医科歯科通信  (医療から政治・生活・文化まで発信)



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パートナーさがし

2014-10-13 11:02:51 | 創作欄
銀司は妻をがんで亡くしてから外で酒を飲み歩くことが多くなった。
寂しかったのである。
60歳の銀司には2人の娘がいたが、長女のさくらは36歳で独身。
次女のぼたんは結婚してわずか7か月で離婚し、32歳の今日、長女と取手駅から徒歩5分のマンションで同居していた。
2人はともに看護師であり、地元の病院に勤務していた。
そして休みの日は宗教活動に熱心であった。
銀司は神も仏もないと言って憚らない、いわゆる無神論者であったので、2人の娘を「バカな奴らだ」と冷ややかに見ていた。
一方、娘たちは「お父さんは地獄に堕ちる」と突き放していたのだ。
銀司はスナックで出会った里見良太から「中高年限定のお見合いパーティーに、一緒に参加してみないか?」と誘われた。
「お見合いパーティー? 婚活かね?」
「婚活とも限らない。恋や愛は年齢には関係ないからね。出会いの場なんだ」
「行ったことあるんだね?」銀司は関心を示しながらグラスの酒に口をつけた。
里見はカラオケのポロモーションビデオに目をやっていた。
古風な宿の窓から和服姿の女が海峡を見詰めていた。
「パートナーとあんな和風の宿に行ってみたいな」と里見はつぶやいた。
「女の海峡」を常連客の南公子が歌っていた。
夫を交通事故で亡くしてからスナック「武蔵野」へ姿を見せるようになった女であり、銀司と同じ新道地区に住んでいた。

年金生活者の銀司

2014-10-13 06:25:22 | 創作欄
銀司は今年4月から完全な年金生活者になった。
それまでは月額5万円であったが収入を得ていた。
その5万円は小遣いであり、友人たちと会って飲み食いに使えた。
だが、定期的な収入を失うと改めて年金生活者の現実に身を置かれことを余儀なくされた。
年金支払額は、2か月に1回振り込まれている。
その支払額は24万9583円。
介護保険料額8100円と国保保険料額1万2900円が差し引かれているのだ。
そこで銀司が得ている年金は月額11万4000円余であった。
銀司は働きに出たいと思っていたが、70歳を過ぎているので雇ってくれるところはない。
本気で仕事を探せば、あるいは見つかるかもしれないが、その気になれない。
遊びグセも付いていたし、厄介な問題も抱えていた。
銀司の個人的なブロが問題となり、京都の事業者から「業務妨害ならびに名誉毀損」の民事訴訟で、被告の身となってしまったのだ。
請求額は1000万円であった。
10万円で示談に応じると先方は言ってきたが、銀司はその10万円を払いたくなかった。
腑に落ちなかったのは、経営者本人ではなく従業員の一人からの電話であった。
「何で、こんなことになったんだ!」銀司は憤り、その爆発しそうな感情を酒で紛らわせる日々となった。
銀司の妻は57歳で子宮がんを発症し、3年の闘病生活の末に最後は肺にもがん転移し肺炎で亡くっていた。
銀司は朝晩、仏壇に水の代わりに日本酒を供えていた。
妻の照子は日本酒が好きであったのだ。
「照子、明日は京都地裁へ行ってくるよ。京都の美味しい酒を買ってきてやるからな」銀司は仏壇に語りかけた。