日 | 昔話(ヨーロッパ)

     シチリアのメルヘン/シルヴィア・シュトゥダー=フランギニーノ・カンパーニャ・編 あべ ゆり・訳/花風社/1999年

 

 王さまが大事にしていた一本の果物の木が丸裸になっていました。王さまが三人の王子の意見を求めると、一番上の兄が見張りに立つことに。

 夜になり庭に腰を下ろした王子は、眠気に襲われ、目覚めたときにはもう日は高く、別の木がまた一本、丸裸になっていました。二番目の王子が見張りに立ったときも同様でした。

 つぎの末の王子は、腰を下ろさず、庭の中を歩き回って見張っていました。夜も更けたころ、巨人の大きな腕があらわれ果物をつかみ取ったとき、王子は、剣を抜き、大きな腕を切り落としました。姿を消した巨人の血のあとをおいかけると、ある井戸のふちまで つづいていました。

 翌日、巨人を退治するため、三人の王子は、長い縄を一本、それから小さな鐘をひとつ用意すると井戸へ出かけます。深い井戸を見た上の二人の王子が尻込みしたので、末の王子が体に縄を結びつけ井戸の中へおりていきました。深い深い井戸の底につくと、そこにはすばらしい庭園がひろがっていて、三人の世にも美しいおとめが立っていました。むすめたちに案内されて巨人が寝息を立てているところに忍び寄った王子は、ほんのひと振りで頭を切り落としてしまいました。

 三人のむすめは、王家の血をひいていました。この井戸からむすめが引き上げられますが、昔話の定番通り、末の王子は井戸の底へ置き去りになります。末の王子はとりあえず巨人の館を探検しますが、ここで一頭の馬に合います。

 一方、王さまは末の王子が戻ってこないことを悲しみ、昼夜嘆き続けたので目が見えなくなってしまいます。お医者が言うことには「モイラの水」で目を洗うと、ふたたび光が見えるというのですが、水のある場所がわからず、ふたりの兄が水を探すにでかけます。

 さて末の王子は、馬から、王さまが目が見えなくなったこと、モイラの水は、この馬の姉で女神モイラのところにあることを聞き、モイラの女神のところへ出かけます。そこまでいくため、勢いよく開いたり閉まったりする扉、大きなはさみがちょきんちょきんと刃を鳴らしているところ、二頭のライオンの間をすり抜ける必要がありました。

 馬の指示通り、この三つの関門をとおりぬけると、噴水のある美しい庭園にたどりつきます。小瓶を取り出し噴水の下に立て、ザクロの実を三つ摘み取った王子が宮殿のなかにはいると、女神モイラが七枚のベールに包まれて眠っていました。そのうつくしさに、思わずくちづけをしてしまいます。そのときなぜか突然いてもたってもいられなくなった王子は、ベールと小瓶をつかむと馬にまたがり、宮殿から走りだします。

 目を覚ました女神は、二頭のライオンと王子を追いかけました。ここからおなじみの逃走がはじまり、王子がザクロの実を投げると、血の河、イバラで覆われた山、激しく燃える山があらわれます。二頭のライオンは燃える山で焼け死んでしまいます。

 このあと、「モイラの水」を探していた上の兄たちとあい、せっかく探した秘薬を兄たちに渡してしまいます。それというのも、馬がそうするよう言ったのです。

 王さまの眼が治ったころ、馬は魔法で大勢の従者たちをつくりだし、王子とともに父親の王国へ向かいます。

 ここでも兄たちとあい、捕らわれますが、馬とともに、牢屋に入ると、どうしてもというので馬の体をナイフで切り裂きます。すると、突然ひとりの麗しい若者があらわれました。若者は女神モイラの弟で、魔法をかけられ馬に姿を変えていたのです。城門までたどりついたふたりは、魔法の力で軍隊を手に入れると、街に猛攻撃をかけました。臆病な兄たちは、すぐにひれ伏し許しをこいます。

 ようやく目が見えるようになった王さまと再会した末の王子が喜びにひたっていたとき、どこからともなく美しい女性が現れました。女神モイラでした。そして、ベールをとり、くちびるまでうばった末の王子が、自分の夫、偉大なる王となるものと、宣言し、末の王子は、女神の国を治めることになりました。

 まだ末のむすめがいました。(いつのまにか王女になっています)。この王女は、女神モイラの弟の妻となり、王さまの国を継ぐことになりました。

 

 端折りましたが、だいぶ長い話。三人の王子、三人の王女、三つの難関と、まさに昔話のパターンです。

 「いやはや、なんともうらやましいかぎりのお話ですね」と、結びます。