しっぺいたろう/香山美子・文 太田大八・画/教育画劇/2000年
旅人のぼうさんが、ある村にやってきます。
とりいれも無事すんで、秋祭りの支度の時期なのに、村の人々は みんなうつむいて、しおしお。ぼうさんがわけをきくと、山の社の神さまに、娘を差し出さなければという。
ぼうさんが、ばけもののしわざにちがいないと、社に出かけ、かくれてみていると、ざざざと 山が揺れるような 風が吹いたと思うと、おおきなものが 木の上から ふってきました。ばけものでした。
ばけものは、”ふるいけ ふるさわ ふるかいどう たんごは あまの はしだてで これで こっきり わしらの ことは たんばのく にの しっぺいたろうにゃ きかせるな”と歌い、そろって おどりはじめました。
ばけものたちは いばっているが しっぺいたろうという ひとが よっぽどこわいとみえると思ったぼうさんは、娘を人身御供にださずにまっているようにいって、丹波の国へいって、しっぺいたろうを 捜し歩きました。ところが、だれにもしらないといわれ、つかれでうとうと ねむっていると だれかが 呼ぶ声。
わけをはなし、じいさまとまごから しっぺいたろうを かりると ぼうさまは むらへ もどりました。
なかなかぼうさんがかえってこないので、おとうと おかあが なきなき 娘を つれていこうとしたとき、しっぺいたろうとぼうさんがやってきました。
しっぺいたろうは、化け物どもとたたかいます。
むらのひとびとが、ようすをみにきてみると、そこにはおおきな ひひが さんびきもたおれていました。窮地を救われたみんなでしたが、坊さんと しっぺいたろうの姿をみることは できませんでした。
坊さんと しっぺいたろうが、何も告げずに去っていく最後は、まるで映画のヒーローのようです。
「しっぺいたろう」は、じつは 仔牛のようにおおきな白い犬。
しっぺい太郎伝説の原典は「今昔物語」にあって、山犬(狼)信仰ー農作物の守護神ーと関わりがあり、青森から鹿児島までの各地に広く伝わっているといいます。
・しっぺい太郎(茨城のむかし話/茨城民俗学会編/日本標準/1977年)
絵本の方が先になりましたが、茨城におなじ話がありました。こちらは坊さんではなく、役人。
化け物が出るというお宮で”丹波の国のしっぺい太郎に、かならずこのこと聞かせるな。ドットコドのド。ドットコドのド・・・。”という声を聞いて、丹波の国へいって、しっぺい太郎を借り受け、村へもどった役人。
人身御供の娘の代わりに、箱の中に役人としっぺい太郎がはいって、化け物のところへ。
化け物は、でっかいサルでした。
茨城から丹波(京都)へいくのも大変そうですが、すぐに着くというのもお話の世界です。
原典が今昔物語だと、もっと各地にありそうです。
・しっぺい太郎(静岡のむかし話/静岡県むかし話研究会編/日本標準/1978年)
おぼうさんが、「こよいおらっちにの このことは 信州信濃の光前寺 しっぺい太郎にゃ しらすなよ」という、化け物どもの歌を聞いて、信濃で しっぺいたろうを借りてきて、化け物と たたかいます。ただ、太郎は、たたかいのあと 息をひきとります。