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実はケンの映画でもあった…映画『バービー』

2023-08-12 | movie/劇場公開作品

■8月12日(土)■

連休になったので、金曜日に日本公開されたばかりの
グレタ・ガーウィグ監督、マーゴット・ロビー出演の映画「バービー」を見てきました。

映画『バービー』日本版本予告 2023年8月11日(金)公開

7月13日にハリウッドで俳優労組と脚本家組合がストライキに突入した後、
クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」と同時期に公開されたため、
ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」に主演するトム・クルーズの呼びかけで、
海外では「バービー」も「オッペンハイマー」も見に行こうという盛り上がりがありました。

そこから#バーベンハイマー というハッシュタグに派生して、二つの作品の合成アートがミーム化。
ノーランの方は“原爆の父”であるオッペンハイマーの映画であるため、
バービーの弾けるようなハッピーなヴィジュアルと、キノコ雲を使った配慮に欠けたミームが出回るようになり、
アメリカのWBツイッター(現X)公式アカウントがそれに便乗するようなリプライをしたことで
日本で「不謹慎である」と批判の声が高まり、日本の公式からお詫び文が発表されたのが記憶に新しいですね。

正直、私もバーベンハイマーは全く笑えないし、度が過ぎていると思っていましたが、
最近の「レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」と同様、
グレタ・ガーウィグ監督は今回もリアルな女性の機微を描いてくれているであろうし、
製作者としてのマーゴット・ロビーの活躍も読んでいたので、映画自体は期待して公開を待っていました。

この映画でのバービーは、バービーランドという完璧な世界に暮らしています。
(一部の商品化されたキャラクターを除いて)みんな名前がバービーなので、
お互いをバービーと呼び合いながら、ピンク色で彩られたポップな街の中で幸せで完璧な生活を送っているのです。
大統領も最高裁判事も医者も弁護士も道路工事の作業員もみんなバービー。
バービーの相手役のケンもさまざまなタイプが存在しているけれど、彼らはバービーの添え物に過ぎません

マーゴット・ロビー演じる定番バービーも、この世界の中で何の疑いもなくハッピーに過ごしていましたが、
ある日突然「死」について考え始めたり、ハイヒールの似合わない「べた足」になってうまく歩けなくなってしまいます。

バービーのお直し担当のヘンテコバービーケイト・マッキノン)に相談すると、
人間のいる現実世界に行って、自分の持ち主に会い、問題を解決する糸口を探るしかないと助言を受けます。
困惑しながらも、現実社会の女性たちに希望を与えてきたと信じる定番バービーは
人間たちに歓迎されるに違いないと、気持ちを入れ替えて意気揚々と出発。
しかしそこにケンの一人(ライアン・ゴスリング)もついてきてしまい…

 

◇◇◇ここからネタバレを含みます◇◇◇

私はてっきりこの映画でバービーが女性の自立を体現してくれるのだと勝手に思っていたのですが、
蓋を開けてみたら、ケンの自立のための物語でもあったのでビックリしました。
バービーランドの中でのケンは、仕事もなくバービーに惹かれているだけでいいお飾りの存在。
つまり、現実社会において女性が求められてきたような立場

序盤のバービーランドは、女の子にとっての理想郷なのかと思いきや、
全てを女性が統べていて、ビーチにいるただのバービーの引き立て役でしかないケンにしたら、実はとても不平等な世界なんですよね。
だから人形の世界であるということとは別に、ものすごく違和感がある。
男性女性問わず、ここで違和感を感じるのが本来当然なんですよね。

定番バービーはケンの気持ちを蔑ろにして毎日ガールズパーティーに明け暮れていて、
毎日飲み会だからと家族をおいて家に帰らない夫ムーブのようにも見えたりします。

そんな、定番バービーについてきたケンは、現実世界で男たちが活躍している姿を見て当然感化され、
先に元の世界に戻って他のケンたちを鼓舞し、バービーランドをケンダムランドとして支配し始めます。

一方、定番バービーは持ち主である女の子を見つけ(彼女のバービー評は辛辣で小気味よく感じた)、
母親であるマテル社の秘書グロリアアメリカ・フェレーラ)が描いた普通の悩みを抱えるバービーの姿が、
定番バービーに変化を及ぼしたことがわかると、母娘をバービーランドに連れて行きます。
そこで直面するのが男性社会に目覚めたケンたち。
家をケンに奪われ、それぞれの仕事を持っていたバービーたちがただの給仕係に満足しているのを見た定番バービーは絶望し、
自分がもう完璧なバービーではないことにも打ちひしがられます。

しかし、定番バービーを立ち上がらせようと、グロリアがどれだけ女性たちが我慢を強いられてきたかを訴えると(ここが一番の名シーン)
理性的な言葉でケンたちに洗脳されていたバービーが正気に戻ることがわかり、
ヘンテコバービーたちと協力してケンダムランドを元のバービーランドに戻す計画を立てることに。

全てを取り戻した後、定番バービーはケンにこれまで蔑ろにしてきたことを謝り、
バービーの相手役ではなく、ケンはケン自身でいていいのだと語りかけます。

前評判からフェミニズム映画とか女性の自立映画とか言われてましたが、
この映画で大事なのは、「男社会」だとか「女性の自立」ということ以上に、
「自分も相手も軽視しない」ってことだと思うんですよね。

ケンがこれまでただのビーチの人に甘んじていたのも、
ケンたちに洗脳されて、ウェイトレスも楽しいじゃん?とバービーたちが思い始めたのも、
定番バービーが自分が完璧なバービーではないことを責めるのも、
本来の自分を認めない=自分を軽視している状態

同時に、バービーがケンの気持ちを受け入れないことや、
バービーランドにおいてバービーだけが有力者として活躍していることや、
ヘンテコバービーを他のバービーが貶していることは、他者を軽視している状態

最後にはこの隔たりを埋めようとし始める(でも完了した訳ではなくその途上である)のがこの映画の良さだと感じます。
つまり人権を守る最低限の基本を教えてくれていると言うことなんですよね。

そして、ひとりの女性として歩み始めた定番バービーの最後の一言
あの一言に、女性の喜びや痛みが苦しみが全て含まれていて、
劇場を出た後に思い出してちょっと涙が出たりしました。
そこまで感じ入るのは私だけかもしれないけれど…
私は母を病気で亡くしているのですが、そのことを否応もなく思い出してしまいます。

それにしても、基本的には表層がおもちゃの世界の軽いノリであるのに、
その根底に不平等や自他に対する蔑視という重いテーマも感じるという、
ちょっとアンバランスで落ち着かない映画でもありました。

 

…余談ですが、この映画を見ながら、
先日見終わって、今でも頭から離れないグッド・オーメンズ2との意外な親和性を感じて面白かったです。
いつも飲み物は飲んだふりだけしていたバービーが、現実世界で紅茶をうまく飲めなかったりするのは、
天使のムリエルがアジラフェルに薦められた紅茶を飲めなかったことを思い出すし、
ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」のドラマ版を何度も見直すバービー、なんて言及が出てきたのは笑ってしまいました。
わかる、辛い時には水に濡れたコリン・ファースが見たくもなるよね。
「神の世界/バービーの世界(理想?世界)」と「現実世界」の隔たりの話でもあるからでしょうかね。
それに「グッド・オーメンズ」の天国も、そんなに文字通りの天国でもない訳で、
もしかすると、次のシリーズでは定番バービーのように、アジラフェルが天国を改革してくれるのかもしれないです。


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