■大前研一ニュースの視点 より
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
8月の景気動向指数 前月比1.4pt低下カジノ法案迷走
日経新聞
-------------------------------------------------------------
▼ ついに、アベノミクスのメッキが剥がれてきた
-------------------------------------------------------------
内閣府が発表した8月の景気動向指数(2010年=100)速報値は、
景気の現状を示す一致指数が108.5と、前月に比べて1.4ポイント下がりました。
景気の基調判断は「足踏み」から4カ月ぶりに下方修正し、景気後退の可能性を示唆する
「下方への局面変化」とし、増税に天候不順が重なり、景気は2月から8月まで短期の
「ミニ後退」になったとの見方が市場関係者に出ています。
これまで散々と、4月から6月期は下がっていても、7月~8月には挽回すると
述べていたエコノミストがいますが、現実はこの通りです。
「足踏み」から「下方への局面変化」などというのも、
単なる役人言葉で全く意味が無いと私は感じます。
天候不順の影響はあると思いますが、それよりも「心理的な」側面のほうが重要です。
国民が身構えて、消費心理が冷え込んだというのが一番大きな要因です。
アベノミクスと騒がれていましたが「結局、自分の生活がどのように具体的に良くなるのか実感できない」
という人がほとんどでしょう。
おそらく今後の数ヶ月で、「アベノミクスは失敗だった」と言われる時期が来るはずです。
東京オリンピックまでは首相を続けると表明していますが、
安倍首相にとっては大きな逆風が吹き荒れることになります。
アベノミクスの最大の問題は、3本目の矢である「成長戦略」が全く機能していないことです。
私に言わせれば、「形容詞」が多すぎて、何ら具体性がありません。
「女性が輝ける」「若者が行きたくなる」などと耳障りのいい言葉を並べても、
ただそれだけで景気は回復しないのです。
ついに、アベノミクスのメッキが剥げかけてきているのを感じます。
-------------------------------------------------------------
▼ カジノは儲かるというのは、大きな幻想
-------------------------------------------------------------
カジノを中心とした統合型リゾート(IR)を推進する法案を巡り、
推進派の国会議員でつくる「国際観光産業振興議員連盟」が迷走しています。
利用者をいったんは外国人に限定するとしていましたが、
一定の要件を満たせば日本人も利用できるよう再修正する方針を決めたとのことです。
私が15年ほど前に提案したのは、米軍が所有している「横浜ノースドッグ」でカジノを開くというものです。
カジノの主催を米国ということにして、日本人の入場者は
パスポートを必要とするというルールにすれば良いと提案しました。
場所としても、瑞穂埠頭・桟橋付近は、利用されていなかったので、
施設を一新してカジノを作るにはうってつけでした。
カジノを巡る問題として、パチンコと同様に、国民の生活が乱れるという懸念があります。
シンガポールのカジノでは、同様の懸念への対処として、
シンガポール人はお金を払わないとカジノに入れないというルールを作っています。
日本でも見習って、日本人が気軽には入れないように課金するなどの
工夫をするべきだという意見が出てきました。
しかしこうなってしまうと、「そもそも日本でカジノを作る意味があるのか?」という話になります。
そんな話もあって、カジノ法案というのは迷走、後退しているというのが現状でしょう。
ただし私がより本質的な問題として指摘したいのは、「カジノは儲かる」というのが幻想だということです。
カジノを作って経済的な効果として成功したのは、米国のネバダや香港のマカオを見ても、「他に何もない地域」です。
そのマカオでも、カジノは急失速していています。かつてはマネーロンダリングを巧みに操る
中国人が大量に押し寄せていましたが、最近ではめっきり中国人が減ってしまいました。
すると、一気にカジノは斜陽産業に成り下がってしまいました。
同様の現象は、マカオに限らず、オーストラリアのケアンズやタウンズビルなど、
他の場所でも見受けられます。
カジノが儲かると思っている時点で、少しズレています。
もし日本にカジノを作ったとしても、一般人の感覚で考えられないような
高額なチップを賭けてくれる「おかしな中国人」が来てくれなければ上手くいきません。
地域振興に役立つなどと言われていましたが、ようやく何の関係もないと気付き始めたというところでしょう。
※この記事は10月12日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し、
『 大前研一 ニュースの視点 』メールマガジン向けに編集しています。