「小さな政府(小泉構造改革)」=格差社会

格差問題を中心とした考察 ※コメント、トラックバックは受け付けません

日本に続き20年ぶりに米国でバブル崩壊  公的資金を躊躇う理由

2008年09月18日 | リチャード・クー氏

リーマン・ブラザーズが経営破綻する前後にリチャード・クー氏がNIKKEI NET(日経ネット)に「なぜ米政府はサブプライムで銀行救済に乗り出さないのか」という寄稿をされている。

その原因が日本の宮沢元総理にあるという話は興味深い。

 

寄稿文を引用すると、

1992年に宮沢喜一首相は「早く資本投入をして、公的資金で銀行の問題を片付けなければならない」と発言した。

その結果、何が起きただろうか?
日本中から「銀行を救うなんてとんでもない」という凄まじい銀行叩きが始まったのだ。
一部のマスコミが先導し、それに日本中が乗って国民的スポーツの様相を呈した。

その結果、宮沢氏はその決定を取り下げなければいけなくなり、その後、日本の政治家は誰一人としてそれを言えなくなってしまった。タブーになってしまったわけである。

そこから6年間、日本は結局何も出来なかった。日本の場合、銀行の貸し出し態度は極めて積極的だったので、銀行に問題があっても、経済に実害があったわけではない。
しかし、その間も不良債権は増え続けた。
そして、1997年に貸し渋りが発生して、ようやく国民がその痛みを感じた
そこで、やっと資本投入の話が出てきて、第一次資本投入となった。

このように、政府による資本投入というのは、国民が痛みを感じるまではきわめて難しいのである。


そして、今の米国も全く同じ状況である。ウォール街の人達の給料と米国の平均給料の差額というのは、日本の100倍くらいある。
「あの高給取り連中を救うために、なぜ一般の人々の税金を使わなければならないのか」
という声が出てしまうと、出来ることも出来なくなる。


おそらくポールソン財務長官もこれをわかっている。間違ったタイミングで喋ったら、出来ることも出来なくなる。だから今は喋れない。
自分から「やりましょう」とは言えない。
実際にはベア・スターンズ救済の件で、当局の金がかなり入っているのにもかかわらず、である。

【所感】
米国政府はリーマンは切ったが、さすがに金融恐慌を引き起こす可能性のあるAIGは切れなかった。

さりとて全面的な公的資金投入を実施したわけではない。

したがって、米国のバブル崩壊は日本同様に続くことになる。

 


小泉構造改革の理論的誤り

2007年07月17日 | リチャード・クー氏

リチャード・クー氏は著書の中で、小泉・竹中コンビ構造改革(供給サイドの改革)を推進する上で参考にした1980年代アメリカと、日本との経済環境の違いを分かり易く説明している。

要約すると次のとおりとなる。

【当時の米国の状況】 → 短期金利22%、30年国債利回り14%
(需要>供給でインフレ)  貿易収支は大幅な赤字、ドルは暴落寸前

日本経済の状況】      →  10年国債利回りでさえ1%台という状況
(需要<供給でデフレ)    貿易収支は大幅な黒字、円は常に円高
                                   基調
 

このように当時のアメリカやイギリスと正反対の状況下にあった日本において、小泉・竹中コンビは、需要を大きくするのではなく、供給側を絞っていく暴挙に出た。
これが構造改革の理論的誤りである。

このことに多くの日本人は気がついていない。
経済学者でさえこの誤りを指摘できないのであるから、仕方ないことであろう。


ただ、過去の歴史が語るように、国民の多く何か(この場合「改革」)に熱狂している場合は間違った方向に進んでいることが多いものである。

また、このとき国民を間違った方向に導くのはマスコミ(大新聞、中央テレビ局)である。

例としては 第二次世界大戦」
        「日米安保闘争」
               「石油ショック時の買い占め」
               「金融機関(不良債権)処理」
               「短絡的な規制緩和」
        「郵政民営化」 

などが上げられる。

マスコミは、国民に歯止めをかけるなど役割を果たすどころか国民を煽っていた。


リチャード・クー氏は、「小泉氏の構造改革には恐ろしく非効率な土地利用を是正することは含まれていない」としている。

クー氏によれば、「大胆に土地の有効利用を促進することが今の日本の需要不足を解消する最善策」となるのである。

有効利用を促進する真の構造改革として「建ぺい率・容積率制限」「日照権の問題」「借地借家法」などの規制緩和が挙げている。

確かにこういった真の構造改革がなされていれば、日本は超円高に悩まされることもなく、海外への工場移転や偽装請負といった格差を生み出すような方向へは進んでいなかった可能性が高い。

 「第一章 日本経済が陥っているバランスシート不況より p26~28」


デフレとバランスシート不況の経済学(リチャード・クー著)

2007年07月08日 | リチャード・クー氏

2003年10月31日に初版された、リチャード・クー氏のビジネス書である。

この著を読むことは、大学の講義でマクロ経済に関する授業を学ぶよりも為になること間違いない。

ケインズ経済を学んできた私には人生最高の教科書となった。


著名人等の本書に対する評価(ライナーノーツから)

ソニー会長(CEO) 出水伸之
「本書は、景気後退という日本を長年苦しめてきた重い病に対する画期的な診断書である。リチャード・クーは、日本経済、そして同じ症状に苦しむ国々の経済を独自の角度で解剖してみせる。」


前FRB議長  ホール・ボルカー

「リチャード・クーは強い危機感を持って、日本経済の将来をめぐる積年の議論に斬新かつ不可欠の視点を提供している。」


元内閣総理大臣中曽根康弘

「本書が指摘するように、日本は歴史的な経済実験を挙行しており、その成功は一国のみならず全世界の利益につながる。バランスシート不況に対するクー氏の洞察はまことに深く、未曾有の不況のさなか、この実験を放棄することの危険を政府と国民に訴えるその勇気は大いなる賞賛に値する。」


元ニューヨーク連銀総裁、元米国財務省次官 アンソニー・M・ソロモン

「世界的なバランスシートの毀損-そして90年代のゼロ成長期におけるその重要な役割-」に対するリチャード・クーの分析は、挑発的でありながら説得力に富む。日本の金融システムおよび経済全般の現況を”バランスシート不況”という概念で切り取ったその手際は、あまたのマクロ経済的解釈と明確な一線を画している。氏の分析は、とかく批判に曝されがちな日本政府の財政政策に、興味深いお墨付きを与えることになるだろう。」


『DIE ZEIT』紙(2003年41号)書評
「リチャード・クー氏の今回の著作は、これまで日本経済について書かれた本のなかでも数少ない説得力にあふれた分析の一つになっている。デフレ、マーストリヒト条約、需要政策などをめぐるヨーロッパの議論にとっても時宜にかなった著作である。マクロ経済を勉強するあらゆる人に必読である。」