経済に関する経営者のまともな意見が、久しぶりに毎日新聞に掲載された。
見出しは「民主党政権に直言・斬新な公共投資が必要 出井伸之」というものである。
出井氏が主張していることでなるほどと思ったことは以下のとおりである。
◆鳩山政権が最優先すべき課題は、金融の目詰まり解消と景気対策である。返済猶予の是非は別にして、亀井静香金融担当相が貸し渋りを問題にしているのは正しい。
◆経済が好調な時は、小泉政権のような構造改革路線が正しかった。
だが、リーマン・ショックで状況は一変した。郵政民営化見直しを含め、路線転換は理解できる。
◆雇用不安の中、子ども手当などを配っても貯蓄に回る。
一方、自民党政権時代のようにトヨタ自動車やソニーなどの国際企業を支援しても、投資資金は成長余地の乏しい国内ではなく、海外に流れる。
今の経済を下支えできるのは政府だけで、公共投資をタブー視すべきではない。
◆中国に引っ張られて日本経済も持ち直しているというが、私が親しいアジアの有力な経営者はみんな中国のバブル崩壊を懸念している。
世界経済の二番底シナリオは十分あり得る。政権中枢は民間の声をもっと聴いて、景気の実態を、正しく把握してほしい。
これらのこと、特に「トヨタ自動車やソニーなどの国際企業を支援して
も、投資資金 は成長余地の乏しい国内ではなく、海外に流れる」のくだりは、ソニーの社長、最高経 営責任者(CEO)を10年間やってきた出井氏だけに重みのある意見である。
反対に出井氏の意見で疑問に思ったことが2点ほどある。
1つは必要な公共投資を斬新な公共事業としていること。
確かに斬新な公共事業というのはマスコミ受けはいいかもしれないが、公共事業の中にも耐震工事、橋梁やトンネルの補修等のように最低限必要な公共事業が多々あるわけで、これらを排除してはいけないと思う。
豪雨災害で有名になった山口県防府市のように、事故が起きてから「砂防ダムをどうして作らなかったのか」と言われても困るのだ。
学校が倒壊してから騒いでも遅いのだ。
現状は公共事業予算が削られ、地方交付税も大きく削減されているた
め、こうした事業はまともに進められない現状なのだ。
2つ目は「経済が好調な時は、小泉政権のような構造改革路線が正しかっ た」としていること。
小泉政権はろくな改革を行ってきた。
都市部の建築基準法に係る容積緩和、真の地方分権、補助金行政の廃止など、真に必要な改革などは何一つ行っていない。
需要がなくなる改悪ばかりで、むしろ何もしなかった方が日本経済は血を流さずにすんだはずである。
しかしながらこれらの点に目をつぶっても、出井氏の意見は財界人として久しぶりにまともなものだと思う。